第259話 新人魔法少女、滾る 上
社長との異世界出張の合間にも、新人魔法少女である小山内美祢ちゃんの現場投入は着々と進んでいる。
『装備課』の三木主任によれば、すでに魔法少女衣装の合わせと武器の選定は終わっており、あとは実際に装着したり武器を試したりして最終調整を行う段階だ。
そしてその最終調整には、『別室』の面子……つまり俺が立ち会うことになっていた。
「どう、美祢ちゃん。身体でキツかったり動きにくかったりする箇所はない? 言ってくれればすぐに調整するっスよ」
「いえ、完璧です。調整済みの魔法少女衣装って、こんなに動きやすいものなんですね……!」
場所は『装備課』のラボ内、時刻は夕方。
今は三木主任が調整をした魔法少女衣装を、学校帰りに会社に立ち寄った美祢ちゃんが装着したところである。
美祢ちゃんは自分の姿を壁面に立てかけられた大きな鏡で確認して、嬉しそうな様子でくるりと回って見せた。
ゆったりとした衣装がふわりと揺れる。
彼女の衣装は他の子らとは少し趣が異なり、魔法使いのローブのようなものだ。
とはいえもちろん魔法少女衣装だけあって(?)、ただのローブのデザインではない。
具体的には露出が『やや』多い。
つまりは夜会服のように肩や背中がでていたりローブの腰回りに深いスリットが入っていたりと、彼女の年齢からすると少々大胆過ぎるのでは? と思わなくもないデザインである。
ただ戦闘においては、ローブの長い裾は足回りの動きの妨げになるのは間違いないので、スリットが入っているのは実用性重視という見方もできなくもないが……肩と背中が出ているのはどういう効果があるのか。
身体の冷却用だろうか?
ちょっと大人っぽい可愛らしさといえばそうなのだが、それ以上の意味をまったく見いだせない。
まあ、魔法少女衣装のデザインに合理性を求める時点で俺の方が間違っている気がするが。
ちなみにこれらのデザインは、美祢ちゃんの希望をもとに三木主任がデザインを行ったものだそうだ。
聞くところによれば、三木主任は魔法少女を引退した直後は一時期普通に就職して、アパレル関係の会社でデザイナーやイラストレーターをやっていたことがあったそうな。
ゆえにクライアント=美祢ちゃんの希望をうまくデザインに落とし込むことも楽勝だったとのこと。
確かに、魔法少女ごとにしっかりとしたコンセプトを元に衣装がデザインされているなぁとは思っていたが……元服飾デザイナーが関わっているならば納得である。
ちなみにそれまでは魔法少女衣装をふくめ武器やら魔道具の開発は、社長が担当していたそうが、三木主任の前職の経歴と趣味であるバイクいじりが社長の耳に届き、それ以来開発周り全般を任されることになったとのことだった。
なんというか、会社で自分の人生を満喫しているタイプのように見えてとても羨ましい。
……などと脳内で考え事をしていると、ふと三木主任と目が合った。
彼女は何か言いたげなジト目を寄越してきていた。
「ちょっと廣井さん、美祢ちゃんの魔法少女衣装のお披露目式ッスよ? なんか……なんかないんスか?」
「なんか、と言われましても……あぁ」
一瞬緊張が走るが、すぐに彼女の言わんとしていることに気づく。
美祢ちゃんはまだ子供だが、それでも女性が新しい衣装を身に着けているのだ。
言うべきことは一つしかない。
「美祢ちゃん、魔法少女衣装似合っているよ」
「うふふ! ありがとうございます」
気の利いたことは言えなかったが、どうにか正解を引けたようだ。
その証拠に美祢ちゃんは俺の言葉に顔を綻ばせ、ぴょこんと可愛らしいお辞儀を返してきた。
ふう……
なんだろう、このどっと押し寄せる妙な疲労感は。
なんてことのないただの立ち合いなのに、まるで真剣で鍔迫り合いをしているような緊張感だ。
そもそも俺がなぜ『別室』からたった一人で三木主任と美祢ちゃんの相手をしているかという話だが、これはやんごとなき理由がある。
つまりは桐井課長と佐治さんは同時刻に『現場調整課』との打ち合わせが入ってしまい、二人はそっちに行ってしまったからだ。
いやまあ、向こうは向こうで美祢ちゃんが現場に入った時の段取りやら何やら細かい話をいろいろ打ち合わせなければならないし、桐井課長が出席すること自体は間違ってないんだけどさ……!
だが、どう考えても連れて行くべきなのは佐治さんではなく俺だと思うわけですよ。
そもそも齢35のおっさんが娘でもないJCに『その服、似合っているよ』とか、状況によっては即アウトの事案だからな!?
……いや待て。
よくよく考えたら、佐治さんに『その衣装似合っているよ』などという単語が脳内辞書に格納されているだろうか。いやない(反語)。
彼女の脳内に詰まっているのはせいぜい『バトル』『修業』『勝利』くらいなものだろう。
あとは社食の日替わりランチ(水曜)で付いてくるプッ○ンプリンのことくらいだろうか。
友情? ああ、それもあるか。
だがその単語は『好敵手』として登録されていると思う。
まあ、ここには居ない脳筋さんに想いを馳せていても脳のリソースを無駄に食うだけだ。
それに、衣装合わせが終わった後はビル内の訓練施設にて軽く手合わせというか実戦形式で魔法少女衣装と武器の調整をしなくてはならない。
今までとは異なる身体感覚や武器を使用しての最終調整である以上、万が一とはいえ暴走の危険がある。
そうなれば、現状、俺は俺で適任というわけだ。
佐治さんは手加減ができないし、桐井課長は短時間しか魔法少女になれないからな。
『別室』の圧倒的な人員不足を嘆いても仕方ないので、俺は淡々と仕事をすることに決めた。
「……じゃ、次は武器ッスね」
と、気づけば三木主任も淡々と自分の仕事をこなしていた。
彼女はラボの奥から大きな杖を持ってくると、美祢ちゃんに差し出した。
かなり長い杖だ。
先端部には大きな水晶が埋め込まれており、その周囲を鈍く光る金属が覆っている。
デザインとしては、なかなかに魔法使いらしい杖だが……
一つだけ気になる点がある。
美祢ちゃんの身長は同年代としてはやや小柄ではあるが、それでも杖は彼女の身長より長いのだ。
というか俺の身長とどっこいどっこいである。
大丈夫だろうか? 取り回しとか。
魔法少女の状態ならばさすがに腕力が足りないということはないだろうが、長さは槍とほとんど同じだぞ。
ちなみに先端部分の水晶と金属はかなり硬くて重そうなので、長柄のメイスとしても使えそうだが。
「三木主任、さすがに長すぎないですか?」
「何をいってるんスか廣井さん。魔法少女の武器なんてデカければデカい方がいいって昔から決まってるじゃないッスか。ね、美祢ちゃんもそう思うっしょ?」
「はい!! これだけの柄に余裕があれば、かなり魔力を加速できますからね!」
ドヤ顔で胸を張りふんすと鼻息荒く言い放つ三木主任。
そして自分の身長よりずっと長い魔法杖を両手で握りしめ、嬉しそうに頷く美祢ちゃん。
その様子はまるで仲の良い姉妹だ。
つまりは美祢ちゃんも三木主任と同じ人種らしい。
いやまあ、その心意気に反対はしないけども!
「ちなみにッスよ廣井さん。この魔法杖、どんな能力だと思います?」
「えっ、そうですね……魔法を撃つタイプですかね。少なくとも近接格闘タイプではないですよね?」
いやまあ杖だし。
それにさっき、美祢ちゃんが『魔力を加速できる』とか言っていた。
おそらくは、杖の先端部の水晶とかから魔力系のビームとかを発射するタイプと思われる。
遠距離系の武器は近接格闘タイプに比べ魔力消費が激しいと聞いたことがあるが、美祢ちゃんの高い魔力なら十分に使いこなせると判断したのだろう。
砲支援ができるタイプ……魔砲少女かな?
だが二人の顔にはなぜか悪戯っぽい笑みが浮かんでいる。
「ふっふーん、半分正解、半分不正解ッスね」
「ッスね!」
示し合わせたかのように、三木主任と美祢ちゃんがパン! と手を打ち合わせた。
なんだそのノリの良さは。
三木主任、風体はダウナー系白衣のマッドサイエンティスト風元ヤンお姉さんなのだが面倒見は良いっぽいんだよな。
なんだかんだ、魔法少女たちとすぐに仲良くなれるコミュ力の持ち主なのだ。
まあ弟がいるとか言っていたし、そういうところも関係しているのだろう。
精神年齢は……いや、よそう。
そんなことより正解だ。
半分不正解の正解部分が気になる。
もしかして狙撃形態への変形が可能とか?
それはそれで胸アツなのだが、違う気がする。
正直、ちょっと考えたくらいでは分からない。降参だ。
「それで……正解はなんでしょうか?」
「ふふ……それはこれから、廣井さんが実際に体験してもらうッス」
「そうくると思ってました」
そうくると思っていたよ!




