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第258話 社畜と社長の異世界修業

 それからしばらくの間、俺とソティ、そしてクロの三人で日本と異世界を行き来する生活が続いた。


 基本的には通常の業務が終了してから一度自宅に戻り、着替えてからソティと駅で待ち合わせ。


 その後ビルの扉から異世界で渡り、数時間ほど過ごして戻るというサイクルだ。


 異世界では、ただ単にぼーっと時間を潰す、食事をとる、ダンジョン内で魔物を倒すなどでマナの回復量や総魔力の上限が上がるかなどの検証を行った。


 そのおかげで、マナの獲得量の変化などがだんだんと分かってきた。


 まず、ソティが何もせずにぼーっと過ごした場合に回復するマナは、異世界の野外では1時間あたり1000程度、ダンジョン内では1500程度。


 それに加え食事をとったり魔物を倒すと、食事内容や倒した魔物の種類や数により異世界滞在1回あたり5~7万程度回復することが分かった。


 なので、今後は様子を見つつ強めの魔物が出てくるダンジョンの攻略も視野に入れている。


 余談だが、魔物を倒してマナが獲得できる原理は正直よく分からないが、現地人の皆様が魔物を倒しても別に強くなっていないらしいので、おそらく深淵魔法が関係しているのではないか……というのが俺の見立てだ。


 こればかりは魔眼の基本仕様というか、『鑑定』でも分からない要素なのであくまで推測だが。


 それと、おそらくソティが日本で妖魔を討伐した場合もマナが回復するものと思われる。


 ただし、彼女が妖魔と戦うさいには魔法を使わなければ危険なため、効率の面からいうとあまり意味はない。


 ちなみに日本で安静にしているときに回復するマナ量も測定してみたが、これは異世界の数分の一程度だった。


 例えるならば、ソティにしてみれば日々の暮らしをエベレストの山頂で送っているようなものなのだろう。


 もちろんマナは酸素ではないし必須栄養素みたいなものではなさそうなので、そこまで日常生活に支障をきたすわけではないのだろうが……それでも異世界人にとっては、地球はなかなかに過酷な環境だということが分かる。


 そう言う意味ではアンリ様は大丈夫だろうか……?


 今度、彼女にも体調を聞いておいた方が良いかもしれないな。


 ちなみにクロは日本でも異世界でも元気いっぱいである。


 まあ、彼女は俺とマナをある程度共有しているふしがあるので、俺が元気なら彼女も元気だということなのだろう。




 ◇




「社長、お疲れさまでした。それでは今回の増加量を測定していきますね」


「うむ、よろしくなのじゃ」



 異世界滞在を終えたあと、日本に繋がる扉の出口付近で。


 もうしっかりおなじみとなったやり取りを繰り返してから、俺はソティに対して『鑑定』を発動する。



「ど、どうじゃ?」


「そうですね……マナの量はそれなりに溜まってきましたね。現在は総容量の半分近くまで回復しています」



 ソティのマナ総容量は100万で、数時間の滞在を5回ほど繰り返した結果、48万弱まで貯蔵量が回復している。


 最初の滞在のときからだいたい35万程度回復したので、1回の滞在でバラツキがあるものの7万ちょっと回復している計算だろうか。


 ちなみに俺が周回するよりもちょっと低い気がするのは、個人差なのか能力の差なのかは気になるところだ。


 とはいえ俺は異世界に滞在しただけではマナ量が増えたりはしないはずなので、そこは羨ましい要素である。


 このあたりの違いは、元異世界の住人かそうでないかが関係してくるのだろうか?


 あるいは、『深淵の巫女』という肩書きどおりに普通の人間ではないから……ということもあるかもしれない。


 まあ、その自動回復機能のおかげで順調にマナが回復しているのでありがたい限りという話である。



「おお! やはりこちら側に滞在すると効率がダンチじゃのう!」


 

 ちなみにソティはと言えば、俺の説明を聞いて無邪気に喜んでいるだけである。


 もっとも彼女も異世界に滞在するごとに力を取り戻している実感があるようで、日を追うごとに生き生きとした表情になってきている。


 まあ、たまにテンションが妙なことになって変なことを口走るが。


 というか……

 


「今日び『ダンチ』は死語ですよ社長……」


「む、そうなのかえ!? では今は若者の間ではなんと言うのじゃ?」


「いやぁ、私も三十代半ばなので」


「なんじゃ、お主も分からぬではないか。ならばワシと同類じゃな!」


「……主よ、それならば『エグい』はどうだ。『てれび』の中の若い男女がよく使っているぞ」


「それじゃ!」



 社長殿も『我が意を得たり』みたいな顔をしないでくれ。


 というか、クロの方が俺より若者文化にくわしい件。



「……クロ、それは覚えない方がいいタイプの言葉だぞ。あと数年も立たずに廃れると思う」


「む、そうなのか?」


「クロよ、言葉というのは生き物じゃ。つまり生きているうちに使わねばならぬ。お主は間違っておらぬぞ」


「何やら含蓄めいたセリフですが、たった今死語を使った人の言葉ではないですよね……?」

 


 などと軽口を叩きつつ、ダンジョン内でしばし休憩。


 この休憩でもマナが増えるので、俺たちは最後に小一時間ほど会話やらゲームやらをしてから日本に戻ることにしていた。


 そうして休憩していると、ソティがここのところ恒例の愚痴をこぼす。



「むう……それにしても、お主に『鑑定』とやらを掛けられてもいっこうに何も感じぬのじゃが……」


「いい加減諦めてください。というか、何も感じない方が絶対いいですよ」



 というか一体何を俺の『鑑定』に期待してるんだこの社長は。


 ちなみに俺も自分に鑑定を掛けてみたが何も感じなかったので、実際に他の人がどういう感覚になるのかは分からない。


 まあ朝来さんやアンリ様に掛けたときの反応を見るに絶対ロクなことにならないので、基本的に人に掛けることはしないわけだが。


 もちろん社長にも必要に迫られた状況以外で掛けるつもりはないぞ。


 ……この件はいろいろ面倒なので、さっさと話題を変えてしまうに限る。



「それで、社長。今後はどうしましょうか? 社長の魔力総量の方は今のところあまり変わらないようですし、マナ総量はあと一週間ほど同じルーティンを繰り返せば満タンになりそうです。こちらが満タンになったときに、さらに総容量が増える可能性はありますが……今のところは定期的に数時間ほど異世界に滞在すればコンディションを保てると思います」


「そうじゃのう。本音を申せば、異世界をもっと探索したいところじゃが……当分は怪人どもの大攻勢に備える方が大事じゃからのう」



 さすがのソティも、自分の仕事に対しては真面目に向き合うつもりのようだ。


 もしかして、『ワシは異世界に住むのじゃ!』とか言い出さないかちょっとだけ不安だったのだが、杞憂だったようだ。


 まあ、今さら異世界に移住しても知り合いもいないだろうし、どうやら故郷も王国内になさそうだし、そもそも暮らすあてもないだろうからな……


 そもそも文明度とかインフラとか、どう考えても日本の方が快適だし。


 まあ、飯の美味さは甲乙つけがたいところがあるが……まあ、現状では定住はちょっと厳しいかもしれないな。


 王国もなんだか魔界との戦争が膠着しているとはいえ情勢が見えないところもあるし。



「……さて、そろそろ出ましょうか。もう23時近くになりますし」


「うむ、仕方あるまい」



 ソティは名残惜しそうに立ち上がると、ふと思い出したように切り出した。


 

「ときに廣井よ。新人の様子はどうかのう?」


「ああ、小山内(おさない)さんの妹さんですね。順調ですよ」


「ほう、ではすでに実戦も経験しておるのかのう?」


「あー、いえ……順調というのは、たしか明日、彼女の魔法少女衣装と武器が完成するはずだったという意味でして」



 確かに小山内美祢ちゃんはそれなりに魔力が高かったものの、特に格闘技経験があるとかケンカ番長だったりするわけでもなく、ただ小山内さんの妹さんというだけの普通の女の子(当社比)である。


 よって、さすがにまだ他の魔法少女の皆と一緒に戦えるほどではない。


 妖魔との戦いは完全に非日常だ。


 常に命のやり取りになる以上、ある程度心身を鍛えてからでなければ安心して現場に送り出せないだろう……というのが『別室』と『現場調整課』、そして『装備課』の共通認識だった。


 まあ、佐治さんは打ち合わせの場で『闘いは体で覚えろ!』とか言って、小山内さんと桐井課長にアホほど怒られていたが。


 余談だが、美祢ちゃんは美祢ちゃんで魔法少女になるのが待ち切れないらしく、最近筋トレに励んでいたり、なんとパルクールに手を出していたりするらしい。


 元々彼女は体操部だったらしく、その辺は得意だそうだ。


 しかし、やる気がありすぎて空回りするのは少々心配である。



 そんな話を歩きながらしたあと、ソティと駅で別れた。


 ちなみに駅前のロータリーに黒塗りのベンツが横付けにされ、黒服に身を包んだ凛々しい女性が迎えに来ていたが……あれはたしか秘書さんだった気がする。


 彼女も彼女で深夜までご苦労様である……

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