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第257話 社畜と社長の異世界出張⑥

 目の前に浮かび上がったソティのステータスと彼女本人を交互に見比べる。



《対象の名称:深淵の巫女 個体識別名:ソティ》


《性別:女性 年齢:536歳》


《身長:135cm 体重:29kg》


《体力:550/550》


《魔力:1530/1530》


《現存マナ総量:125842/1000000》


《スキル一覧:なし……深淵魔法による干渉を感知……鑑定できませんでした》


《ロイク・ソプ魔導王朝滅亡期を生き延びた巫女の生き残りの一人》


《深淵魔法の度重なる行使と次元転移による体組織の変異を確認》


《このため肉体の成長が停止している》


《また――で、――あり――、……深淵魔法による干渉を感知……鑑定できませんでした》



 俺の目の前にはソティのステータスが浮かび上がっている。


 いろいろツッコミどころが多いが、やはり年齢は500歳以上なんだな。


 もしかしてそういう『設定』なのかと多少疑っていたが、これで我らが社長殿が正真正銘のロリババアだということがハッキリしたわけだ。


 そして彼女が『鑑定』を受けても何も感じなかった理由もだいたい分かった。


 ……ステータス表記、明らかに人間用じゃないし。


 まあ、何百年も生きている彼女が普通の人間ではないことは明らかだから、分かってしまえばそこまでの驚きはない。



 それと彼女の外見が幼女なのは、どうやら深淵魔法による影響らしい。


 それ自体は『さもありなん』といった感想だが、問題は俺も深淵魔法を使えるということだ。


 もしかして、この魔法って使うたびに若返ったりしないよな……?


 そうなると、魔眼固有のスキルではない『奈落』などを使うことはある意味リスクとなるんだが……


 いやまあ、このまま歳を取らないのもマズいが、それでも三十代半ばともなれば向こう十数年くらいならまだ『若々しくていいですねぇ』で済むと思う。


 ただ、不老になるのはともかくソティみたいに小学生の見た目になったらどう考えても社会生活を送ることが困難になるぞ。


 ……ちょっと待て。


 そういえば、最近心なしか肌のツヤが良いのはこのせいだったりするのか……?


 いやいや待て待て。


 ソティのステータスによれば、『肉体の成長が停止』とある。


 ならば少なくとも若返りはないはずだ。たぶん。きっと。



「………………」



 とにかく、これまで通り深淵魔法の行使はなるべく最終手段とした方がよさそうだ。



 ――それ以外のソティのステータスは、まあ……やはり詳細を完全に『鑑定』することはできなかったようだ。


 何となく、彼女の出自からしてそんな気はしていた。


 正直、『鑑定』で出てきたステータス表示が魔物とかと同じフォーマットらしいこととか種族名(?)が『深淵の巫女』だったりとかいろいろ気になる点は多いが、現時点で確認すべきなのは彼女の魔力だ。



 それによれば、彼女の魔力は、そう目立った数字ではない。


 確かに今まで見たなかでは桁違いの多さと言える。だがまだ現実的な数字だ。


 それよりも、注目すべきは残存マナ総量だろうか。


 これは他の誰かを鑑定したときには出てこなかった項目だ。


 そして、俺のステータスにも存在するものだ。


 ……けれども、そこで違和感に気づいた。


 俺のステータス、残存マナ総量の上限表記があっただろうか?


 記憶によれば存在しなかったはずだが……



「――井、廣井よ。聞いておるのか?」



 と、物思いにふけっていたらふいに背中をぽすぽすと叩かれ、ハッと現実に引き戻される。


 振り向けばソティが小首をかしげながら俺を見ていた。



「何か分かったかの? 何も感じなかったのじゃが……魔法は発動しておったのじゃろう?」


「ああ、すいません。もちろん確認できました。社長の魔力、すごい数値ですね」


「おおっ!? どのくらいじゃ!? どのくらいなのじゃ!?」



 俺の言葉に、ソティが目を輝かせて食いついてきた。


 ……ひとまず、自分のステータス確認は後回しだな。


 とはいえ最近ちょくちょくレベルアップ自体は行っていたものの、どちらかというとマナ容量を増やすことだけに集中していたから細かい数字を覚えていない。


 スキルも既存のものを上げてはいたものの魔眼のレベルアップに伴い増えた取得可能スキルは放置気味だったから、異世界から戻ったら改めて確認と整理をしておくべきだろう。


 ……それと今のところ彼女の魔力やマナを確認するのに支障はないが、『鑑定』スキルのレベルアップも検討すべきだろうか。


 ただ『鑑定』はそれなりに優先的に上げているから、そろそろレベルを上げるための要求マナ量が厳しいんだな……できるだけ、自由に使える量を残しておきたいし。


 ……しまった、また思考が横道に逸れた。


 それはともかく、今はソティだ。



「えー……ひとまず私の知る限り、一番魔力が高いのは間違いありませんね。数値は……このくらいです」



 ひとまず備忘録として、自分のスマホのメモアプリにソティの魔力量だけを打ち込んで彼女に見せる。



「こちらにいる、かなり高い魔力を持った人が150前後と思われますので、社長はその10倍くらいですね」


「おぉ……! ワシは現時点でもそこそこ強いのじゃな?」


「……おそらく、異世界の人たちの中でもかなり強い方ではないでしょうか」



 魔力で言えば魔族などはもっと凄まじい数値のはずだ。


 確か魔族の眷属となったアルマさんが800弱だったと記憶しているから、本物の魔族はもっと高いと思われる。


 とはいえ、社長殿の魔力量は一般的な異世界人に比べても文字通り桁違いの数値を示している。


 相当強いのは間違いない。


 ただ、俺と同様にソティも深淵魔法を使えるはずだ。


 であれば、重視すべきなのは『現存マナ総量』の方だろう。


 こっちは現在12万程度なので、相応に高いが深淵魔法を行使するには少々心もとない数字である。


 ひとまず上限に達するまでしっかり異世界に滞在する必要があるだろう。


 そんなことを、彼女に説明していく。



「ふむ……話をまとめると、魔力はほぼ上限まで回復しておるが、マナはまだまだ回復する余地がある、ということじゃな」


「現状、社長のステータスを拝見した限りはそうですね」


「マナ総量は増加してこの数値なのじゃろうか?」


「どうでしょう? こちらに来てからの増加量が12万以上とは思えませんが……いずれにせよ、マナ総量は魔法の行使にも影響が大きいですから、なるべくこの数値を増やすようにすべきでしょうね」


「ふむ……それについては了解じゃ。あとは、どれだけ効率よくマナを増やしていけるかじゃのう」


「そこは要検証ですね」



 自己申告ではあるが、ソティは異世界に来てから体調が良くなったと言っている。


 これを素直に受け止めるならば、おそらく彼女の魔力とマナは滞在するだけで回復していくものと思われる。


 あとは、その回復量がどの程度か、ということだ。


 まさかただこの世界に数時間滞在するだけで12万も回復するとは思えないが、反対に数時間で2とか3程度でも困る。


 マナの回復量は何をすればどの程度増加するかをしっかり記録を取り、検証すべきだろう。


 それに魔力やマナ総量の『上限』が変動しないかどうかもしっかり確認する必要がある。


 取り急ぎ検証すべきなのは、単に滞在したときの一時間あたりの増加量と、食事による増加量、そして魔物を倒したときにマナが獲得できるか、といったところだろうか。


 俺はスマホに表示された時間をスクショして保存しておく。



「そういえば廣井よ」


「なんでしょうか、社長」



 いろいろ考えを巡らせていると、再びソティが話しかけてきた。


 今度はなぜかモジモジしており、そして恥ずかしそうに視線を横に逸らしている。


 何かまずいことでも話しただろうか……と一瞬心配になる。


 だが彼女の口から出てきた言葉は、俺の想像よりもだいぶ斜め下だった。



「ワシはお主の魔法を受けても、今後も何も感じることができぬということなのじゃろうか……」


「…………」



 それは『知らないうちにステータスを盗み見られるのは困る』という意味だよな?


 というかそれ以外の意味であってたまるかという話だが。



「あの、これははっきり申し上げておきますが」



 俺は微かな頭痛を覚えながら、先を続ける。



「社長の承諾なく魔法を掛けることはないとお約束します。さあ、そろそろ日本に戻りましょう」


「う、うむ……! それはそうじゃな!」



 俺の声色で、どうやらそんなアホなことを聞いている場合ではないと察したのか、ソティが慌ててコクコクと頷いた。


 はあ……このあと、何度もこのやり取りを繰り返さないといいんだが……

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