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第233話 社畜と怪人討伐④

 作戦は、簡単な打ち合わせの後すぐに実行された。


 俺、桐井課長と佐治さんが操る牛頭(ごず)馬頭(めず)の魔法ドローンは敷地内にある建物などに隠れながら管理棟に侵入し、怪人を叩く。


 魔法少女たちは管理棟を包囲するように遠巻きに回り込み、現場の状況を確認後、合図とともに速やかに妖魔を排除。


 露払い的に魔法少女たちを先行させなかったのは、妖魔を介して怪人が襲撃を察知する可能性を考慮したからだ。


 ちなみに三木主人は全体の指揮官役、クロは万が一別の妖魔に会議室を襲撃された時の護衛として残ってもらった。



 果たして、俺たちは首尾よく建物内部侵入成功。


 どういうわけか桐井課長の報告より周囲にを徘徊している妖魔の数が少なかったのが幸いした。


 さらには懸念事項だった建物内部を徘徊する妖魔だが、なぜか全く見当たらなかった。


 まあ、それはそれで都合が良い。


 おかげでスムーズに現場調整課の皆さんが立てこもっている部屋のある階までやってきたのだが……



『さっさとこの扉を開けやがれ! ぶっ殺すぞオラア!』



 階段を登りきったところで、ものすごい怒鳴り声とドンドンと何かを叩く衝撃音が響いてきた。


 物音を立てないよう廊下から覗くと、ボロボロの衣服を着た怪人が扉を蹴破ろうと暴れているところだった。



 怪人はまるで相撲取りのようなずんぐりとした体形で頭部や異様なまでに肥大しており、大きな口と外に飛び出した大きな眼球が特徴的だ。


 肌は粘膜のようにぬらぬらしており、いぼだらけ。


 手足の先は水かきのようなものが付いている。


 あれは……服を着た、どでかいヒキガエルだな。


 一瞬、鳥獣戯画が思い浮かぶが、リアルはあんなにコミカルではない。


 普通にグロい。



『標的を確認。蛙ベースの怪人っスね』



 耳にはめ込んだインカムから三木主任の声が聞こえてきた。


 屈んで様子を窺う俺の頭上から、視点用ドローンを介して怪人を確認したのだ。



『見た感じは中堅怪人ですね。それにしても、ずいぶんガラが悪いッスね……そっちの道でお仕事でもやってたんですかね?』


『ふん、反社だろうがチンピラだろうがなんでもいい。そもそも動物型の怪人は大して強くない。さっさと片付けるぞ』


「(佐治さん、少し待ってください。あれは……通常とは少し違うようです)」



 さっそく怪人を殴りに行こうと身を乗り出した馬頭(めず)の魔法ドローンを慌てて止める。


 それからすぐさま廊下の角から顔を出し、素早く『鑑定』を行った。



《対象の名称:亜魔族 個体識別名:蛙の怪人》


《性別:男性 年齢:1日》


《身長:166cm 体重:150kg》


《体力:500+1250/500》


《魔力:60+650/60》


《スキル一覧:『身体再生(強)』『捕食』『麻痺毒』『隠密』》


《人族の死体と複数の妖魔を素材として造られた亜魔族。この地では『怪人』と呼称される》


《全身に刻まれた刺青と素行から、生前は反社会組織に属していたものと推測される》


《妖魔を共食いしたため通常よりはるかに身体能力が強化されている》


《蘇生痕から、深淵魔法術者の関与が強く疑われる》



 詳細な情報が俺の視界に浮かぶ。


 二人に報告しようとした瞬間、とたんに魔眼が荒ぶりだした。


 左の視界が赤く染まり、灼熱感が襲ってくる。



「ぐっ……」



 久しぶりの感覚に、思わず左目を瞑る。


 クッ……! 鎮まれ俺の魔眼……!


 などとふざけている場合ではなく、三人に見られるとヤバい。


 幸い火の粉が散るほどではないようだが、念のため手で押さえて視点ドローンから見えないようにした。


 それにしてもこの荒ぶりよう……深淵魔法が関係しているからか?


 というか、もしかしてこっちの世界にも、ソティのように異世界から渡ってきた奴らがいるのか?



『廣井さん、大丈夫ですか?』



 インカムから、桐井課長の心配そうな声が聞こえてきた。


 左眼を押さえながら俺は軽く右手を上げ、小声で『大丈夫です』と合図を送る。


 とにかく今は考察している時間はない。


 今は仕事に集中しなければ。



『三木、突撃の指示を出せ。魔法少女たちも既に配置についているぞ』


「(皆さん、待ってください)」



 もう一度ドローンを見上げながら、口だけ動かし合図を送る。


 それから牛頭と馬頭を振り返り、『下がります』と合図を出しひとまず下の階へと移動する。


 幸い桐井課長も佐治さんもただ事ではないと思ったのか、素直についてきてくれた。



 念のためさらに物陰に隠れてから、頭上に浮かぶ三つの視点用ドローンに小声で話しかける。


 怪人は喚き散らしながら暴れているのが、ここまでも微かに聞こえてくる。


 こちらの会話を聞かれる心配はなさそうだが、用心するに越したことはない。



「(あの怪人、普通とは違うような気がします)」


『どういう意味だ?』


「(見ましたか? 怪人の手を。かなりの強さで扉を殴ったり蹴ったりしているせいで、そのたびに手足の骨が折れているようでした。ですが、一瞬で回復していました。かなり強力な再生能力持ちのようです。私は怪人についてそこまで詳しくはありませんが、中堅レベルの怪人でもあれほどの生命力を有しているものなのでしょうか?)」



 もちろんでまかせではない。


 鑑定の結果を踏まえ蛙の怪人を少しばかり観察した結果、明らかに手足が折れていた。


 さすがに再生しているところまでは確認していないが、骨が折れたまま硬いものを殴ったり蹴り続けているわけではないだろう。



『……なんだと? 桐井、見えたか?』



 一瞬の間のあと、佐治さんの声が返ってくる。



『うーん……一瞬だけでしたので手足の損傷までは確認できていませんが、明らかに身体の耐久力を無視した、常軌を逸した攻撃だとは感じましたね』


『すいません、自分も同じく確認できてないです。ただ……視点ドローンのカメラは耐久性重視で解像度が荒めッスからね。現場の廣井さんがそう言うのなら、そうかと』


『それにしても、『司令部』の結界は大丈夫でしょうか……かなり強固なはずなので並みの怪人に破れるとは思えませんが、消費魔力のことを考えるとあまり猶予はありませんね』


「(分かっています。すぐに対処が必要ですね)」



 咽頭マイク越しに、ヒソヒソ声で会議室の三人と会話をする。


 目の前に牛頭と馬頭がいるのにそっちと会話ができないのは不思議な感覚だが、こればかりは仕方ない。


 二体とも、スピーカー機能は付いていないからな。



 ……それにしても、蛙の怪人はずいぶんと警戒心が薄いな。


 少なくとも、今朝の段階で魔法少女たちと牛頭、小鬼との戦闘くらいは把握しているはずだが……


 こちらを歯牙にもかけないほど強いのか、それとも放送室の襲撃が第一目標なのか、あるいは単純にバカなのか。


 個人的には三番目であってほしいが、さすがにそうと考えない方がいいだろう。


 というか、鑑定によればどうやら他の何者かによって造られた怪人らしいので、何らかの使命を受け放送室を襲撃した、というのが一番あり得るシナリオか。



 いずれにせよ。


 『鑑定』を掛けても気づいた様子がないあたり、完全に人外と化しているのはありがたかった。


 おかげで遠慮なくぶちのめせるからな。



 それを踏まえて……ヤツの対処をどうするか、だ。


 最初は物陰から『魔眼光』などで狙撃してしまえば事が足りると思っていたのだが、そう簡単にはいかないようだ。


 どうやら奴は『身体再生(強)』スキル持ちらしいからな。


 狙撃するならヘッドショットでサクッと仕留めるべきだが、生半可な攻撃では再生されたうえ、こちらに気づかれてしまう。


 となれば、最大出力の『魔眼光』で頭部を完全に蒸発させるか『奈落』で身体を丸ごと削り取ってしまうくらいしか対処方がないのだが……


 できればこの二つは皆の前で使いたくない。


 どちらも奥の手だからな。



 ……いや。


 俺は不意に生じた気配に、覚悟を決めた。



『オイオイ、こんな場所でコソコソ密談なんぞやってんじゃねえよ』



 声は上から降ってきた。


 そうだ、コイツを上手く利用しよう。

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