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第204話 社畜、オタクトークに圧倒される

「誓って言うのじゃが、ワシではないぞ」



 先日の魔法陣のことがあったので、ひととおり朝の仕事を片付けたあとアポを取り、社長室へ。


 幼女姿のままデスクで黙々と仕事をしていたソティに画像を見せたら、開口一番、ジト目でそう言われた。



「……さすがにそこは疑ってませんよ?」


「そこはワシの目を見て断言して欲しかったところじゃな」



 すいませんちょっとだけ疑ってました。


 というか、疑うだろ……俺の知る限り、ロイク・ソプ魔導言語が扱えるのは俺かソティくらいなものだからな。



「まあ、お主の気持ちは分からんでもない。この会社のシステムや小道具など、それに魔法少女にまつわるあれこれはワシの魔法知識によるものが多いからの」


「それはまあ、存じております」



 正直、彼女はいろいろ規格外の人物ではある。


 そもそも五百歳以上を生きているというのが本当ならば、常人では計り知れない知識量と経験値を有しているということだ。


 当然、研鑽を怠らなければ魔法技術は異世界の魔法使いすら足元に及ばない領域に達していることだろう。


 というか、科学技術と魔法知識の融合がこの会社の根幹をなしていることくらい、俺にだって分かる。


 確かに何かと胡散臭いロリバアアだが、その実力は疑っていない。



「そもそも、じゃ」



 ソティは機嫌そうに鼻を鳴らしてから、早口でまくしたて始めた。



「こんなワシがこのような雑な魔法陣を組み上げるとでも思っておるのか? まず、積層型魔法陣の基本がなっとらんのじゃ。接触する術式と絶縁処理すべき術式の区別もされておらぬではないか! そのせいで術式のいたるところで競合が発生しておる。これでは効果が半減以下じゃ。こんなシロモノ、魔法陣とすら呼べぬぞ。それに顔料も粗悪極まりないのじゃ。この手の積層構造は素材の質が魔法陣の質を左右すると言っても過言ではないのじゃ。というか画像で見る限り、まさかこの無駄な照りとツヤ……市販の塗料にマナ伝導素材を混ぜ込んでおるのか……? なんという雑な仕事じゃ……ありえぬ……確かに試行錯誤の形跡が見て取れるが、まだまだお話にすらならぬ。そもそもワシなら、もっと素材から選び抜いて――」



 よほど魔法陣の出来が気に入らなかったのか、堰を切ったようにマシンガントークを展開するソティ。


 しかし俺の視線に気づいたのか、ハッと口をつぐんだ。



「…………誓って言うのじゃが、断じてワシの仕事ではないぞ」


「……そのようですね」



 少なくとも、こんな魔法オタク全開で魔法陣をディスる人物が、犯人とは考えにくい。


 とはいえ、我が社の社長殿が犯人と似たようなメンタリティを持っている可能性が出てきたが……



「いずれにしても、よくぞまずワシに報告を上げてくれた。そこは礼をいうのじゃ。……その画像は、手すきの際で構わぬからワシ宛てにメールしておいてくれぬか?」


「承知しました」


「解析はこちらでやっておくのじゃ。結果が出次第、お主らに伝達することになろう」



 ソティは頷くと、なぜか苦々し気というか、苦し気な表情になった。



「……じゃが、ワシの勘が当たっておるならば、この件は少々込み入っておるかもしれぬでのう。……いずれ、お主を含め現場の者たちに助力を仰ぐことになろう。大掛かりな仕事になるかもしれぬが、よろしく頼むのじゃ」


「……承知いたしました」



 社長殿にそう言われてしまえば、社畜としては頷くしかない。


 彼女の口ぶりからして、どうやら闇深案件らしい。


 なんか敵対組織とかそういう奴らなのだろうか?


 それとも、怪人が絡んでいるとか。


 どちらもありそうだな。


 あとは異世界からの魔法技術をこちら側に持ち出しているヤツらがいる、とか。


 魔王軍だろうか?


 奴らがこちら側で暗躍している可能性は十分にある。



 もっともソティが直々に動くのであれば、俺も自分の生活を脅す危険を冒してまで聞きだすつもりはない。


 ただでさえ、春合宿の準備でしばらく忙しいからな。



「ときにお主、春合宿には参加するのかえ?」



 と、空気を変えるためかソティがそんな話題を振ってきた。


 まさに今、そのことで頭が一杯になっていたのだ。


 そう言う意味ではタイムリーではある。



「ええ、『別室』は運営側として全員参加の予定です。もちろん、私も参加する予定です」


「そうかそうか、全員(・・)……とな。それは……今年は死人が出るかもしれんのう」



 なぜかソティが遠い目をしている。


 ……彼女にすらそう言わしめる春合宿って、いったい何をやるイベントなんだ……



 もちろん俺も、桐井課長や佐治さんから聞いたり過去に開催されたときの資料などで、大まかな内容は確認済みである。


 それらによれば、春合宿は基本的には運動部系の合宿と同じようなものだ。


 参加者は会社の合宿施設で寝泊まりし、期間中は体力や各種技能向上に努める。


 内容は主に筋力トレーニング、戦術などの座学と実践、そして武器の扱い方講座などなど。


 とはいえ参加者は全員十代の学生さんだし、春休みを利用しての旅行の意味合いも強く、レクリエーション的なイベントも数多く用意されている。


 それにスケジュールは余裕をもって組まれており、自由時間には近郊の温泉街などに繰り出すことも可能だ。


 だから、多少ハードなトレーニング内容があるものの死人が出そうな危険なイベントもなかったと思うが……



 そのうえで、多少の心当たりがあるのは『山岳サバイバル訓練』と『戦闘技能講習』だろうか。


 これらは字面から過酷さがヒシヒシとにじみ出ている。


 ……というか前者とか、自衛隊のレンジャー課程かな?


 ちなみに前者は希望者のみ、後者は魔法少女の必須技能のため全員強制参加である。


 ちなみに戦闘技能講習に参加した魔法少女は、変身したうえで怪人に扮した教官をよってたかってタコ殴りにするという恐ろしい内容らしい。


 死人が出るって、俺が死ぬってことじゃないよな……?



 当日までまだ少し時間があるし、異世界でなるべくマナ稼ぎをしておこう……



 そんなこんなで日常業務と春合宿実行までの段取りを粛々とこなしつつ、異世界にちょくちょく渡りマナ稼ぎに精を出しつつ……ついに合宿当日がやってきたのだった。

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