第197話 社畜と聖女と魔法少女戦隊
※補足※
大書庫……マスコット(レッサーデーモン族)が用いる情報共有魔法。
本社のデータベースとアクセスして常時情報更新を行っているとのこと(桐井課長談)。
「えー、本日付で本社周辺エリアの担当となりました、アンリさんです。桐井課長を除き魔法少女の皆さんはすでにご存じかとは思いますが……どうか、仲良くしてあげてください」
「アンリ、と申しマス。ヨ……よろシクお願い……マス!」
暖房の効いた会議室の最前面。
俺の隣に立つアンリ様が、少し緊張した面持ちでペコリと頭を下げた。
そんな様子を長机の向こう側で見守るのは、桐井課長と、朝来さん、加東さん、能勢さんである。
もちろん当然の段取りとして桐井課長には事前に挨拶は済ませているし魔法少女三人衆はすでにアンリ様と顔なじみだから『初顔合わせ』というのもおかしな話だが……
こういうのはセレモニーというやつだ。
「廣井さん! ちょ、ちょっといいですか!?」
驚いた様子で挙手したのは加東さんだ。
「はい、なんでしょう」
「アンリちゃん……アンリさんは、魔法少女だったんですか!?」
今さらか……と思ったが、まだ三人にきちんと説明していなかったことに気づく。
アンリ様には、異世界に関することはなるべく話さないようにお願いしていたこともあり、魔法を使えることも黙っていたようだ。
「そう言うことになります。三人とは、少々系統が異なりますが」
「アンリ、本当なの? そんな話、全然聞いてなかったわよ!?」
「ウフフ……口止め、されテましたカラ。私、こう見えテ結構強いんデスよ?」
驚いた表情の朝来さんに、アンリ様がニッコリ微笑んで見せる。
ついでに袖をまくりドヤ顔で力こぶなどを作ってみせているが、残念ながらプニプニの二の腕が露わになっただけだ。
もっともこう見えて、大人一人くらいなら余裕で制圧できる身体能力を持つのだから侮れない。
そう言う意味では、先日彼女らが話していたヤンキーたちは命拾いしたといっても過言ではない。
まあ、彼女の役割は回復要員なわけだが……
「アンリさん。遠いところから日本までやってきて大変だと思いますが、私たちがしっかりサポートしますので安心してくださいね」
「ハ、ハイ! 一人の王国民としテ、恥ずかしくないよう、精一杯頑張りマス!」
一方アンリ様は、桐井課長の質問には少々上ずった声でそう答えていた。
アンリ様、意外と人見知りするタイプなのかな……などと妙に感心する。
……それとも、桐井課長の強さを見抜いているのだろうか?
どっちもありそうだな。
「王国……? アンリって北欧出身よね?」
「マキナちゃんマキナちゃん、ヨーロッパって『王国』の国が結構あるんだよ? 英国とかもそうだし」
と、緊張からかアンリ様が一瞬『王国』と口を滑らせてしまったが……加東さんナイスフォロー。
ちなみにアンリ様の出身については、本当の国名を話すわけにもいかず北欧のとある王国出身ということになっている。
このあたりは事前にアンリ様とソティとの話し合いで取り決め済みだ。
もちろん桐井課長にもアンリ様の出身については異世界ではなくこちら側の国名を伝えてあるが……さすがにそんな建前が通用するわけもなく、昨日の打ち合わせでは『何か事情がありそうですね……』みたいな反応を見せていた。
たださすがに空気を読んでくれたというか大人の対応というか、深くは突っ込んでこなかったが。
とはいえずっと隠し通すのは難しいだろうから、いずれタイミングをみて彼女にもアンリ様の正体を話すことになるだろう。
「そ、そう……もちろん知ってたわ!」
「そっかーマキナはまだ中学生だからなー。まだ世界史習ってないかー」
「ちっ、違うし! ちょっと一瞬分からなかっただけだし!!」
「まあまあ、二人とも落ち着いて! アンリちゃん困ってるよ!」
能勢さんの何気ない言葉に、朝来さんが顔を真っ赤にして言い返している。
別に中学生ならば世界史の授業もないだろうし、世界情勢に興味がなければそこまでおかしな疑問でもない気がするが……
朝来さん、なんだかんだハートが強いというか負けず嫌いなところがあるからな。
まあ、大人から見ればああいった言い合いができるのは仲良しの証拠だ。
取っ組み合いのケンカにでもならない限り、別に放置していても問題ないだろう。
とはいえ、このままでは先に進まないわけで。
「はいはい、三人とも静かに。今日はアンリさm……アンリさんの紹介だけでなく、今後の話についてもお伝えする予定です」
「はい廣井さん! 今後の話って何ですか……なによ?」
朝来さんが手を上げ、質問を飛ばす。
一瞬敬語が混じったのは、学校の授業での態度が出てしまったのだろう。
個人的にはこういう場では敬語で喋ってくれと思うが、まあ今さらなので指摘しない。
とにかく、話を進めよう。
「まず、先日の怪人討伐はお疲れさまでした。今さらではありますが、三人とも特に大怪我もすることなく、よくやってくれました」
「まあ当然よね!」
ドヤ顔で胸を張る朝来さん。
一方、他の二人はややぎこちない表情だ。
「これまで戦ってきた妖魔と違ってものすごく強かったから、怖かったし危ない場面もあったけど……ルナちゃんが前に倒した怪人もあんなに強かったの?」
「いや、私が単独で倒したのはずっと弱かったよ。この前のアイツは強かったと思う」
「確かに能勢さんが討伐したのはBランク台の怪人でしたが、別に能勢さんが弱いわけではないですよ。そもそも怪人クラスをたった一人で撃破するのはかなり困難ですからね」
謙遜する能勢さんに、桐井課長がフォローを入れる。
「『大書庫』によれば、『傀儡師』はランクAの怪人でしたっけ」
「はい。本来ならば魔法少女五人がかりで挑む相手でしたが、こちらも人員を確保できず……その代わり最新鋭の装備や監視体制で万全のバックアップをしていたつもりでしたが、少し危険な目に遭わせてしまったかもしれません」
俺の問いに、桐井課長が申し訳なさそうな様子で頷いた。
「そこで、留学期間中だけではありますが……アンリさんを新たな戦力として迎え入れることにしました」
「……んん? どういうことかしら?」
朝来さんがいまいち要領を得ない、といった様子で首をかしげる。
まあ、彼女の疑問ももっともだ。
ただアンリ様が『この辺で活動します、仲良くしてくださいね』ということなら、形式だけの自己紹介をして終わりだからな。
もちろんそれだけのために、隣県で活動中の能勢さんを含めてわざわざ彼女らを本社まで呼び出したわけではない。
というかここからが本題だ。
「その先は、廣井さんに代わって私が説明します。廣井さん、アンリさん、ひとまず席についてください」
そう切り出したのは、桐井課長だ。
彼女は手元にある資料を魔法少女三人に配りつつ、俺たちに着席を促した。
「分かりました」
「ハイ、デス!」
俺たちも着席と同時に彼女から資料を受けとる。
全員に資料が行き届いたのを見計らってから、桐井課長が話を続けた。
「では、先を続けましょう。三人とも先日の件で、怪人の強さを体感できたと思います」
「……そうね。あれは強かったわ」
「うん、結構危ないところがあったよね」
「まあ……倒せたからいいけどさ」
桐井課長の言葉に、三人が頷く。
皆難しい顔をしているあたり、相当厳しい戦いだったようだ。
「ですが、最近の傾向として……特に関東圏を中心として強力な怪人の出没情報が続々と寄せられているんです。北関東の方では最近ランクA相当の怪人が出現して、単独で活動していた魔法少女が狙い撃ちされるというケースが複数件、ありました。全員、命に別状がなかったのは不幸中の幸いでしたが……」
桐井課長が真剣な表情のまま、こう続けた。
「もちろん以前から集団戦の必要性を痛感していたのですが……今後は我が社の方針として、原則、魔法少女の活動は複数名で行うことになりました。そこで、朝来さん、加東さん、能勢さん、そしてアンリさん。アンリさんは留学期間中限定ですが、以後、この四人がチームとして活動して頂くことになります」
「よ、よろシクお願い……マス!」
シンとした会議室に、アンリ様の元気な声が響き渡った。




