表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

189/257

第189話 社畜、身の上話を聞く

 屋根から降りたアルマさんが地面に座り直し、こちらを見ている。


 その視線は、不思議なくらい清々しいものだった。


 もしかしたら、いつかこうなると覚悟していたのかもしれない。



「申し訳ありませんが、拘束させていただきます。……抵抗しないでくださいね」



 俺は道端に準備していたロープを手にとり、用心深く彼女に近づいた。



「しないよ。というかもう魔力がすっからかんだから、暴れるだけ無駄だね。ギルドの仕事は定時で上がる主義なんだ。……分かるでしょ?」


「それはシンパシーを感じざるを得ない主義ですね」



 要するに無駄なことはしない、という意思表示だ。


 実際、彼女の手足をロープで縛っている間、特に抵抗されることはなかった。



 それにしても、不死族となったにも関わらず、アルマさんの様子は普通の人間とほとんど変わらない。


 生きたまま、不死族に変化したからだろうか?


 というか……張りのある健康的な褐色肌とメリハリのある肢体が目に眩しい。


 唯一普通の人間と違うところがあるとすれば、唇から覗く鋭い犬歯だろうか。


 まあ、あとは獣化のスキルを使うと人狼とかに変化するのかもしれない。


 少しだけ、この隙を突いて『眷属化』などを仕掛けてくるかと思ったが……それもなかった。



「……アラタさん、縄の結び方は練習した方がいいねぇ。これじゃあ、刃物で切らないと(ほど)けないよ」


「……(ほど)けるようにしたら逃げるじゃないですか」



 なんてアルマさんが呆れた様子を見せる一幕がありつつ。



「ま、煮るなり焼くなり好きにしなよ。まあ私は不死族(ノスフェラトゥ)だから、ちょっとやそっとの拷問じゃ苦痛すら感じない身体だけどね。……あ、どうせなら、いやらしい方がいいかも。アラタさんなら、優しくしてくれそうだし。……そっちなら、もしかしたら口を割っちゃうかも」



 ニヤリと妖艶な笑みを浮かべて、そんなことを言いだすアルマさん。


 何を言い出すのかと思ったら、ここにきて誘惑かよ!


 この人、不死族じゃなくてサキュバスとかじゃないのか!?



「……別に拷問なんてしませんよ。私の仕事は貴方の足止めですので。……というかそっちの方もやりませんよ」


「真面目だねぇ、アラタさんは」



 そんな様子を眺めつつ、アルマさんが呆れた様子でそう言ってきた。


 真面目で悪かったな!


 チラリと腕時計を見やる。


 ムルクさんと示し合わせた時間にはまだ少し早い。


 アルマさんの魔力が回復してしまうほど長い時間ではないが、しばらくは彼女の監視も兼ねて付き合う必要があった。



「それにしても強いね、アラタさん。こんな小さな街の冒険者にしておくのは勿体ないね。……やっぱり、私と一緒に魔王軍に来ない? 貴方なら、いけ好かない新興魔族どもを蹴散らして幹部の座に居座ることだってできると思うよ」


「魅力的な提案ですが、お断りします。残念ながら魔族とは多少因縁があるもので」


「……そ。ま、聖女なんかのお守りをしているくらいだから、いろいろあるんだろうね」



 アルマさんはそう言ったきり、追及してくることはなかった。


 しばし沈黙が続く。



「……アルマさんは、なぜこんなことをしようと思ったんですか?」


「なんだ、やっぱり尋問するわけ?」



 縛られ地面に転がったまま、ジロリとこっちに視線をやるアルマさん。



「別に話したくないならいいですよ。こちらもただの時間稼ぎですから」


「……ま、いいけどね」



 少しだけ間があって、アルマさんがぽつりぽつりと語り出した。



「私はね、この街からちょっと離れた場所にある、小さな村の出なんだ。何の名産も特産品もない、それはそれは貧乏な村でね――」



 それは彼女の身の上話だった。


 どうして冒険者になったのか、なぜ不死族になったのか。


 まあ、この辺りはステータスに記載されていたとおりの情報だ。


 それ以外の内容だと、アルマさん(とヘイリィさん)が生まれたウストの村が、十年ほど前に流行った疫病で壊滅寸前まで追いやられたことだろうか。


 重症化すると身体を菌糸類に冒され全身が腐り落ちる、恐ろしい病だったそうだ。


 感染初期に治癒魔法を使えば、後遺症などもなく治すことができたそうだが……貧乏な村人たちに治癒魔法使いを呼ぶお金はなかった。


 彼らが病魔に冒され死んでいく中、彼女もまた感染してしまい生死の境をさまよったそうだ。



「ウチはまだお金がある方だったから、どうにか治癒魔法使いにかかることができた。でも、結局父さんと母さんは間に合わなかった」



 そこで彼女は少しだけ口をつぐんだあと、ぽつりとこう言った。



「……いや、今から思えば……きっと一人分しか、治すお金がなかったんだと思う」


「…………」



 ……この世界の病気というのはあまり想像がつかないが、現実世界でも疫病によってたくさんの人が亡くなることはある。


 彼女もいろいろと辛い思いを抱えて、生きてきたのかもしれない。


 もちろん、それが今回の事件を正当化することにはならないが。



 その後も彼女の話は続いた。



 そして両親を(うしな)い天涯孤独となったアルマさんは、この街の冒険者になったそうだ。


 幸い彼女は冒険者としての才覚に恵まれ、指名依頼をこなすほどまで成長した。


 その後、アルマさんは魔界近くの高難度ダンジョンを探索している最中、不死族に襲われソイツの『眷属』となり、さらに彼女自身も魔物としての進化を遂げ不死族となった。


 さらにその後は紆余曲折を経てギルドの職員として働くことになったそうだ。


 まあ、スパイとしてだけど。


 そして、そうなると元凶となる不死族が気になるわけで。



「もしかして、その不死族が今回の件の首謀者ですか?」


「あー、全然違うよ」



 アルマさんが首を振りつつ否定する。



「アイツは魔王様に命ぜられて『異界』とやらの調査に行ったっきり、行方不明になっちゃったから……って、風の噂で聞いたよ。まあ、もう魔界のことなんてよく分からないけど」


「…………」



 それって、もしかしてあのホストもどきことクリプトのことだろうか……


 よくよく考えたら、影の獣もヤツから取得した『死の連鎖(デスチェイン)』の影の魔物によく似てたし……


 意外なところで因縁が顔を出してきたせいで、俺は思わず無言になってしまった。



「……で、さっきの質問の答えだけど……なんでこんなバカみたいなことをしていたかって? 別に大した動機なんてないよ。私の立場は、経緯はともかくとして今は魔王軍側なわけ。それと、人間と見分けがつかない魔物だった。だからこういう仕事が適任だった。それだけだよ」



 彼女はそう締めくくった。


 どこか、遠くの方を睨みつけながら。



「……そうですか」



 まあ、俺も尋問は仕事の範疇でもないので特にこれ以上追及する気はない。


 『鑑定』でも、彼女の心の底をつまびらかにすることはできない。


 するつもりもない。



 とはいえ、彼女の話は核心に近づいているとも言える。


 俺はダメ元で質問をしてみることにした。



「そういえば……今回の聖女襲撃事件は、私の見立てではアルマさんが計画を企画立案した首謀者というわけではなく、あくまで指示役の立場だと考えているのですが……首謀者は(・・・・)魔王軍の(・・・・)者ですか?(・・・・・)


「はは……やっぱりアラタさんは商人だね。でもそれは(・・・)言えないかな(・・・・・・)



 一瞬、アルマさんが面食らった顔になり、それから弱々しく首を横に振った。



「……そうですか」



 彼女にとって、魔王軍の誰が首謀者であったとしても、それが誰かを特定できなければ問題ないはずだ。


 けれども『魔王軍に首謀者がいるかいないか?』という問いに対しては、彼女は『いる』か『いないか』を答えざるを得ない。


 もちろん彼女は俺の質問に対して嘘を吐くことも適当にはぐらかすこともできるが……彼女は『言えない』と答えた。


 そしてそれは……おそらく俺の質問の意図を正確にくみ取ったうえでの、彼女なりの誠意なのだろう。



 何が言いたいかといえば、彼女の回答はつまり『首謀者が魔王軍側ではない』可能性を示唆している。


 まあ、予想していたことではあるが……改めてその可能性を突き付けられると、うんざりした気分になる。


 こちとらスローライフをしたいだけで、国家の動乱なんぞに巻き込まれたくないんだが……?


 というか俺はともかくとして、これではアンリ様が異世界に戻ってこれる日はまだまだ遠そうだな……



「……と、そろそろですね」



 俺は腕時計を見て、時間が迫っているのを確認した。


 『遮音結界』の中と外の時間の流れは等しい。


 そろそろムルクさんが周辺の封鎖を終え、俺たちを取り囲んでいることだろう。



「えぇ……もう時間? もうちょっとアラタさんとお話していたかったなぁ」


「残念ですが、私も何かと忙しい身でして」



 時計の秒針が12時を指したところで『遮音結界』を解除。


 周囲に気配と喧騒が一気に戻る。



『…………!』



 次の瞬間、建物の屋根から黒い塊がシュッ! と飛び降りてきて、俺の足元に転がり込んだ。


 言うまでもなくクロである。


 特に怪我もなく、俺の脚に身体をこすりつけている。


 もしかして寂しかったのだろうか。


 あとでたくさん撫でくり回してやろう。



「うおっ!? 本当に人が現れたぞ!?」


「なんだこれ、結界魔法か!?」


「犯人を確認した! このまま構えて待て!」



 周囲を見渡せば、完全武装の衛兵さんたちが取り囲んでいた。


 皆、俺たちがいきなり現れたせいか驚いているようだ。



「はは……改めて、すごいねこの結界。王宮魔法使いの結界魔法を見たことがあるけど、もっとショボかったよ?」



 アルマさんはそんな光景にも我関せずで、驚いたようにそんな声を漏らしている。



「褒めても何も出ませんよ」


「ハッ! そんなもの期待してないよ。アラタさんは、もうちょっと素直に賞賛を受け止めた方がいいね」


「努力します」



 と、その時だった。



「よう兄弟、どうやら上手くやってくれたようだな」



 衛兵さんたちの間から、立派な軍服を着たおっさんが進み出てきた。


 腰には、立派なロングソードを携えている。


 スラッとした長身で精悍な顔つき。


 眼光鋭いイケメンである。


 えーと……


 誰?


 つーか俺の知り合いに、こんな立派な軍人さんいたっけ??



「……あ、どうも初めまして」


「水くせぇなオイ! 俺だよオレオレ!」



 正装したムルクさんだった。

どうやらAmazonの予約ページ(ページ下部にリンクあります)で口絵と主要な登場人物のイラストも公開されているようです!

なんと、あの狂暴魔法少女の姿も……!? これは要チェックですよ…!!


それはさておき、書き下ろしとなる番外編2本と購入特典SS1本の内容が

決まりましたのでお知らせいたします!!


番外編1⇒○○編

番外編2⇒クロ編

特典SS⇒ロルナさん編


番外編・特典SSともにかなり読み応えある内容になっていると思います…!

なお番外編○○編につきましては少々ネタバレ要素が強いため、読んでのお楽しみとさせてください!!


それでは引き続きよろしくお願いいたします…!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ