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第188話 社畜vs不死族 下

「お前ら、あいつを食い殺しちまいな!」


『『『――――ッ!!』』』



 アルマさんの掛け声を合図にして、影の獣たちが一斉に襲い掛かってきた。


 大型犬サイズの、真っ黒な獣だ。


 フォルムからすると狼とかコヨーテだろうか。


 クロに似ていなくもないが、どう考えてもクロの方がカッコイイし強い。



「物量作戦は悪い手ではないですが……少々数が足りませんね」



 四方八方から押し寄せるそれらを、俺は慌てず騒がず『バッシュ』でかき消していく。


 正面からの噛みつき攻撃は半歩身体をずらして避け、そのまま通り過ぎる相手の胴体に手を当てバッシュで吹き飛ばす。


 左右からやってきた連中は屈んで躱し、背後の死角から襲い掛かってきた個体の腹を蹴り上げ距離を取る。



 一つ心苦しい点があるとすれば、コイツらのフォルムが犬型だからだろうか。


 クソ……犬好きの俺の弱点を突いた、なんて卑怯な攻撃だ……!


 というのは冗談で。


 魔物は魔物、敵は敵。


 そこは線引きはしっかりとできている。


 容赦は一切しない。


 だがわずかに残るこの心の痛みは……戦いのあとにクロをモフり倒すことで癒させてもらおうか……!!



「……へえ。アラタさん、やるじゃん。魔法と格闘を組み合わせた戦闘スタイルってのは珍しいねぇ」


「…………」



 アルマさんが高みの見物を決め込みながら、感心したようにそんなことを言っている。


 俺はそんな様子を横目で見ながら、横から襲い掛かってきた影の獣を『バッシュ』で消し飛ばした。



 うん、全然戦えてるな。


 相手は影のように真っ黒だが、ちゃんと実体を持っている。


 それゆえ互いの身体が干渉し合い、全個体が同時に襲い掛かることができないようだ。


 俺は建物の壁や街灯、それに階段や柵など周囲の地形をうまく活用しつつ、同時に一体から二体だけと対峙するように位置取りをしていく。


 この程度ならば、スキル『乱戦の知識(基礎)』による恩恵で俺一人でも十分な立ち回りが可能だ。


 そして……どさくさに紛れて死角から攻撃を仕掛けてきたアルマさんに気づくことも容易かった。



「……おっと」



 斜め背後からふいに現れた強烈な殺気を、振り返ることなく躱す。


 直後、ボッ! と空気が爆ぜるような音と共に丸太のような腕が俺のすぐ横を通り過ぎた。


 風圧だけで身体がビリビリと震えたが、無傷である。



「なっ……後ろに目でもついてるのっ!?」


「いやぁ、殺気でバレバレですよ」



 アルマさんは攻撃を躱されて驚いているが、俺からすればバレバレ過ぎて逆にどうバレずに躱そうか迷ってしまったくらいだ。


 おそらく先の攻防で手首を消し飛ばされた怒りの感情が先走っていたのだろう。


 それはもう、炎の塊が迫ってくるかと思うくらいあからさまだった。



「チッ……やっぱり本気を出さなければ勝てないか……」



 アルマさんは小さく吐き捨てると、再び俺から十分な距離を取った。


 さらに猫のようにヒョイヒョイと建物の壁を蹴り、屋根の上に登ってしまった。


 彼女はそこから俺を睨みつける。



「さすがだよ、アラタさん。やっぱり私の目に狂いはなかった。『指名依頼』は正しい選択だった。このまま行けば、きっと王国指折りの冒険者になった(・・・)と思う」


「……それはどうも」


「貴方は将来、必ず魔王様の障害になる。だから……だから、出し惜しみはなしだ。今ここで、私の全力で叩き潰してやる。来な、獣どもッ――!!」



 アルマさんが絶叫する。


 それと同時に、今度は何百体もの影の獣が周囲に発生。


 前後左右、建物の屋根にもいる。


 あたり一帯、真っ黒な獣で埋め尽くされている。



「おぉ……これは壮観ですね」


「あはッ……! 残念だったね、アラタさん……! これで私の勝ちだよ。……行けッ!!」



 勝ち誇ったように高笑いしながら、アルマさんが影の獣たちに指示を飛ばす。


 次の瞬間。



『『『――――ッ!!』』』



 影の獣たちは、互いに身体がぶつかりあうのも構わず、俺目がけて四方八方から一気に殺到してきた。


 どうやら物量と質量で俺を圧し潰す作戦に切り替えたらしい。



「なるほど、これならば間違いないですね」



 アルマさんの判断は極めて正しい。


 最初から舐めプなどせず、こういうやり方で来るべきだったのだ。


 戦力の逐次投入など愚の骨頂。


 仕留めるならば最大戦力を持って一気呵成に。


 それを体現するかのような、凄まじい飽和攻撃だった。



 当然、とてもじゃないが『バッシュ』でこんな数を捌ききることはできない。


 だが……それでも、俺に攻撃を届かせるには全くもって足りない。



『『『――ッ!?』』』



 ――ギンッ!!


 俺に迫ってきた魔物たちが、空気が砕けるような甲高い音とともにバラバラになった。


 直後、それらの残骸が淡い光の粒子となり虚空に溶け消える。



「あはははッ! 私を舐めた報いだ、手足をもぎ取られてもがき苦しみ――ウソ……でしょ……!?」



 アルマさんの哄笑が徐々に消え、目を見開き、驚愕の表情へと変わってゆく。



「ふう……即席だったけどうまくできたな」



 そんな様子をチラリと見ながら、俺は小さく呟く。


 タネを明かせばなんということもない。


 深淵魔法『奈落』の連打によるカウンターである。



 『奈落』は、発動する際に三次元空間における座標と発動範囲を指定する必要がある。


 これを戦闘時に動き周りながらこなすのは少々骨だ。


 相手に攻撃を当てるのは至難の業といってもいい。



 というか、戦闘中にそのような複雑な計算するために脳のリソースを喰いたくない。


 相手の次の攻撃の手を読む、こちらの位置取りを把握する、考えるべきことはいくらでもあるからだ。



 そこで俺は発想の転換をすることにした。


 つまり……自分はできるだけ動かずに、相手の攻撃タイミングに合わせて発動させる。


 ポイントは、その攻撃の量である。


 『奈落』の発動最小単位である10センチ立方の『空間転移のキューブ』を百個ほど、自分から1メートルほど離れた全周囲の空間にランダム(・・・・)にばら撒くことにしたのだ。


 サイズは固定、距離だけ一定、その他の配置はほぼ適当。


 この魔法は行使から発動までに若干のタイムラグがある。


 つまり魔法が発動する前に連続かつ大量に行使すれば、自分を取り巻く攻防一体のモザイク状結界が完成するという寸法である。


 そして影の魔物たちはこの不可視かつ三次元の地雷原に自ら突っ込み、その身をバラバラに引き裂かれてしまったのだ。



 まあ、これは『身体能力向上』のスキルありきのうえマナが十万単位で溶けていく超が付く荒業なので、連発はできないのだが……


 ここ一番の面制圧力に関しては手持ちの魔法やスキルの中では最強クラスと言えるだろう。



「バ、バケモノめ……」



 呟いて、アルマさんが膝をついた。


 数百体もの影の獣を作り出したおかげで、彼女の魔力はほとんど底をついていた。


 顔には疲労の色が濃く出ており、目は虚ろだ。


 この虚脱状態は攻撃を破られたことによる精神的なショックが大きいだろうが、魔力の量からしておそらくもう『魅了』すら発動させることはできないはずだ。


 どうやら先ほどの影の獣による飽和攻撃は、彼女の切り札だったらしい。



 ……それが分かるのも、俺が彼女に『鑑定』を逐一掛けまくっていたからだ。


 影の魔物を作り出すたびに刻一刻と減ってゆく魔力を、俺は何度も『鑑定』を掛けながら観察していた。


 彼女が『鑑定』に反応しないことが、逆にアドバンテージになったわけだ。



「さて、魔力も底をついていると思いますが……まだ続けますか?」


「……ッ、それもバレてるの!?」



 図星を突かれたアルマさんの顔が引きつった。


 それから観念したように、大きくため息を吐いた。



「はあ……どういう魔法か知らないけど、何もかもお見通し、ってわけか……もう無理だ。降参だよ」



 彼女はそう言って屋根の上にドカっと座り込むと、あっさりと両手を挙げたのだった。

どうやらAmazonの予約ページ(ページ下部にリンクあります)で口絵と主要な登場人物のイラストも公開されているようです!

あの狂暴魔法少女の姿も……!? これは要チェックですよ…!!


それはさておき、書き下ろしとなる番外編2本と購入特典SS1本の内容が

決まりましたのでお知らせいたします!!


番外編1⇒○○編

番外編2⇒クロ編

特典SS⇒ロルナさん編


番外編・特典SSともにかなり読み応えある内容になっていると思います…!

なお番外編○○編につきましては少々ネタバレ要素が強いため、読んでのお楽しみとさせてください!!


それでは引き続きよろしくお願いいたします…!

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