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第180話 社畜、交渉する 下

「どうやら本当に敵ではないみたいだな。……少し話をしないか? こっちの武器は手放せないが……攻撃はしない。人形も使わん。使えんが……とにかく、それで構わんか?」


「わかりました。もとより私に攻撃の意図はありません。個人的には不本意ではありますが……先ほどの戦闘は不幸な事故だった、そういうことでよろしいですか?」


「……話が早くて助かる」



 ムルクさんは心なしかホッとした様子で、手に持った武器を鞄にしまい込んだ。


 武装解除とはいかないが、こっちに敵対する意思はないと示すためだろう。


 口調も、襲撃の時のようなチンピラ風ではなく、落ち着いた話し方に変わった。


 本来の彼は、こっちの口調なのだろう。


 対して俺はそもそも丸腰だが……とりあえず両手を挙げて、攻撃の意思がないことを示しておく。



 一応、『聖女襲撃事件の犯人』ではないことだけ理解してもらえたようだが……まだ油断はできない。


 ある意味ここからが本番だ。



「じゃあ、質問だ。どうやらバレてるようだから今さら隠し事はしない。正直に行こう。俺はムルク・トゥルガ。王国近衛兵団所属の捜査員だ。詳しい所属まではいいな? ……今は聖女様を襲撃した犯人どもを追っている。……お前は何者だ?」


「私はアラタ・ヒロイと申します。出身国はお答えいたしかねますが……ただの行商人です。一応、冒険者もやっています。ただ、貴方の想像しているような組織との関わりはないことだけはお約束できます」



 一切、と言い切れなかったのは、先日例の暗殺者ギルドの男と交戦したからだ。



「……いいだろう。それで、俺の本名をどこで知った? まさか、同僚ってわけはないよな? あんたの顔なんて知らんぞ。新入りだったらすまんが」


「すいません、それはお話しできません。ですが、同僚ではありません」


「……わかった。あんたが『同僚ではない』という情報だけで十分だ。なるほど、他国の機関か。まあ、いいだろう。だいたい見当はつく」



 言って、チラチラこちらの様子を窺うムルクさん。


 どうやらどこかの国のエージェント的な存在と勘違いしているようだが……すまない、俺は別にそんな凄いヤツじゃないんだ……


 最近会社でちょっと昇進したばかりの、ただのサラリーマンなんだ……



 つーかムルクさん、俺の素性、見当付くんだ!?


 俺には、俺がこの世界のどの組織に属しているかなんて皆目見当もつかないんだが!?


 とはいえ、ムルクさん言動から、黒髪黒目の連中がどこか別の国とか組織に属しているらしい、という情報は得られたのは僥倖だ。


 そういえば、この国は大昔から日本人を召喚しまくってたんだっけ……


 そういう連中が、仕事を成し遂げた後別の国で暮らして集落などを作っていてもおかしくはない。


 まあ……今は、その辺の考察は後回しだ。


 さて、こちら側の情報はどう出していったものか。



「こちらの所属はさておいて……実は、(くだん)の暗殺者ギルドについては、私も少々困っておりまして」


「ほう?」



 ムルクさんが興味深そうな反応を見せる。


 とりあえず、続ける。



「日時は明かせないのですが、私も一度彼らの襲撃を受けまして。……撃退はしましたが、あまり何度も続くのは面倒です。彼らのアジトはご存じありませんか?」


「……あんた、連中を撃退したのか!?」


「残念ながら、いろいろ聞き出す前に自害されてしまいましたけどね。なかなか、喰えない連中です」


「ふん、あいつらは皆頭がおかしいからな。ククク……なるほど、しばらく連中が大人しかったのはそういうことか」



 何がおかしかったのか、ムルクさんが含み笑いを漏らす。


 それから俺を再び見据えた。


 先ほどまでの疑念の色はもう見られなかった。


 代わりに浮かんでいたのは、何か新しい玩具を見つけた子供のような、好奇心の色だった。



「いいだろう。どうやら飼い主は違うようだが……目的は同じらしい。ならば、俺たちは敵同士じゃない。意味は分かるな?」


「こちらとしても(やぶさ)かではありません」



 俺は頷いた。


 利害関係が一致している以上、わざわざ敵対する必要もない。



「よし、今から俺とあんたは味方同士だ。といっても、基本は不干渉でいいだろう。互いの仕事の邪魔をしない。余計な詮索はしない。現場がカチ合っても基本的には敵対はしない。その時の利害関係によっては、協力する。そういう間柄だ」


「いいでしょう。私もあまり干渉されるのは困りますから、そのくらいの距離感がちょうどいいかと思います」


「よし、交渉成立だな。アラタ、と言ったな? まあ仲良くやろうぜ」



 言って、ムルクさんが右手を差し出してきた。


 俺は少しだけ躊躇(ためら)ったが、結局彼の手を握ることにした。


 冷たく、ごつごつした手だった。



「ひとつよろしくお願いします」


「うむ。俺はもう行く。……ああ、それと、だ」



 立ち去ろうとしたムルクさんが振り返り、言った。



「……今のところは、あんたにアンリ様を預けておく。だが、王国が聖女様をお前らに引き渡すことはない。覚えとけ」


「肝に銘じておきます」


「……回復薬の借りはいずれ返す。じゃあな」



 言って、ムルクさんは路地裏から出ていった。


 ふう……どうにか最悪の事態に陥ることだけは回避できたかな。



 しかし、今のやりとりだけで俺がアンリ様サイドの人間だと見抜かれてしまったようだ。


 だから頭の切れるヤツとの会話はイヤなんだよ……


 さすがにアンリ様が日本にいるとまでは見抜けないだろうけどさ。



「はあ……疲れた」



 とにかく、宿に戻ろう。

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