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第14話 社畜vsミミック

「よし、いくぞクロ」


『…………』



 俺とクロはビルの前で気合を入れる。


 ダンジョンへ続く扉があるビルは、通りから一本奥に入った場所に建っている。



 そのおかげで夕方だというのに周囲に人気はない。


 ビル自体も、休日なせいか人がいる気配はなかった。



 念のため俺は辺りを見回してからダンジョンへ続く扉を開き、中へ入った。



「やっぱ独特の雰囲気があるよなあ、ここ」



 ダンジョンの通路は、外と違い重苦しい空気が充満しているように思える。


 たぶん通路の狭さとか、壁面とかが石積みだからだとかいろいろな理由があるのだとは思うのだが……ここまで雰囲気というか空気をはっきり感じるのは、今回が初めてだ。


 もしかすると魔眼のレベルが上がったり、『身体能力強化』のレベルを上げたせいで知覚が鋭敏になっているのかもしれない。



 ちなみに今回の探索では、俺は鉄パイプを装備している。


 当初は前回と同様に椅子とかでスライムを排除する予定だったのだが、ここまで来る間にあったゴミ捨て場にコイツが転がっていたので拝借してきた。



 というかゴミ捨て場に捨ててある鉄パイプとか、完全に不法投棄だよな?


 シールとかも貼ってなかったから粗大ごみでもないし。



 なので、俺が拾っても問題ない、はず……多分……きっと……



 まあ、鉄パイプの処遇はダンジョンの探索が終わってから考えるとしよう。



 とかなんとか考えつつ、一番最初にスライムに遭遇した広間までやってきた。


 すると、昨日と同様にウジャウジャとスライムが湧いてきた。


 今回は、9体ほど。


 やはり出現数は10体を基準に多少の振れ幅があるっぽいな。



「よっ……と。……うわっ!?」


 ――バシュッ!


 スライムを排除しようと軽く鉄パイプを振ったら、スライムが消し飛んだ。


 もちろん弱点を狙って振り抜いたから、一撃で倒せてもおかしくはないんだが……これの威力は想像以上だ。


 これ、『身体能力強化』のレベルが上がったせいだよな!?



「ま、苦戦するよりはいいか」



 それにしても、ダンジョンに入ってからとにかく身体が軽く感じる。


 もしかすると、この場所だと現実世界よりも身体能力が上がっているのかもしれない。


 ……ならば。


 ふと思い立って、俺は思い切りジャンプしてみた。



「うわぁっ!?!?」



 めっちゃ跳んだ。


 垂直飛びで、だいたい2メートルくらい。



 いやいやこれ、完全に世界新記録レベルなんだが!?


 少なくとも社畜おっさん(35、運動不足レベル99)が出していい出力じゃない。


 まあ、今後のことを考えるとこれくらいの脚力が必要かもしれないけど。



 ちなみに反射神経や身体感覚も向上しているのか、空中でバランスを崩すことはなかった。



 そんな感じで身体の調子を確かめつつ、数十秒で広間のスライムを殲滅完了。


 ちなみにクロはそんな俺を「我の出番はまだだな」みたいな感じで泰然とお座りしながら待っていた。可愛いやつめ。



 次の部屋へ移動。



「問題はコイツだよなぁ……」



 通路を抜けた先の小部屋に鎮座する宝箱を見て、俺は唸り声を上げる。


 この宝箱は、昨日の『鑑定』の結果からミミックであることがほぼ確実視されている。



 コイツを開くか開かず先に進むかどうかで、迷っているのだ。



『…………』


「ん、どうしたクロ」



 と、クロが俺の足元でこっちを見上げているのに気づいた。


 と思えば宝箱に近づいて、フンフンと周囲を嗅いでみせてくる。


 クロは俺に何を伝えたいのだろうか?


 ……あ、なるほど。



「よし、分かった。新しい『鑑定』を試せってことだな」



 思い出してみれば、こういう時のために『鑑定』のレベルを上げたんだった。


 さっそく使ってみる。



 《対象を鑑定中……完了》


 《対象の名称:ミミック/生命力1500 魔力50/危険度 低》


 《ミミック……宝箱に宿り獲物を狙うダンジョン産の魔物。宝箱の扉を開くと中から触手を伸ばして襲ってくるが、開かず宝箱ごと叩き壊してしまえばよい。ドロップ品は倒してのお楽しみ》


 なんかカジュアルな説明が出てきたぞ。


 まあ分かりやすいからいいけど。


 なるほど、これが『鑑定』レベルを上げた恩恵か。



 ていうか、ミミックの倒し方ってこんな脳筋スタイルでいいんだ……


 まあ、わざわざ開ける必要はないだろうけどさ。


 それに今の俺は、かなりの腕力があるはずだ。


 宝箱が見た目通り普通の木製プラスアルファくらいの耐久力ならば、叩き潰せないこともないだろう。



「じゃあ、『鑑定』の結果を信じて……ぬわっ!?」


『ジュルジュルッ!!』


 

 近づいて鉄パイプを振りかぶった、その瞬間。


 いきなり宝箱が開き、中からイカのような触手が飛び出してきた。


 触手は俺の攻撃を止めようとしたのか、振りかぶった腕に巻き付いてくる。


 うわっ……ヌルヌルして気色悪っ!?


 つーか宝箱の中、牙だらけだし、その奥には一つ目の眼球がギョロギョロ蠢いているし……マジで気色悪っ!!


 こんなところに引き摺り込まれたら、絶対無事じゃ済まないだろ……!


 

『ジュルジュルッ!!』



 ミミックが触手を使ってギリギリと腕を締め上げてくる。


 身体能力が上がっているせいか痛みはほとんど感じないが、これでは鉄パイプを振り下ろせない。


 クソ、完全に膠着状態だ。


 いや、僅かだけどミミックの方が力が強いようで、少しずつ引き寄せられている。


 このままじゃまずいかも……!


 と、その時だった。


 

『ガルッ……!!』


 

 横から唸り声が聞こえたと思ったら、目の前を何か黒いモノが通り過ぎた。


 バツンッ!


 俺の腕に巻き付いていた触手が弾けるように千切れる。



「クロ! サンキュー!」



 どうやらクロがミミックの触手に襲いかかり 切断してくれたようだ。


 さすがは従魔、きちんと仕事をしてくれる!


 もちろんこの隙を逃すつもりはない。

 


「うおりゃあぁぁっっ!!」


 

 コイツの弱点は、『弱点看破』のおかげで視えている。


 ちょうど牙だらけの口の奥、ギョロっとした眼球だ。


 俺は渾身の力を込めて、そこをめがけて鉄パイプを突き立てる。



 ――グシャッ!



 鈍く湿った音が響き、ミミックの本体がビクンと縮んだ。


 まるでイソギンチャクとかナマコとかに刺激を与えたような反応だ。


 だが、さすがにスライムのように一撃必殺とはいかない。



「まだまだ!」



 ミミックに捕まりそうになった恐怖も手伝って、俺は一心不乱に鉄パイプを『弱点』に振り下ろす。


 気づけば、ミミックはぐったりとしており……スライムを倒したときのように、やがて光の粒子になって消滅した。



「はあ、はあ……なんとかなったな……」



 ミミックを倒せた。


 それを自覚して、その場に座り込む。


 するとクロが近寄ってきて俺の身体に鼻を押し付けてきた。



「……クロ、ありがとな。助かったよ」


『…………!』



 言って、クロの頭をグリグリと撫でてやる。


 するとクロは尻尾をブンブンと振って気持ちよさそうにしていた。


 ダンジョンから帰ったら、なにかご褒美をあげないとだな。


 

「……ん? なんだこれ」



 しばらくクロを撫でまわして癒されたあと。


 ミミックの消えた宝箱の中に、なにか細長い物体が入っているのが見えた。



「これは……?」



 もしやドロップ品だろうか?


 ドキドキしながらとりあえず拾い上げてみる。



 それは鞘に入った武骨な短剣だった。

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