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第129話 社畜と上司と上司の舎弟

「桐井さん、廣井さんお疲れ様ッス!」



 打ち合わせが終わり机の資料を片付けていると、『装備課』の三木主任がやってきた。



「あ、お疲れ様です」



 さきほどは簡単に挨拶と名刺交換をしただけで打ち合わせ中はあまり話をしていなかったから、こうして向こうから話しかけてきてくれるのはありがたかった。



 ……それはいいんだが、なぜか妙に姿勢がビシッとしていて表情が硬い。


 さきほどの飄々とした態度からすると別人のようだ。



 なんだろうこの感じ。


 すごく体育会系のヴァイヴスを感じる。


 というか見た目が完全に元ヤン女子なので、レディースとかそういう系譜のアレだろうか。


 あっちの世界って上下関係厳しそうだしな……



 とはいえ、部署間での上下関係とかパワーバランスって特になかったよな……?


 さっきも『現場調整課』の郷田課長とバチバチのやり取りを繰り広げていたし。


 もしかして人見知りするタイプなんだろうか?



 と、先に反応したのは桐井課長だった。



「三木主任、お疲れ様です。お久しぶりですね」



 彼女はいつものほんわかした笑みを浮かべ、三木主任にかるく頭を下げる。


 いつも思うが、課長の癒しオーラハンパない。


 思わず俺もほっこりしてしまう。



 しかし三木主任の反応は俺の想定と真逆だった。



「ウッス! 桐井センパイ、先ほどはろくにご挨拶できず申し訳なかったッス!」


「!?」



 三木主任が腰をビッ! と直角に曲げて深々と挨拶をしたのだ。



「いえいえ、気にしないでください! というか……もうお互い立場もありますし、そんなに(かしこ)まらないでください……!」



 言って、桐井課長が両手を振り振りしながら慌てだした。


 こっちをチラチラ見ているが、その視線は妙に泳いでいる。


 が、三木主任はそんな彼女の様子に気づいていないようだ。



「いえいえとんでもないッス!」



 まばゆいばかりの体育会系オーラを放ちながら、三木主任が続ける。



「そういえば聞きましたよ! 先日は街でヤンチャしてた若いのを素手でボコしたんですよね? いやぁ、センパイもまだまだ『現役』っすねえ……! マジ『リスペクト』ッス」


「ちょっと三木さん!?」



 三木主任が褒めたたえるたびに、桐井課長の顔はどんどん真っ赤になっていく。


 そろそろ顔から湯気が出そうなんだが?



 しかしこれは……どういうことだろうか。



 まあ、この一瞬のやりとりでなんとなく二人の関係性は察することができるが……



「廣井さん廣井さん、ちょっとこっちへ。三木さんは……ちょっとそのまま待っててください!」



 と、何か限界に達したような表情の桐井課長が俺の服をクイクイと引っ張り、会議室の外に出るよう小声で促してきた。


 おめめがグルグルの課長かわいい。



「あ、はい」


「ッス!」



 とはいえ、ここは素直に従った方がいいだろう。


 とりあえず三木主任をそのままにして、桐井課長と共に廊下に出る。



「あの、違いますからね!?」



 会議室の扉を閉めたとたん、桐井課長が半泣きでそう訴えてきた。


 『違う』の前に主語が来ないあたりだいぶ混乱しているようだが、まあ言いたいことは分かる。


 元々、かなりの武闘派だということは分かっていることだ。


 先日もチンピラの片割れを通報後にあっさりと制圧していたし、胆力ひとつとっても見た目どおりのゆるふわ系女子ではない。



 そもそも論として、個人的には桐井課長が元ヤンでも別に気にしないが……


 ただなんとなくだが、それは今かけるべき言葉ではない気がする。



「まずは落ち着きましょう。いつもの課長らしくないですよ?」


「……っ、そうですね。少々取り乱しました」



 なるべく穏やかな声で語りかける。


 すると桐井課長はハッとしたような表情になり、その後何度か深呼吸をしたあと、再び俺に向き直った。



「まあ、大した話ではないんですが――」



 苦笑を交えつつ彼女が語った内容を要約すると、こうだ。



 曰く、三木主任とは十年来の付き合いである。


 もちろん桐井課長も元ヤンでも元レディースでもなんでもなく、彼女とは魔法少女時代に知り合ったとのことだった。


 ただし三木主任はそのころはイケイケというか血の気が多い性格で、ゆるふわで華奢な体格の桐井課長を舐めてかかってケンカを売ってきたそうだ。


 もっともその後はお察しというか……当時から桐井課長は相当な実力者だったらしく、三木主任をあっさり返り討ちにしたとのことだった(余談だが、三木主任の武器はスパイク付のバットだったらしい。完全にヤンキー系魔法少女である)。


 それ以来、三木主任は桐井課長を『センパイ』と呼んで慕っているそうだ。



 まあ魔法少女も妖魔やら怪人やらと戦うのがメインのお仕事ゆえ、気性が荒い人が多いのは仕方ないことなのだろうが……


 それにしても、現役の誰かさんを彷彿とさせるエピソードである。


 

「なるほど……話は分かりました」


「すいません、ご心配をおかけしたかもしれませんね」


「いえいえ、むしろ課長の過去話が聞けたのはよかったです」



 まあ、だいたいそんな話だとは思ってた。


 それにしても桐井課長、そんなに俺に対して『昔ヤンチャしてました』みたいなイメージを持たれたくなかったのだろうか。


 三木主任のせいで俺に勘違いされて嫌われたらどうしよう……みたいな。



 いや、さすがにそれは俺の願望が入りすぎているか。

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