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第12話 社畜と男飯

「ただいま」


『…………』



 ダンジョンで拾った狼――魔狼『クロ』を連れて帰宅する。


 すでに深夜だったからか、帰る途中に誰にも会わなかったのは幸いだった。

 


 ていうか今さらだけど、こいつって普通にダンジョンから出れるんだな……



 となると、あのスライムとかどうなんだろう。


 あんなのが街に出てきたら、大騒動だぞ。


 ちょっと不安になってきた。



 まあ、ダンジョンの扉はちゃんと閉じたし、そもそも大した強さはないからすぐに駆除できるとは思うけど。



 それにしても。



「ふあ……もうこんな時間か」



 時計を見ると、すでに時刻は午前3時を回っていた。


 久しぶりに思い切り身体を動かしたのと、クロの件があったせいで、さすがにクタクタだった。



 シャワーを浴びる前にちょっと休憩を……とベッドに座り込んだとたん睡魔が襲ってくる。


 とても抗えない眠気だ。



「ごめんクロ、いろいろやるのは明日になってからだ」



 言って、横になる。



『…………』



 するとクロがベッドに上がってきて、俺の隣に寝ころんだ。


 どうやら一緒に眠る気らしい。


 お腹のあたりに、モフっとした感触。


 おおふ……


 これまで味わったことのない多幸感が俺の脳裏を満たしてゆく。


 同時にクロを思い切り撫でまわしたい衝動に駆られたが、それはさすがに思いとどまった。



 こんなチビになっても、元は馬みたいにでかい狼の魔物だからな。


 今はまだ変なことをして機嫌を損ねたくない。



 それに、俺のもう眠気も限界だった。


 ついでにいえば、クロのモフモフの毛並みが身体に触れていることで猛烈な安心感が押し寄せてきて――



 ……………………


 …………



 夢は、見なかった。




 ◇




「ふあっ……ふぁっ!?」



 気づくと昼すぎだった。


 し、しまった! 会社に遅刻……って今日は休みか。



 弊社の良いところの一つとして、お役所を相手にする業務がある関係でカレンダー通りのお休みを頂けることがあげられる。


 つまりは土日祝日休みなのである。


 つまり弊社はホワイト。


 朝7時半から夜23時まで働いて残業代出ないしボーナスも出ないけどホワイト。いいね?


 

『…………』

 

「あっごめん、起こしちゃったな」


 

 慌てて飛び起きたせいで、隣で寝ていたクロも起きてしまったようだ。


 頭をもたげ、どことなく非難するような目を向けてくるクロに軽く謝る。


 

「とりあえず飯にするか」



 昨日の夜はなんだかんだでゼリーしか腹に入れてなかった。


 そのせいで猛烈に腹が減っている。



「ええと……あったあった」



 冷凍庫を開けると、カチカチに凍ったタッパーがいくつか見えた。


 先週の休日に作りためていた惣菜類だ。

 

 たしか、今週用のやつは肉野菜炒めと肉マシマシの豚汁だったかな。


 しかもこれぞ男飯と言わんばかりのドカ盛りである。


 

 やはり社畜は体が資本。


 

 コンビニやスーパーの惣菜だけでは健康と体力を保てないから、休日にはできる限り自炊するようにしている。


 自炊って最初こそ面倒くさいものだけど、何度か作ってコツを覚えてしまえば好きなものは作れるしそこらの惣菜なんかよりもずっと美味しいしで、すぐにハマってしまった。


 今俺の冷蔵庫の中には、よく分からない香辛料とか調味料とかが山ほど眠っている。


 そういえば職場の同僚は同棲している彼女さんとか奥さんに作ってもらっているらしく、昼時になると可愛らしいお弁当を見せびらかしてきたっけ。


 

 ……寂しくないったら寂しくない。


 

 それはさておき、昼飯だ。


 

『…………』


「……ん? どうしたクロ」



 クロが俺の足元までやってきてこちらを見上げている。


 そういえばコイツの分も準備しないとだな。


 

 ええと、犬はネギ類とかニンニクはダメだったはずだから……


 

 肉野菜炒めは男飯なのでニンニクとニラたっぷりだから却下。


 というか俺の献立はこれに決まり。



 消去法でクロは豚汁だな。


 こっちはネギも玉ねぎも入れていないから問題ないはずだ。

 


 というか……魔物でもやっぱその手の食材ってダメなんだろうか?


 他にも魔物ならでは、魔狼ならではの苦手食材とかがあったら困るな。


 とはいえ、見た目は完全に犬だし匂いとかで食べられないと判断してくれることを願うばかりである。



「ま、大丈夫だろ」



 俺はタッパーを2つ手に取ると、レンジに突っ込んだ。




「よし、いただきます!」


『…………!』



 レンジの加熱が終われば、食事タイムだ。

 

 テーブルには、肉野菜炒めとご飯に味噌汁が並んでいる。


 ご飯はあらかじめ小分けにして冷凍しておいたやつで、味噌汁はインスタントのやつ。 


 クロには肉マシマシ豚汁。


 さすがに熱々はダメだろうから、こっちは人肌程度の温度に調節した。


 もちろんテーブルの上においても食べられないから、床にランチョンマットを敷き、さらに広めの皿の上にタッパーを置いた。


 これでちょっとくらい食べ散らかしても大丈夫だ。



「……うん、うまい」



 準備が整ったので、さっそく俺は熱々の肉と野菜をご飯と一緒に口の中に放り込んだ。


 肉野菜炒めをぎゅっと噛み締めると、最初に来るのはジューシーな豚肉の旨みだ。その後に野菜のシャキシャキとした歯応え。


 味付けはニンニクペーストと塩胡椒、それにオイスターソースくらいなものだが、なんだかんだでシンプルイズベスト。これこそが至高。


 ご飯と味噌汁については、語るまでもないだろう。


 

 これぞ男の食卓というやつである。


 

『…………!』



 クロの方も、最初は豚汁を警戒してペロリと舐めただけだったが、それで虜になったようだ。


 今ではガツガツと貪るように豚汁を食べている。


 気に入ってくれたのなら何よりだ。




「ふう、食った食った」


『…………』



 クロも満足したらしく、俺の足元で丸くなっている。



 で、人心地ついたところで思い出した。



「そういや俺……昨日結構な数の魔物を倒したよな」



 スライムもだけど、トレントで作られた(?)槍もそうだ。


 正直、どのくらいマナを獲得できたのか気になる。



「ステータス、オープン」



 俺の意思に呼応して、ステータスが目の前に表示される。



 《廣井アラタ 魔眼レベル:3》


 《体力:120/120》


 《魔力:200/200》


 《スキル一覧:『ステータス認識』『弱点看破:レベル2』『鑑定:レベル1』『身体能力強化:レベル1』『異言語理解:レベル1』『明晰夢:レベル5』『魔眼色解除』》


 《従魔:魔狼クロ → スキルセット(1)『なし』》


 《現存マナ総量……105,640マナ》



 …………なんか獲得マナ総量がバグってませんかね!?

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