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第1話 左目の異変から始まった

 朝目覚めたら、左の視界が(あか)かった。



 色だけじゃない。


 灼熱感もある。


 まるで眼球の奥に炎が灯ったようだった。



「なんだこれ……」



 ベッドの上でぼやいた。



 昨日の仕事終わりに課長につかまり、そのまま飲み屋に連行されたのを思い出す。


 課長の説教と武勇伝(若いころヤンチャしてたらしい)をしこたま聞かされ酒を飲まされ……


 そのあと酔いつぶれてしまったのか、飲み屋から自宅のアパートまでどう戻ったのか記憶がない。



 いや……覚えていることもある。


 たしか飲み屋街の路地裏で胃の中のモノを全部吐いて、通りすがりの親切な誰かに介抱された記憶がおぼろげに残っている。


 いや、俺と同じく酔いつぶれて倒れそうになっていた誰かを介抱したんだっけか。


 酔いすぎて、正直よく覚えていない。



 ……そのときに汚れた手で目を擦ってしまったのだろうか。



 とはいえ今のところ目の痛みはないし、眼病特有のゴロゴロとした異物感もない。


 片目の視界が赤いのでちょっと混乱するが……それだけだ。



 むしろ体調は昨日よりずっと良好だった。


 大して酒が強いわけでもないので、課長に飲み屋まで連行された次の朝は毎回ひどい二日酔いに悩まされるはずなのに。



 とりあえずベッドから抜け出して、洗面所へ。


 で、鏡で見た。



「…………」



 ボサボサの寝ぐせ、起き抜けの無精ひげ。


 寝ぼけたオッサンの姿。


 廣井(アラタ)、三十五歳。


 まごうことなき俺である。



 で、肝心の目なんだが。



 (あか)く光っていた。


 充血とかじゃない。真っ赤に光っている。


 意味わかんねぇ。



「なんだこれ……」



 明らかに目が異常をきたしている。


 多分病気だろう。


 だけど目が光る病気なんて、見たことも聞いたこともない。



 ていうか、これ……まるで『魔眼』じゃん。


 漫画とかアニメに出てくる、アレだ。



 妖しく片目が光る三十五歳の社畜おっさん、爆誕。


 絵面が最悪すぎる。


 こういうのは、せめて中二とかでなって欲しかった……



 冗談はさておき。



 実際のところ、これは割とシャレにならない。


 目の病気は結構危険なものが多い。


 ものもらいだって結膜炎だって、悪化すれば失明することだってあるはずだ。


 目が光っているのなら……最終的にどうなってしまうのか、見当もつかん。



 そんなわけで急いで眼科を受診したいところだが、当分は無理だ。


 平日は仕事があるからな。


 朝7時半から夜23時まで、みっしりと。


 なお定時は朝9時から夕方18時の模様。


 弊社がブラックなのが悪いのだが、多分眼科が開いている時間に帰宅することができない。


 となれば、土日に診てもらうしかないのだが……



「ええと……今日が水曜日だから……」



 少なくとも、三日くらいこのままってことか。


 これ以上悪化しないといいんだが。



 とはいえ、悩んでいても仕方ない。


 朝の時間はやたら早く過ぎてゆく。


 俺は急いで顔を洗い、適当に寝ぐせを整え、よれよれのスーツに着替えた。


 それから部屋の棚から薬箱を引っ張り出す。



 この中には、以前ものもらい(・・・・・)になったときに薬局で買った眼帯の余りが入っていたはずだ。



「お、あったあった」



 目当てのモノを探り当て装着する。


 これが俺の、当面の社会的生命線(ライフライン)



「と、時間だ」



 ふと気づき時計を見れば、すでに六時を回っていた。


 会社まではドアツードアで一時間弱。


 今から出れば、十分間に合う時間だ。


 朝食はコンビニでゼリーでも買って駅のホームで一気飲みすればいいし。



「はあ……眼帯の追加、買ってこないとだな……」



 眼科は無理にしても、せめてドラッグストアが開いている時間帯までに会社を出られるようにしたい。


 無理だったら……しばらくコイツを使い回すハメになる。



 とはいえ、だ。


 眼自体には痛みも違和感もない。


 とにかく体調だけはメチャクチャ良好だし。


 出社したら課長やら同僚には弄られまくるだろうが……なんとか今日を乗り切れそうだ。


 まあ、多分大丈夫だろう。




 ◇




 その時まで、俺はそう思っていた。


 この『魔眼』の覚醒により、今後の人生が大きく変わることになるとは……想像だにしなかった。

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