焔の婚約指輪
「そうか、フレア。君は僕の秘密を知ってしまったんだね」
「秘密って……これは浮気でしょう! どういうことですか! わたしを愛しているっておっしゃっていたではありませか」
上級騎士のスカイは、冷徹な表情でわたしを睨みつけた。
「愛なんてとっくに冷めていたさ」
「え……」
「見てごらん、婚約指輪はもう捨てたよ」
悪魔のような表情でスカイは笑った。
……どうして、どうしてそんな顔ができるの。
「スカイ……あなた」
「そうさ、もう君に愛想を尽かしている。僕はね、伯爵令嬢のエリスに興味があるんだ」
「そんな、酷いです」
「もういいだろ。婚約破棄してくれ」
その言葉が酷く突き刺さった。
頭が痛い……。
クラクラする。
わたしの心が壊れそうだった。
最近のスカイの行動はどこかおかしいと思っていた。
けど、それでもわたしは彼を信じていた。なのに。
「…………後悔しますよ」
「それはない。僕は一瞬で君を忘れるよ」
背を向け、去ろうとするスカイ。
わたしを捨てたからには彼には天罰が下る。
「馬鹿な人」
「……なんだと?」
「指を確認した方がいいですよ、スカイ」
「指? 婚約指輪なら捨てたと言った――なッ!?」
指を確認するスカイは驚いていた。
直後、彼の指から“発火”が起こり、炎が全身に巡っていった。
「それがわたしの愛の証。婚約する時に言ったでしょう?」
「そ、そんな……この魔女が! 熱い、熱い、うああああああああああああ…………」
メラメラと燃えていくスカイ。
裏切るということは、そういうこと。
わたしには特別な力があった。
愛によって増幅する魔力。
それを応用した指輪の力。
婚約指輪に魔力をこめてあった。
裏切りがトリガーになるように。
やがて、スカイは燃え尽きてしまった。
直後、エリスが現れて悲鳴を上げた。
「ス、スカイ様! ウソでしょう!?」
「エリス。よくも、わたしの婚約者を奪いましたね」
「この人殺し!!」
「そのセリフをそっくりそのままお返しします」
「え……?」
「スカイを殺したのは貴女。わたしから彼を奪ったから、こうなった」
指を鳴らし、わたしは衛兵を呼んだ。
「フレア様、ご用件はなんでしょうか」
「この女、エリスが殺人を犯しました。彼女を捕らえなさい」
「分かりました」
衛兵は、エリスを捕らえた。
「ふ、ふざけないで!」
「さようなら、エリス。もう二度と会うことはないでしょう」
「ふざけんな、この魔女!!」
エリスは連れていかれた。
最後まで醜く叫んでいたけど、もうどうでもいい。
溜息をつくと、庭から人影が。
「やあ、フレア」
「クロウ」
城伯にして幼馴染のディン・クロウが姿を現した。
彼は今回のスカイのことを教えてくれた情報提供者だった。
「スカイは?」
「燃えて灰になりました」
「そうか。それは気の毒に」
「残念でなりません。愛していたのに」
「それほどまでにスカイを」
そう、わたしは心の底から愛していた。
でもその結果がこれだった。
「もうどうすればいいのか分かりません」
「フレア、俺の城へ来ないか」
少し悩んだ。
クロウのことは嫌いではない。
昔から優しくて、背が高くて金の髪も美しいし、わたしには遠い存在だった。
彼は多くの女性からアプローチを受けていたから……わたしなんて相応しくないと感じていた。
でも、今なら……。
「いいのですか?」
「俺と君の仲じゃないか」
「ありがとうございます、クロウ」
「いや、いいんだ。それに、フレアと一緒にいたいと思っていたんだ」
「え、それってどういう……」
彼は照れくさそうに背を向けた。
……もしかして。
そっか、そうだったんだ。
気づかなかったな。
もう少しがんばってみよう。
彼に好きになってもらえるように。
以上、短編版です。
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