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その日から所長の蛸山が兼務する先端医療ウイルス科は、画期的な発見を目指し、新たな研究グループを科内に立ち上げたのである。そのアド・ホックチームのチームリーダーに海老尾が就任した。蛸山としては他の人物にするかどうかが悩ましかったが、知己の海老尾を選任したのである。
そして、瞬く間に月日は流れ、年が変わろうとする年の瀬である。蛸山と海老尾は料亭で鍋を突きながら一杯やっていた。
「ははは…どうやら来年は、いい年になりそうだな」
「はい、所長っ! 僕としても鼻高々ですっ!」
「ははは…まさか、君が新ウイルスを考えてくれるとは、実のところ思ってもみなかったんだが…」
「そうでしたか…まあ、一杯っ!」
海老尾としては、思ってなかったのかいっ! という気分で蛸山をチラ見しながら銚子の酒を蛸山に促した。
「ああ…。よく思いついたね?」
蛸山は猪口を手にし、海老尾が注いだ酒をグビッ! とひと息に飲み干した。
「えっ? ああ、モレヌグッピーを少し操作しただけなんですが…」
海老尾は夢に現れるレンちゃんが、その手法のヒントをくれた・・などとは口が裂けても言えない。蛸山が立ち上げたチームリーダーとしてのプライドも少しあった。
「いや、それは私もやったんだが、君のようにはいかなかったから…」
「ははは…まぐれですよ、まぐれっ!」
「いやいや、まぐれだけでは新しいウイルスは思いつかないよ」
「有り難うございます」
海老尾は素直に礼を言ったが、心ではレンちゃんに感謝していた。新ウイルスは、いわばレンちゃんの従兄弟に当たるような存在だった。それを夢の中で自己紹介され、夢の通りにウイルス変換をして生み出しただけなのである。
続




