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夏ちゃんが、この二人には付き合ってられない…とばかりに早々と厨房へ姿を隠すと、海老尾が小声でボソッと蛸山に訊くでなく訊ねた。
「アメリカの製薬会社メラコがモラスピラニアを出すそうですねっ!」
「ああ、らしいな…。予防ワクチンから、やっと治療薬だ。我々もこうしちゃおれんぞっ! そうでなくとも、国産ワクチンが作れんのかっ! と小五月蝿いメディアの連中が突くからなっ!」
「ですよねっ! しかし、今回、治験中のモレヌグッピーは先生、なんかやれそうな…そんな気しませんかっ!」
「ああ…。だが、口外は絶対ダメだぜ、海老尾君っ! 君は口が軽いからなぁ~」
「馬鹿、言っちゃいけませんよっ! 僕だって言っていいことと悪いことの見境はつきますから…」
「大丈夫かいっ? 君の大丈夫は、どうも信用できんからな」
「信用してくださいよっ!」
海老尾が声を大きくしたとき、夏ちゃんが肉野菜定食とニラレバ定食をトレーに乗せて厨房から現れた。
「お待たせしました…」
夏ちゃんは珍しく田舎訛りがない愛想いい声で定食を置いた。二人は空腹だったのか、豚や牛が餌を貪り食うように食らい始めた。
「ここのは、ほんとに美味いなっ!」
「ですよねっ! この香ばしい味はハートに沁みる一品ですっ!」
「鴨屋以外の店には入る気がしないんだから大した腕ですよねっ!」
『ありがとさんでっ!!』
その声が厨房に届いたのか、厨房の奥から店主の大きな声が返ってきた。
「奥まで聞こえてるんですねっ! 大きな声は出せないな…」
「ああ…出せない、出せないっ! さっきの話、大丈夫かなっ?」
『ああ、熱帯魚のお話でしたなっ! 研究所で飼ってられるんですかっ!?』
「えっ!? ああ、まあ…」
蛸山は危うく暈した。
続




