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 宇津保イブニングショーに蛸山と海老尾が出演した当日の模様である。

「この(たび)、ノーベル生理学・医学賞を受賞された国立微生物感染症化学研究所の蛸山所長と、その助手の海老尾研究員にお越し頂きました…」

 MCの宇津保は()まずに言えてよかった! と内心でホッ! と安息の息を漏らしながら二人を紹介した。蛸山は、追加は余計だろう…と思い、海老尾は海老尾で、僕は助手じゃないぞ…と内心で思いながら、しかし、そうとも言えずグッ! と我慢して、二人は笑顔で軽く頭を下げた。

「とにかく、お目でとうございます」

「はい、有難うございます」

 蛸山は、とにかくは余計だろっ! と、また内心で怒れたが、そうとも言えず笑顔で応じた。

「多くの人々が死の恐怖から救われたという事実は、それだけでも快挙と言えるんではないでしょうか…」

「ええ、まあ…」

 蛸山は、そこをもっと言ってくれよ…という気分で(ぼか)した。

「今後、どのように感染症は推移するとお考えでしょう…」

 宇津保は鋭い質問を二人に浴びせた。

「それはですね…」

 蛸山が一瞬、言葉に詰まった。

「僕の予測ですと、ひとまずは安心出来る状況が続くと思います」

 海老尾が蛸山をフォローする。

「なるほど…。では、このまま終息に向かうと?」

「いえ、向かうかどうかはウイルスに(たず)ねないと、分かりませんが…」

「ははは…。と、いいますと?」

「私どもには、どのように推移するか? は分からないということです」

 蛸山が息を吹き返し、海老尾を逆フォローした。

「確かに、それは言えます…」

 宇津保も深追いはしない。

「では、逆に皆さんなら如何(いかが)お考えでしょう? ウイルス感染症がこのまま終息に向かうと?」

「いえ、それは…」

 蛸山の攻勢に、宇津保は守勢に立たされた。

「…だと思います。研究しておる私どもでも分からないのですから…。なにせ、相手は見えない存在なのです」

「はい…」

 蛸山の説得口調に、宇津保は聞く人に後退させられた。

「ですから、このお話も、この辺りでTHE END(ジ・エンド)にした方がいいと思えます」

 海老尾が追撃する。

「? …」

 宇津保は意味が分からず、思わず海老尾の顔を見た。

『そうだ、そうだっ!』

 海老尾の深層心理に住むレンちゃんも海老尾を援護した。

「ははは…僕の独りごとです。深く考えないで下さい」

 海老尾は、しまった! と思ったのか、前言をすぐ撤回し、取り消した。

「まあ、私どもにも分からないということです」

 蛸山が海老尾を救う。

「はあ…」

「ただ一つ言えることは、このまま人類が文明を無秩序に進めれば、今後もこうした感染症や病気が生じる可能性が高い・・ということです。下手(へた)をすれば、絶滅した恐竜の二の前にならないとも限らない訳でして…」

 蛸山はやんわりと断言し、頭を下げた。海老尾も蛸山に追随し、ペコリ! と頭を下げた。

「では、この辺りで…」

 宇津保はフロアデレクターが示すカンペ[カンニング・ぺーパー]に急かされ、時間に追われながら番組を終えた。

 ということで、先行き不透明なこの話は、ひとまず終えることと致します。^^


                  完

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