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ブラックマーケット  作者: かむ
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第1話 『理想郷』

初創作&小説。

国語力ゼロなので滅茶苦茶拙い内容になりますが、頑張って精進していきたいと思います。


 ──もうだめだ。


 周りと、自分の状況を静かに理解した少女の顔に、諦めの色が浮かぶ。


 真っ暗闇に染まり、何もかもが終わっていく世界。

 先程逃がした人の足音はもう、聞こえない。

 1人残った少女に出来ることは、ただ終わりを待つ事だけだった。


 できるなら、その人と一緒に逃げたかった。

 でも、2人で逃げるのは不可能だった。どちらかが犠牲にならなくてはいけない。そんな状況で。

 だからこれは、仕方のない事なのだ。


 そうして塞がりようのない、見えない後悔の傷をどうにか誤魔化して、何もない空間で1人嗚咽を漏らしていた。

 少し時間が経つと、唯一の光源であるランタンの光も弱まり、次第に周りは暗くなっていく。

 何もかもが見えなくなっていって。

 終わりが、近づいてくる。


「──あ」

 

 闇が染まりきって、少女と世界の境界が曖昧になった瞬間、異変が襲った。

 途中、足の感覚が無くなって、空を舞った。


「飛ん、だ?」 


 違う。目の前にある壁は地面だ。

 なぜ、天井に吸い込まれたのだと勘違いをしたのか。

 三半規管が壊れたからだ。


「う」


 地面に手を着いた筈だったが、そもそもそんな器官は自分の体に存在していなかった為、顔を地面にぶつけてしまう。


「ふぶ、ぶ、ぐ」


 眼球を支えている筋肉が消え、宙ぶらりんになった目はぐるぐると回り始め、赤色と黒色の世界を交互に映し出していく。

 今まで経験したことのない感覚にあい、文字通り目が回って、強烈な吐き気と恐怖に襲われた。

 胃の内容物が口から溢れ出てる事に気づいたのは、蕩ける自身の体と吐瀉物が混ざり合ってからだった。


「ご、ぶふ──」


 痛みはない。ただ想像を絶するほどの気持ち悪い感覚が身体の中を縦横無尽に駆け巡っている。

 理解できない感覚と状況は絶え間なく続いて──。

 ──限界を迎えた意識は現実と切り離された。

 倒錯した彼女の脳髄の中を、昔の記憶と想いが走馬灯のように駆けていく。


「あの頃は、楽しかったな」


「良かった。私がおかしいわけじゃなかったんだ」


「やっぱりあの子だけは、特別だったんだな」


「ちゃんと逃げられたかな」


 碌な人生じゃなかったけれど、最期にあの子と仲直り出来たのだけは良かった。


 怖くて堪らないが、なぜだか安堵感がある。

 あの子の無事を、心から望んでいる。


 自分という存在が黒く塗りつぶされていき、遂には脳味噌までも空っぽになった。

 もう、安堵感の理由も、あの子の事も思い出せない。

 ただ、思い出せなくても、分からなくても、その2つの思いだけは最期まで消えずに残っていた。


                △▼△▼△▼△



 ──私には、大嫌いな双子の妹がいる。

 同じ血と遺伝子が私達の間には流れていて、違いなんて、私の方が先にお胎から出てきたくらいだ。

 にも関わらず、彼女は私より知能も体力も、頭ひとつ分以上抜きんでて優秀だった。

 私が1つの事を覚える頃には、彼女は10以上の事を覚えている。

 私が1キロ走る頃には、彼女は10キロ先を走り切っている。


 なぜ、なぜなのだろうか。

 年の離れた姉妹なら、まだ納得ができた。だが、私達は双子だ。

 ここまで差が生まれる物なのか。

 全てにおいて私は彼女の下位互換だった。

 親も友達もみんな、みんな彼女の事ばかり見てる。

 私の存在は彼女のおまけにすらならないのだ。


 幼少期から植え付けられたそんなイメージは私を歪ませ、恨み、嫉妬、此れらの醜い感情が思想のベースになった。


 恨めしい、妬ましい。

 ドス黒い感情を内に抱えたまま、時が過ぎた。

 仲の良かった幼少期時代も今は昔の話だ。

 今はただただ彼女が憎い。

 嫉妬心で気が狂いそうになる。

 朝が来なくなって、世紀末を迎えても、人がたくさん居なくなっても、この想いだけは変わらない。

 この、想いは──。


 嫌い、嫌い嫌い嫌い嫌い、嫌いだ。

 嫌い、なんだ。



                △▼△▼△▼△



「やっぱり、皆消えちゃったんですかね」


 昔は繁華街だったであろう大通りの中心で、軍用ジャケットを羽織る藍色髪の少女──秋菜はぽつりと呟いた。

 鉄と砂しか見えない光景が、心中をざわつかせる。


「──おおい! 不安になる事言うなよ! 此処がダメだったらあたしら全員終わりなんだぞ!」


 心配させる発言をした秋菜に対し、赤い髪に赤いマフラー、白い作業着をラフに着た小柄な女性、真冬が勢いよく後ろから羽交い締めを繰り出す。

 「うぇ」と苦しむ秋菜だが、すぐに長身の女性が止めに入った。


「や……やめなよ……真冬ちゃん……秋菜ちゃんが苦しんでるよ……」


「うるせー! 本気でキツかったら自力で抜け出すだろ。あたしも奈津美もハルも、力比べじゃ秋菜に絶対勝てねーからな。でも秋菜は何もしない。それが答えだ!」


「……ごめんなさい」


「皆思っててもなぁ! 言って良いことと悪い事があんだよ! 目的地にはほぼ着いたようなもんだけど、まだ確定してねーんだから絶望ムードを出すんじゃねぇ! まじ頼む! あたしの心が死ぬから!」


「ま……真冬ちゃんって……ほんと、ノリの割にメンタル弱いよね……」


「うるせぇ! 性格って治んねーだよ、あたしだっていい加減泣き虫卒業したいわ! ……あ、涙出てきたぁ!」


「ま……真冬ちゃん……」


 強気な態度を取ったかと思えば、唐突に真冬は泣き始めた。恐らく、真冬自身が発した発言でもダメージを受けている。

 そんな有り得ない速さで泣く真冬を奈津美が介抱して、ぐずりを収める。


 ──なんとも見慣れた光景だ。この半年間で、3日に1回は見ている気がする。

 しかし、直接ではないが真冬を泣かせてしまった事に罪悪感を覚えた秋菜は、ひとまず奈津美と一緒に真冬を宥めようと歩み寄っていく。


「何、してるの」


 そんな戯れ合う3人の所へ、砂埃だらけのセーラー服を着た少女が散策から戻ってきた。

 彼女は埃を払いながら、なぜこんな無駄な事をしているのかと言わんばかりに冷たい視線を3人へ浴びせる。


「あぁおかえり、ハル。ぐす。いやな、秋菜が怖いことを言うもんだから」


「そんなの歩きながらすれば良い話でしょ。一々足なんか止めて……」


 涙目に問答する真冬を見て、ハルの眉間に皺が集まる。

 残りの2人はきまずそうに真冬の背を撫でていて。


「……いい加減にしてよ。1分1秒も惜しい状況だってこと、分かってるの?」


 苛立ちが抑えられないハルは鋭い視線をより鋭利に、なお涙を溢し続ける真冬に強く問いかけた。

 そんな圧迫的な態度に気圧された真冬は更に涙目になってしまう。


「無駄に水分を消費するのもどうかと思うわ」


「わ、わり……でもよ。まだ、水と食料は残ってる。バッテリーが尽きる心配も現状は無いんだから、時間がないわけではないだろ。ハルは余裕が無さすぎなんだよ」


「──。道中、何が起きるか分からないでしょ。元はと言えば真冬さんが始めた旅なのに、当の本人がそんな意識でどうするのよ」


「……別に。どうもしねーよ。どの道、噂が偽物だったら終わりなんだ。皆もそれを知りながら着いてきたわけで、文句なんかねーはずだろ」


「ちゃんと結果さえ分かれば、ね。知らずに死ぬのだけはごめんだわ。皆もそうでしょ?」


「……わ……私は……」


「ハルちゃん……」


 目を赤くし、依然涙を流す真冬だが話す内容はストイックなものだ。

 対してハルが懸念しているのは、旅の目的も果たせずに費えること。

 ただ実際真冬の言い分は正しく、目的地へ向かうのに必要な物資は十二分に足りている。

 どうしてハルは急ぐのか。その理由はシンプルで、


「──今の大阪は、暗所が多すぎる」


「まぁ、それは、確かにだな」


 現在真冬たちは世界最大の繁華街、大阪の難波にいる。

 恐らく。

 確証が持てないのは真冬たちの持つ難波の知識と、実際に見たものが乖離しすぎているからだ。

 夜景の写真では酔いそうになる程の人混みの中、七色に光るネオン街を水面が煌びやかに写していた。

 だが今、真冬達の目の前に広がる景色に街を彩るものは何も無い。水は枯れ果て、砂埃が街全体を覆っている。

 こんな状態で夜になっても、辺り一面は真っ暗闇になるだけだろう。

 日中の今でさえも、明るい場所を探す方が困難なくらいだ。

 あの景色を拝めないのは残念だし、今も同じ場所に立っている事を信じ切れていない。

 そして厄介なのは──。


「どこが、ハズレか分からない。ライトも1人分しか無い。暗所を避けながらだと、1週間以上かかるかもしれない。確実に行くためにも早く行動をするべきだわ」


「陽が出てる間なら問題は無いって、偉い人が言ってたんだけどな……」


「昔の話でしょ。今は違うかもしれない。目まぐるしく環境が変わっているのに、影が何も変わらないままだなんてあり得ないわ。それに──」


 目を瞑り、腕を組んでため息をついたハル。

 肩を震わせながらハルを見る真冬に、心底気怠そうにして、


「──真冬さん。貴女普段からだらしなさ過ぎよ」


「……あ、始まった……」


「そんな腑抜けた態度でいるから物もよく無くすし、会話でも足元を掬われるのよ。いい加減自分の至らなさに気づいたらどう? 星の数ほどあるわよ。それか、多過ぎて分からない?」


「……あぐ、ぎ……」


「その赤い髪も何? 嫌でも目に入るから暑苦しくて堪らないわ。そもそもファッションってね、分相応に楽しむ物なの。身の程を弁えなさい。その泣き顔に赤い髪、全く似合ってないわ」


「あー!! 分かった分かった! ごめんごめん! あたしが悪かった! だからこれ以上言うな! マジで泣くから!」


「──」


 こと口論においてハルが折れる事は無い為、泥沼になる事は必至だ。

 更には話を脱線させてくる。

 それを知ってる真冬は大袈裟に両手を振り、早々に、無理やり会話を終了させる。

 既に十分泣いてはいるが、真冬はまだまだ泣ける自信があった。

 毒舌粘着質なハルとの応対は真冬が最も苦手とするものだ。

 拗らせると後の対応が面倒になる事をハルも知っているので、真冬が観念した後は2の句を継ぐ事は無かった。

 1日が潰れる殆どの原因は、こうした言い合いなのだが、ひとまず今回はその事態を避けられたといえよう。


「ハルの言う通り道草食い過ぎたな。そろそろいくか」


「分かれば良いのよ。奈津美さん……と、秋菜も、行くわよ」


「……あ、うん……」


「ごめんね、ハルちゃん」


「ふん」


 そう一同は意志を固めると、大通り中心にある噴水近くに置いた荷物をまとめて、移動を始めた。

 照らす太陽から出来る影が、早送りのように、高速に形を変えている。一同はそれに触れないよう器用に避けて進む。


「……絶対、影には入んなよ」


 ──真冬の、らしくない重く低い声が響き渡る。

 それを聞いた途端に秋菜、奈津美、ハルの表情が引き締まった。

 分かっていても言う必要があった。それは確認であり戒めでもあり、警告でもある。

 とてもとても重要な警告なのだ。


 ──影には、闇には、絶対に足を踏み入れてはいけない。


「日が登ってからどれくらい経った?」


「……んーと、1時間くらい……?」


「2時間ちょっとですね」


「げ、じゃあもう1時間ねーじゃん!」


「だから言ったじゃない!!」


 「急げ急げ」と、足早に先へ進む。

 それでも、ぐるぐると動き回る影には当たらないよう、丁寧に、迅速に、進んでいく。

 日没まであと1時間弱。

 とても短くなった日の出時間と、とても恐ろしくなった影を警戒しながら、一同は歩み続ける。


 大阪に存在するとされる地下都市。理想郷に向けて。

 根も歯もない都市伝説を信じる人達は、それに向かって、ただ、ただ、ひたすらに。

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