第十四話 やいなさんが話しかけてくる
晩秋の朝。
俺は寒いのは苦手な方。
ふとんの中で、少しでも暖かくしていたい。
今日が休日だったら、このままでいいんだろうけどなあ……。
でも学校へ行かなくてはいけない。
せめて、家事をしてくれる人がいれば、もう少しだけゆっくりできるんだけど……。
俺にはそういう人はいない。
恋乃ちゃんと恋人どうしになることができれば、お願いすることもできるようになるんだろうけど……。
ああ、面倒だ。この寒い中、なんで家事をしなければならないんだろう……。
そう思うが、それでも家事はしなければならない。
なんとか朝ご飯を作って食べ、学校へと向かう。
そして、教室に入ろうとすると、
「康夢先輩、話をさせてください」
と言ってくる子がいる。
やいなさんだ。
俺を振って、一組のイケメンの彼を選んだ子。
夏島先輩ではなく、康夢先輩と呼んでいる。
「話って?」
「とにかく来てください」
やいなさんは、俺の制服の袖口を引っ張る。
「嫌だと言っても来てもらいますよ」
やいなさんは微笑みながら言う。
「冬里さん、わかったから」
強引だとは思ったが、話を聞かないわけにはいかないだろう。
やむをえず、彼女と一緒にグラウンドの端へと向かった。
「それで話って? 冬里さん、イケメンと付き合っているんでしょう? こんなところに二人きりになったら、そのイケメンが怒るんじゃない?」
「もうあんな人のことなんかどうでもいいです」
「あんな人……」
俺が告白した時、やいなさんは、
「夏島先輩が何も言っても考える余地はないです。イケメン先輩とは雲泥の差で、比べ物にならないです。じゃあ行きますね」
と言って、俺の告白を厳しく断った。
その彼女が、今は一組のイケメンの彼を「あんな人」と呼んでいる。
どういうことだろうか。
「彼とケンカしたの?」
「ケンカと言えばケンカですね」
ケンカをしたということは、その仲直りをする方法を相談しにきたということだろうか。
相談するなら、もっと親しい女の子にするべきだろうと思う。
そう思っていると、
「わたし、イケメン先輩に振られてしまったんです」
と驚くべきことをやいなさんは言った。
「振られた?」
「そうです」
「冬里さん、彼のこと好きだったんでしょう? そして、彼の方も冬里さんのことが好きだった。相思相愛だったんじゃなかったの?」
「わたしもそう思っていました。でも……」
やいなさんは悲しい顔になる。
「イケメン先輩は、わたしとは別に、三人の女の子と付き合っていたんです」
「冬里さんとは別に?」
「そうです。わたしだけがイケメン先輩の恋人だと思っていたのに……。『俺は魅力的なこの三人と恋人どうしとして付き合っている。俺はきみのことが嫌いになったんだ。ここにきみが入ることはもうできないんだ』ってイケメン先輩に言われてしまいました。もう悲しくてつらくてたまりませんでした。こんなにイケメン先輩のことが好きだったのに、どうしてこんな扱いを受けなければならないの……。そう思うと涙が出てきました」
口惜しそうに言うやいなさん。
それにしても、一組のイケメンの彼は、やいなさんの気持ちをどうして踏みにじるようなことをするんだろう。
俺がもし同じ立場だったら、やいなさん以外の人に恋することはなくて、やいなさんのことを大事にしたと思う。
「そして、わたしは振られてしまいました。こうして今はみじめな思いをしています」
やいなさんは、涙を流しそうな表情。
「話は理解したよ。つらい思いをしたんだね」
「つらかったです」
俺は後輩のこの子に振られた。
心の打撃は大きく、まだまだその打撃からは立ち直りきれてはいない。
ほろ苦い思い出とするには、もう少し時が経つ必要がある。
やいなさんと話をしていると、どうしても振られた時のことを思い出してしまう。
しかし、つらい思いをしている人の話は聞いてあげないわけにもいかない。
「イケメン先輩のこと、大好きだったんです。いずれ結婚したいとも思っていました」
さすがにそういうことを聞くと、ガックリくるものがある。
結婚したければ、結婚すればいいのに……。
と言いたくなるが、それは我慢しなくてはいけないだろう。
「でももうそれはかなわぬ夢になりました。わたしはイケメン先輩に捨てられたんです。どうしてあの人達の方がわたしよりいいんでしょう……」
俺はじっと彼女の言葉を聞いていた。
「イケメン先輩の為に、おしゃれもしたし、お気に入りの子になれるように努力したのに……。こんなことなら、イケメン先輩のこと、好きにならなければよかった」
俺もやいなさんのことを好きになった時は、やいなさんのことを想うことが多かった。
振られることは、想像していなかったわけではないが、付き合うことをOKしてくれて、それから楽しい毎日がおくれるものと思っていた。
それがああいうつらい結果に。
少しやいなさんとは違うかもしれないが、振られるというものはつらいものだ。
改めてそう思う。
それにしても、そういう話をなぜ俺にしてくるのだろう。
振った相手ではあるというものの、頼れる先輩だからだろうか。
いや、そういうことではないと思う。
俺より頼れる先輩は男女関係なくいると思うんだけど。
そう思っていると、やいなさんは、
「康夢先輩、わたし……」
と顔を赤くしながら話し始めた。
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