第六章 真相
朝、モモは二人の容体を確認する。
「血圧安定。血液検査も異常なし。二人とも凄いな」
二人は回復に向かっていた。まだ目を覚まさないが、二人の体力なら何とかなるだろう。
「また見に来るから、それまで休んでて」
手術室のベッドで眠る二人にキスをする。
「さぁてと! まずは掃除!」
最後になるかもしれない掃除だ。後悔が無いように隅から隅までやる。
「う~ん。ムギちゃんって女の子が好きなんだなぁ~スキンシップ激しいからそうだと思った」
そして掃除中に二人の漫画が気になったので読んでしまう。
「ココちゃんはバトル物に百合百合か~らしいな~だから男っぽいって言われるのに」
今までの事を思い出すと笑いがこみ上げる。
「やっぱり私って二人が好きなんだなぁ~」
掃除に戻って部屋の埃を掃除機で吸い取る。それが終わったら整理整頓。
「私とココちゃんとムギちゃんの私物はごっちゃごちゃ! 一緒に暮らすとこうなるか~」
積み上がる雑誌に畳む前の服、化粧品、食器。三人の私物が混ざり合っている。
二人が自分の物を使っても気にならなかったし、二人もモモが使っても気にしなかった。
「私って細かい所は雑になっちゃうんだなぁ~」
自分の物と二人の物を分ける。
「化粧品はムギちゃんにあげよ。こっちの漫画はココちゃんにあげよ」
私物を二人に振り分ける。もうここに戻ることは無い。
「洗濯終わり~ご飯食べよ!」
最後の朝飯だ。豪勢に朝から焼肉を食べる。
「夜は殺し合うから朝とお昼はしっかり食べないとね~」
カルビやタン塩にハラミをおかずにラーメンどんぶりのご飯をドン!
「一人だと寂しいな~最後だから皆と一緒に食べたかったなぁ~」
涙がこみ上げる。味も匂いも分からない。だから独り言で悲しみを紛らわす。
「アマちゃん~私はここに来て幸せだったよ~」
食べ終わるとアマを膝の上に乗せて話しかける。
「一緒にお昼寝しよっか~」
アマを抱っこして寝室に連れて行って一緒に横になる。
「私はね。お父さんとお母さんが居なくなってからずっと一人だった。だからアマちゃんにココちゃんにムギちゃんにママさんに会えてとっても嬉しかった」
アマの背中を撫でる。
「私はずっと怯えてた。ヤクザ、ストリートギャング、自衛団、飢え、そして孤独。いつ死ぬか不安だった。寂しかった。でも今の私は違う。強くなったし、ここでご飯をいっぱい食べられた。ここでいっぱい笑えた。ここに来て、臆病な私は、どっか行っちゃった。皆のおかげ」
目を閉じるとここに来てからの生活を思い出す。
訓練は辛かったけど、強くなっていく実感があって楽しかった。皆とご飯を食べるのが楽しみで仕方なかった。
ここに来て幸せだった。
「私はね。ずっと眠るのが怖かった。悪夢ばっかり見るから。でも今は、悪夢なんて見ないよ」
モモは目を閉じてお昼まで体を休める。
お昼に成ったら起きて、二人の様子を見る。
「血圧も脈拍も安定。呼吸も大丈夫。これなら今日中に目が覚めるかも」
もう大丈夫だ。確信を持って言える。
「生きてくれてありがと」
二人の唇に唇を重ねる。
「大好き。愛してる。だから、生き延びて」
愛おしい二人。離れたくない。だがそれは許されない。
「お昼食べよ~」
黙ると悲しみに押しつぶされそうだ。だからとにかく独り言で気を紛らわす。
「贅沢にカレーとシチュー作っちゃうぞ~」
野菜と肉を切って、二つの寸胴鍋にぶち込み、それぞれにカレーとシチューの素を入れる。
「ムギちゃん~好き嫌いしないで野菜もお肉も食べないとダメだよ~ココちゃんもお肉ばっかり食べちゃダメだよ~偏食は体に悪いんだから~」
出来上がったら一人でお昼を食べる。味も匂いも分からない。
「またアマちゃんとお昼寝~」
再びアマを抱っこして寝る。体力を蓄えなければならない。
数時間眠ったら、顔を洗う。
「……訓練しよ」
もう独り言は飽きた。だから最後の射撃訓練を行う。
「肩の力を抜いて。足は開いて」
教えられたことを口に出しながら撃つ。ランダムに動く的でも百発百中だ。
さらに片手撃ちや横撃ちなど曲芸的な体勢でも的に当てられるか確認する。
「うんうん。調子は良し」
全弾命中。問題なし。
夕方になった。最後の晩餐はおにぎりに味噌汁、デザートに芋羊羹。戦いが控えているため多くは食べられないし、味も匂いも感じないから簡単に作れる物にした。
「ココちゃんとムギちゃんへ」
出かける前に、二人が目覚めた時に備えて手紙を書く。
「あとは待つだけ」
手紙を書き終えた。時刻は六時半。七時に成ったら死地に向かおう。
独り言を止めると重苦しい静寂に支配される。それは己が一人だと告げる。
地獄のような静けさ。胸が張り裂けそうだ。
「行こう」
七時になった。モモは立ち上がるとココとムギに最後の検診を行う。
「二人ともありがと。元気でね」
異常が無いことを確認した後、二人の唇にキスをする。そして、ここに来た時と同じセーラー服と通学鞄の姿で、マスクの大男が待つ猫杉グループ川崎本社へ出発した。
バスは走ってないので歩いて武蔵小杉駅に向かう。腹ごなしに丁度いい。
「そう言えば、初めて来た時も歩いて来たんだ」
武蔵小杉駅に向かう途中、ココと一緒に中原街道を歩いた事を思い出した。
「こんな景色だったっけ?」
キョロキョロ視線を動かしながら歩く。
以前来た時は、真っ暗で静かで、物陰から何か飛び出してくるかと怖かった。しかし今は恐怖など微塵もない。星の光で昼間のように明るく見える。家や路地裏から話し声が聞こえる。
「私って強くなったんだな」
あれほど怖かった夜が一人でも怖くない。
これから待ち受ける運命を思うと、悲しかった。
「お~警察が警備会社してる」
途中でF社とS社の様子を見た。すると警察が室山組に代わって警備をしていた。
室山組の支配が無くなった。だから警察が活発に動けるようになった。
「治安回復してるなぁ~」
自分は殺し屋だ。自慢できることではない。それでも嬉しかった。
「武蔵小杉駅到着。疲れ無し。良い準備運動」
息切れ一つなく武蔵小杉駅にたどり着いた。
「うんうん。警察が頑張ってる」
武蔵小杉駅の北口バスターミナルに着くと、そこにも警察が居て、難民キャンプの見回りをしていた。
難民キャンプに強い影響力を持って居たレッドスカーフが居なくなった。だから警察が動けるようになった。
「ちょっとずつ良くなっていくと良いなぁ~」
モモはスキップしながら電車に乗る。
「最後に自宅寄ってけば良かった」
向河原駅に停車した時、今まで住んでいた自宅の存在を思い出した。
「あんなに嫌だったのに、最後になると名残惜しいな」
いい思い出など無い。それでも最後と思うと、良い所だったと思った。
「川崎駅到着~」
川崎駅に着くとジャンプしてホームに着地する。
「お父さんとお母さんが死んだ場所だから嫌な所だと思ってたけど、結構良い所かも」
改札を出ると待ち合わせに最適な時計台が見える。ラゾーナ川崎が見える。ヤクザやストリートギャングは歩いていない。警官が見回りをしている。駅員が床や壁の清掃をしている。
遊ぶには良い所だ。
「川崎も悪い所ばっかりじゃないね」
モモはふと、ココと出会った運命の公衆便所を見てみたくなったので、西口の階段を下りて駐輪場へ行く。
「綺麗になってる」
駐輪場には誰も居ない。平和そのものだ。公衆便所の中は落書きや怪しいポスターが消えていた。吐しゃ物も汚物も無く、普通に使用できる。
レッドスカーフと室山組が居なくなったため、清掃作業が安心して行えるようになったのだ。
「悪い私でも、ちょっとは役に立てたかな~」
モモはついでにココと一緒に初めてステーキを食べた地下街のアゼリアへ行ってみる。
「お客さんが居る」
レストランを回ると、どの店舗でも店内に少数ながら家族連れが一家団欒を過ごしていた。
「今のご時世、お金を持って居るってことは悪いことをしている証拠だけど」
両親は子供と一緒に笑顔で食事をしている。
レッドスカーフと室山組が居なくなったから銃撃戦の心配はない。だから食べられる。
ある家族を眺めていると子供と目が合った。そして笑顔で手を振ってくれた。
「いっぱい食べてね」
悪いことをしているかもしれない。でも子供が笑顔なら問題ない。
「川崎ダイスとチネチッタも見てみよ」
この際だから川崎ダイスとチネチッタも見に行く。
「おお! 警察が真面目に頑張ってる!」
川崎ダイスは今も閉鎖中だった。チネチッタは工事中で立ち入ることはできなかった。
だが嬉しい事に、その周辺を警察が見回っていた。そして警ら中の警官の中に、以前、モモとココに突っかかって来た不良警官五人が居た。五人とも真面目に仕事をしていた。
「うむうむ! 真面目でよろしい!」
職務質問されないように遠目から頷いた。
「良し! 行こう!」
心残りは無くなった。目的地である猫杉グループ川崎本社ビルへ足を進める。
猫杉グループ川崎本社ビルは新川通を真っ直ぐ進み、川崎駅から十五分歩いた所にある。
高さ二百メートル。階層は五十階。駅からも見える巨大な総合ビルだ。一階はコンビニやレストランがあって、猫杉グループの社員はそこで朝食や昼食、夕食を食べる。二階はフィットネスジムにプールがある。運動不足や体作りに熱心な社員に人気だ。そして三階から四十九階まではオフィスだ。猫杉総社や猫杉運送、猫杉電子など猫杉グループ系列の会社がそこで仕事をしていた。そして最上階は猫杉グループ総帥の邸宅だ。川崎の景色を一望できる。
現在、猫杉グループ川崎本社ビルは猫杉グループ総帥が死亡したため閉鎖中である。
「開いてる」
モモは正面玄関へ回る。するとシャッターが開いていたことに気づく。
猫杉グループ川崎本社ビル周辺は真っ暗闇だ。周囲100メートルは工場や家屋など建物が無い草原地帯だから生活で生じる光が無いことはまだ許せる。しかし本社の前には大きな道路がある。なのに街灯が消えている。車の一台も走ってないのでヘッドライトの明かりすらない。
完全なる暗黒。ここはモモの両親が殺された日から光を失った。誰も近づかなくなった。
なのにシャッターが開いている。
マスクの大男が待って居る。そう物語っている。それでもモモは勇気を出して中へ入った。
中はかび臭く埃臭い。そして埃の上にハッキリと足を引きずる足跡と松葉杖の跡があった。
足跡は階段へ続いていた。だから足跡を追いかける。
階段を上がるのも辛いのだろう。立ち止まって腰を下ろした跡がある。汗が落ちた跡もある。手すりの埃にも手形がある。大男とは思えない大きさの手だ。
一歩、一歩、また一歩。まるで十三階段を上る様に息苦しい。駆け上がることはできない。
階段を一段上がるだけでも辛い。引き返して、ココとムギとママの居た日常へ戻りたい。
それでもモモは最上階へ足を進めた。
「来ちゃった」
最上階にたどり着いた。そして記憶にすらない我が家の自宅の扉前に立った。
錆びついた扉はモモを迎えるように開かれている。両脇のガラス壁は汚れで曇っていて、まるで地獄の門のようであった。
家に入って真っ直ぐ進むとリビングだった。
リビングは小さなパーティー会場のように広かった。かびた柱が部屋の中に四本あって、二階へ続く吹き抜けの階段があった。これでは地上五十一階だ。二階は客人や使用人やボディーガードが眠る寝室がある。よく、お母さんが朝に、何を食べるの? と二階へ声を張り上げた。使用人の一人はそれを聞いて、奥様! 遅れて申し訳ありません! と乱れたエプロンで二階から転がるように現れる。リビングの左手奥はお父さんとお母さんと私の寝室だ。広いしテレビもある。よくコメディ映画を見た。ホラー映画は泣いてから見てない。寝室の隣は子供部屋でおもちゃや絵本がある。使用人やボディーガードの人と一緒に、積み木の城を作って、夜遅くに帰るお父さんとお母さんに見せた。二人は喜んだ。
お父さんとお母さんが死んでから、そこは止まった時のようにそのままだ。
窓から射し込む月明かりがテレビやソファー、テーブルを照らす。
お父さんとお母さんの血だまりの跡もしっかり照らす。
すべて埃に塗れてる。警察の現場検証が終わっても、片付けられなかった。親戚の人は両親の死に興味が無かった。
使用人や休憩中のボディーガードは寝室で頭を撃ち抜かれた。玄関や窓を守るボディーガードは音もなく殺された。だからお父さんとお母さんも寝室で眠るように死ぬはずだった。
しかしその時運命のいたずらか、私は何時まで経っても眠くなかったから退屈と駄々をこねた。お父さんとお母さんは明日は休みだから夜更かししようと一緒にリビングに行った。お父さんとお母さんの大好きなお酒と私の好きなジュースを飲みながらアニメ映画を見るために。
そこでマスクの大男と出会った。
お父さんは咄嗟にお母さんと私を庇った。そして胸を撃たれた。それでもマスクの大男に突進したが、殴られて倒れた。そしてマスクの大男は悲鳴を上げるお母さんを撃った。そして二人は殺された。私だけが生き残った。
十年前の死臭は今も我が家を満たしている。お父さんとお母さん、使用人にボディーガードの血痕は今もベッドやカーペット、壁にくっきり刻まれている。
モモは今まで忘れていた、懐かしく悲しく残酷な過去を思い出した。
「遅かったな」
一人の男がソファーから松葉杖片手に立ち上がり、月明かりとともにリビングの中央に立つ。
今ならマスクの大男が見つからなかった理由が分かる。
身長170センチの男性がニ十センチの厚底靴を履いていたなど、誰も想像できない!
「まさか、ママさんが男で、マスクの大男だったなんて思いませんでしたよ」
「性別を偽るのは変装の基本だ。そこに身長も加われば、まず気づかれない」
「そうですね。私もこんなに近かったのに、気付けませんでした」
ついにモモはママ=マスクと対面した。
マスクは身長170センチの端整な顔立ちの若い男だった。体格はママによく似ている。髪の色は黒のショートヘアだ。男物の黒いスーツを着ている。そしてママが愛用する松葉杖を持って居る。
「いつから俺がマスクの大男だと気づいた」
マスクの声は、怒った時に男口調と声になるママの声そのままだった。
「決定打は昨日です。あなたが逃げた後、エレベーターに乗った時、ママさんが使う薔薇の香水と男物のオーデコロンの匂いがしました」
「あの硝煙と血の臭いの中で良く気付けたな」
「アマちゃんからも同じ匂いがしました。それで気付けたんです」
「犬並みの嗅覚。素晴らしい才能だ」
「犬並みじゃありません。ママさんが好きだから覚えてただけです」
「嬉しいね。次からパパと呼んでくれないか」
「嫌です。私にとってママさんは男でもママさんです」
モモとマスクは微笑する。
「匂いだけじゃなく、工藤から聞いた電話番号も決め手だろ」
「どうしてママさんはそこまで知ってるんですか?」
「お前たちの私物には盗聴器と発信機が着けてある」
「マスクの大男が強襲する訳だ」
モモはガックリと肩を落とした。
「工藤から聞いた電話番号ですけど、あれって私がルナ相談事務所に殺し屋を紹介してくださいってお願いした時の番号でしたよ」
「本来なら携帯電話は複数持つべきだったが、お前にココにムギに公安などの依頼を受ける固定電話にインターネット料金に食費に重火器や弾薬の調達費に射撃訓練場などの維持費に変装用具などの暗殺用具の維持費に購入費など色々加わると金の都合で無理だった」
「ママさんでもハイパーインフレーションには勝てませんか」
「殺し屋も所詮は人間という訳だ」
二人は失笑する。
「ママさんのパソコンを調べたら、仲介人なのにマスクの大男の連絡先がありませんでした。どうやってチネチッタと室山組長の件をマスクの大男に依頼したのか? 同一人物だと考えれば説明できます。そして同一人物だと分かった時、今までの疑問が全て消えました」
仲介人なのに依頼を代行する。不思議な関係だったが同一人物なら納得だ。
「あれがニュースになった時から、いつかお前に気づかれると覚悟した」
「ですが、疑問が解けても! 私はあなたがマスクの大男だと信じたくなった!」
モモは喉が裂けるほど叫ぶ。
「あなたは私に家族をくれた! 力をくれた! 食事をくれた! 愛情をくれた! そんなあなたがマスクの大男と思えなかった!」
モモは髪を掻きむしる。
「でも、あなたの日誌を見て、すべて分かった」
モモはマスクに怒りを露にする。
「お前の目的は意にそぐわなくなったココちゃんとムギちゃんを殺すことだった! 私に愛情なんて持ってなかった!」
マスクの眼差しが冷たくなる。
「愛情が無いとは心外だ。なぜそう考えたのか、納得のいく説明をしてもらおう」
「二人はあなたの言いつけを守らなかった。だからあなたは二人を殺すと決めた。それが動機であり、全ての始まり」
「二人が俺の言うことを聞かなかったのはショックだった。腸が煮えくり返ったのも認める。しかしそれが殺す動機になるか?」
「二人はいずれ敵になる。そう思った」
「確かに二人は俺に逆らった。だからいつか、二人が変な同情心で、俺と敵対する可能性もあるだろう。しかしそれだけでは俺が二人を殺したいと思っている証拠にはならない」
「証拠はあなたの日誌」
「日誌に二人の恨み辛みでも書いてあったか?」
「そんなの書いていませんでした」
「ならどんな証拠だ?」
「あなたは日誌にココちゃんやムギちゃん、私の成長具合を記録するようにしていた」
「当然だ。俺の後継者になるからには、日々の成長を確認する義務がある」
「加えてトレーニング内容や献立も一緒に書き込んだ」
「トレーニングと食事は成長に直結する要素だ。前日より成長率が悪ければトレーニングや食事を変える。変更したトレーニングや食事が正解か前日の成長率と比較する。それを繰り返すことで強くなる。優れたトレーナーやコーチなら必ずやることだ」
「ところがココちゃんとムギちゃんがあなたの命令を聞かなかった次の日から、日誌にトレーニングや献立の記載は無くなった。あるのはどの程度強いかだけ。まるで足に怪我をした自分でも殺せるか確認しているようでした」
「高がトレーニングや献立を記載しなくなった程度で殺そうと考えたと言われても納得できん」
「ならなぜ私を雇ったんですか?」
「お前を雇ったのはお前が素晴らしい才能を持って居たから。それだけの話だ」
「それは嘘。あなたは私が無能でも雇った。むしろ無能だった方が良かった」
「役立たずを雇って何の意味がある? そいつが死ぬなら未だしも巻き添えを食う可能性だってあるんだぞ。それすなわち死だ!」
「その通り。あなたはココちゃんとムギちゃんに死んで欲しかった。でも二人は強すぎた。だから二人が足手まといの巻き添えになることを願った。そのために私を雇った」
「回りくどい! もしも殺す気ならそんなことしないで殺す!」
「確かに回りくどい。でも二人を殺すにはそれしかなかった。二人はもう、あなたより強くなっていたから」
マスクは口を噤む。モモは天井を見上げる。
「二人はとても優しい。無能でも、仲間なら助けようとする。例えそれが、自分の命を捨てることになったとしても。あなたはそれに期待した」
マスクは身を守る様に腕組みして、モモを冷えた目で見つめる。モモは涙を流しながら、天井からマスクへ視線を変える。
「私は十年間殺し屋を願っていました。でも一般人の小娘にそんな情報は入って来ません。ところが五か月前に殺し屋の噂を聞いてしまった。その時は嬉しかったけど、よく考えるとおかしいですよね。殺し屋にコンタクトを取る方法が一般人に流れるなんて」
マスクはゆっくりと、懐から拳銃を取り出す。モモも取り出す。
「これが私の推理です。反論するならその前に、昨日、工藤もろとも私たちを殺そうとした理由を説明してください」
「俺は常々、お前たちの動向を監視していた。そしてお前たちが工藤と俺の繋がりに気づいてしまった時、いずれ殺し合いになると覚悟した。だから俺にたどり着く前に殺すと決めた。昨日はその絶好のチャンスだった。それが理由だ」
マスクは早撃ちの体勢になる。
「私たち三人は敵を皆殺しにしたと油断しているから、工藤の話に夢中になる。そこにアサルトライフルの襲撃。ココちゃんとムギちゃんは私を庇うために盾になった」
モモも早撃ちの体勢になる。
「お前は一つ誤解している」
「誤解? ここは地上五十階だよ」
「確かに噂を流した理由はココとムギを殺すための無能な駒を手に入れるため。しかしお前を雇ったのはお前に本当に才能があったから。俺の後継者になって欲しかったからだ」
「へ~でも残念。こうなったらもう殺し合うしかないね」
「俺はお前を殺したくない。なぜならお前を愛しているからだ」
「信じられない」
「俺も俺がこんな感情を持つなんて信じられない。しかしザ・タワー&バークス田園都市溝口でお前に銃口を向けた時、お前を殺したくないと思ってしまった。だからお前を撃てなかった」
一触即発の空気。瞬き一つできない。
「どうしてママさんはあの時私を殺してくれなかったの?」
しかしモモは涙とともに銃を下げた。
「あの時私を殺してくれれば、こんな思いしなかったのに!」
脳裏に過るのは、殺すチャンスがあったのに傷一つ付けなかったマスクの大男の姿だった。
「あの時お前を殺さなかったのは、それが依頼だったからだ」
マスクは真実を語り出す。
「あの時の依頼はお前の両親の殺害と、お前に傷一つ付けないこと。遺産相続関係で、猫杉博之はお前に死んで欲しくなかった」
「だからあの時、私がナイフを持って居ても攻撃しなかった」
「そうだ。だが俺はお前がナイフを持って居ても問題ないと油断した。だから警戒の一つもしないでお前に近づき、お前に足を刺され、再起不能の重傷を負った」
「なら恨んでたはずでしょ! 私が事務所に来た時殺せばよかったのに!」
「あれは俺の失態だ。お前を恨む意味は無い。それよりも俺は、お前の才能に惚れてしまった」
「子供の私にどんな才能を見たの?」
「お前はあの時から極限の集中力によって事象をスローモーションに見ることが出来た。だから俺を刺せた。長年の経験からそれが分かった」
「だから私と出会った時、才能があるって言い切ったの?」
マスクは頷くと銃を下げる。
「俺は若作りしているが六十だ。どんな理由でも、再起不能になるほどの傷を受けるなど耄碌した証拠。だから俺は十年前に引退を決意し、後継者を捜すようになった」
「なんで後継者を? 耄碌したならそのままひっそり暮らせば良かったのに」
「殺しの技術は俺が生きた証だ。誰かに、俺が生きた証を刻みたかった」
「訳分かんない。それが殺し屋を続ける理由になるの?」
「年寄りになったら分かるさ」
マスクは天井を仰ぐ。
「後継者捜しは難航した。一流と呼ばれる殺し屋も俺から見れば無能同然。そんな時、ココに出会えた」
モモは瞼を痙攣させる。マスクは気だるげな顔で続ける。
「ココは残念ながら変装術の才能は無かった。しかしそれを補うほどの格闘センスに体の強さを持って居た。俺の格闘術をマスターして、俺よりも強くなってくれた。ムギを助けるという失態をしなければ! 今頃あいつは後継者になっていた!」
マスクは腹立たしいと唾を吐く。
「しかし、ココはお前の言う通り俺の手に余る存在になっていた。だから仕方なく、連れて来たムギに訓練を施した。後継者になれるかどうか分からなかったが、物は試しだった」
「ムギちゃんはあなたが望む才能を持ってたの?」
モモの涙は止まっていた。マスクは苦笑しながらも頷く。
「雇った目的は、ココの足手まといになってくれるかと思ったからなんだが、あいつは俺の予想を超える力を持っていた。人を魅了する才能を持っていた」
「確かにムギちゃんが相手だと、男でも女でも関係なく恋しちゃうかも」
「奴はまだ未熟だ。だが訓練すればどんな奴も骨抜きにする才能がある。それは極めればココの戦闘力や俺の変装術すら超える武器となる!」
「でもムギちゃんはあなたに背いた」
「本当にバカな奴だ! ココが居なかったら殺してやったのに!」
マスクは息を荒げた後、モモに狂気的な笑みを向ける。
「俺はこのまま朽ち果てるだけかと絶望した。そこに再びお前が現れた!」
マスクはモモを迎え入れるように両手を広げる。
「お前は子供でありながら俺を再起不能にした天才だ! その驚異的な集中力は時を止めるだけに止まらずあらゆる知識や技術をスポンジのように吸収する! だからお前は俺の変装術をマスターできた! 土方の変装は実に見事だった! このまま訓練を続ければ確実に俺を超える存在となる! 俺の技術はお前の中で生き続ける! まさにお前は後継者だ!」
マスクは両手を広げたまま歩み寄る。
「俺が嘘を言っていないことが分かるはずだ。ならば俺の愛情も分かるはずだ」
モモは両手に銃を握りしめる。
「あなたは狂ってる。それでもあなたの愛情は感じる。だから私は生きている」
「ならばやり直せる。そう思うだろ」
「やり直すのは良いんだけど、ココちゃんとムギちゃんはどうするの?」
「あいつらが今も生きているのは俺の責任だ。だから俺が責任を持って始末する」
マスクは当然といった調子で答える。モモは銃を持ち上げて答える。
「お前は私のお父さんとお母さんを殺した。ココちゃんとムギちゃんを殺そうとしている。絶対に許せない!」
マスクは大きく頭を振る。
「所詮お前も失敗作か」
マスクが銃を上げる。その隙にモモは照準を合わせる。
(くそ! フェイントに引っかかった!)
モモは狙いを定めた瞬間、自分が外したと理解した。
(右に動くと思ったから右に銃口を向けた! でもそれはフェイントで本当は左に動いた!)
モモが百発百中の理由。それは射撃の熟練者が行う偏差撃ちを超精度で行えるためだ。
偏差撃ちは相手がどこへ移動するか予測し、予め照準を合わせておく技術だ。軍のスナイパーはもちろん、逃げる犯人の足を狙い撃つ警官や、襲い掛かる獣から身を守る狩人など、射撃を行う者ならば誰でも行う必須技術である。
しかし偏差撃ちは相手がどこへ移動するか瞬時に判断する必要があるため非常に難しい。弾丸をばら撒くマシンガンが重宝される理由も、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる理論で、偏差撃ちしなくても弾が当たるからだ。
そしてモモは時を止められるため、相手がどこへどのくらいの速さで移動するか、じっくりと観察できる。だから簡単に予測できる。だから超精度の偏差撃ちが出来る。だから百発百中で当然なのだ。
おまけにモモは時を止めた状態で照準を合わせる準備を終えている。つまり照準を合わせるというタイムラグが存在しない。これがモモの早撃ちの種である。
しかし今は、その超精度の偏差撃ちを可能にする時止めを悪用されていた。
(私は相手の姿勢や視線をじっくり観察してから、どこに動くか予測して即座に撃つ。絶対にそこに移動すると確信してるから。でもあいつはフェイントを駆使して私の確信の裏をかく、そして私が撃つタイミングで逆方向に移動する!)
モモの指が引き金を引く。外すと分かっているが、撃つ準備が出来ているので撃ってしまう。
(体はもう照準を合わせる体勢を終えてる。そしてこの体勢になったら、もう止められない!)
引き金を引くと弾丸がマスクの脇を通り過ぎる。銃口が反動で一センチ浮き上がる。
致命的な隙だ。マスクは撃つ準備が出来ている。モモは銃を撃った反動が残っているため、避けることも発砲することもできない。
(もう撃つ準備が出来てる! 早い! まるで私と同じように時を止めてるみたい!)
モモが天才ならマスクはベテラン。蓄えられた経験を元に相手の動きを予測する、いわば未来予知の使い手だ。モモの動きはすべて読まれている。ならばこの展開は当然だ。
マスクの弾丸がモモの脇腹に命中する。
「がは! がは!」
防弾チョッキで命に別状はない。しかし悶絶するに十分なダメージを受けてしまった。
「確かにお前は天才だ。だが俺は生まれてからこの年になるまでの六十年間殺し続けて来た」
マスクの銃口がモモの額に定まる。
「年季が違うんだよ。若造が!」
撃たれる! モモはそう思ったので左に動く。
何故なら、マスクの銃口と視線がわずかに右に向いたからだ。
(しまった! またフェイントに引っかかった!)
しかし、左に動いた瞬間、マスクの銃口が左に向いた。
マスクの銃口が火を噴く。弾丸が再び脇腹に直撃する。
「げへ!」
防弾チョッキで死ななかった。だがモモは膝を付いた。
「俺が手加減していると理解しているか?」
マスクはモモを見下す。モモは諦めたように項垂れる。
「さっさと殺して」
マスクは松葉杖を突いた状態、つまり片手と片足だ。なのに圧倒された。
実力が違うと痛感した。
「お前は俺の子を産んでもらう。だから殺さない。だから抵抗するな」
モモは心底嫌そうな、軽蔑する目でマスクを見る。
「孕む? あんたの子を? 冗談は止めてよね」
「冗談ではなく本気だ」
マスクはふくらはぎに狙いを定める。
「そもそも後継者を他人任せにしたのが行けなかった。俺の技術は俺の子に与えるのが正しい」
「なら私じゃなくてそこら辺の女と結婚して」
「お前の才能と俺の才能。二つが合わされば最高の子供ができる。当然の理屈だ」
「お前って変態だね。めっちゃ軽蔑する」
マスクは深々とため息を吐く。
「もう良い。腕と足が無くても、子は産める」
パンパンと銃声が鳴る。
「くそったれ!」
マスクの左手と左頬から血が噴き出した。
「誰!」
モモは入り口に顔を向ける。
「やっほーモモちゃん」
「危機一髪だったね」
ココとムギがマスクに銃を向けていた。
「死にぞこないどもが!」
マスクは一度転んだ後、片膝立ちから左足だけでジャンプして柱に隠れる。松葉杖を落として、体を支える物が無い状態なのに驚くべき跳躍力だ。
「どうして二人が居るの? 動いちゃダメだよ?」
一方、モモは親友がヒーローのごとく登場したため混乱中だ。
「モモちゃん早くこっち来て!」
しかしココが声を張り上げるとハッと正気に戻れた。銃を拾ってマスクを警戒しながら二人の元へ走る。
「二人ともどうしてここに居るの?」
モモはマスクが隠れる柱に銃を向けながら聞く。
「モモちゃんが、ママが命を狙ってるから逃げてなんて手紙書くからよ」
「だからムギたちは車で大急ぎで追いかけて来たの」
二人はモモの予想通り、夜の九時ごろに目を覚ました。そしてモモの手紙を発見し、車で猫杉グループ川崎本社ビルへ直行した。
「どうして私がここに居るって分かったの? 何も書いてないのに」
モモは二人がどうしてここにたどり着けたのか不思議だった。
「ここはモモちゃんとマスクの因縁の場所でしょ。だからここしかないって思ったの」
「そしたら入り口のシャッターは開いてる。これはもうねって感じだね」
事情を聞いて納得。そして二人が自分のために駆け付けてくれた嬉しさに表情が緩む。
「二人とも傷が開いてる!」
しかし二人の胸や足から血が滲んでいるところを見て愕然とした。
「絶対安静なのに階段駆け上がって銃を撃っちゃったからね。頭狙ったのに外しちゃった」
「残念だけど、ムギとココはもう撃てないよ」
ムギは武器の入った鞄をモモに渡す。
「色々な武器持ってきた。これで頑張って」
モモは鞄を見る。中に手りゅう弾にマシンガンなど色々な武器が適当に押し込められていた。
「ありがと。すぐに終わらせるから」
モモは二人に満面の笑みを向けた。
(バカだな私って。集中してるようで本当は大混乱。だからフェイントに引っかかる)
頭が冷えていく。全身に熱い血液が充満し、闘志が湧き上がる。
(マスクがフェイントをするならそれを踏まえて行動すればいい!)
本来、銃撃戦でフェイントなどやらない。頭を狙って撃てばいいだけの話だ。
しかしマスクはモモの実力を熟知していた。モモは刹那を見切ってしまうため、普通に頭を狙うと避けられてしまう。そして避けられてしまうと連射が出来ないため、モモの反撃を真面に食らってしまう。だからフェイントでモモの見切りを惑わせる必要があった。
これの攻略法は簡単だ。フェイントの裏をかけばいい。
マスクが右へ動くと見せかけたのなら、反対の左に銃口を向ける。それだけで攻略できる!
(マスクは左手を負傷した。もう松葉杖を突いた状態じゃ撃てない。なら私が有利だ!)
モモは接近戦で最強の威力を誇るマシンガンを握りしめる。
「ココ! ムギ! なぜ俺を撃つ!」
行こうと思った時、マスクが柱から大声を出した。
「あんたがココちゃんに私たちを殺そうとするからでしょ」
ココは鬱陶しいと叫ぶ。
「それは誤解だ。話せば分かる」
「何が誤解よ。あんたとモモの話は全部聞いたんだから!」
ムギがモモの袖を引っ張り、ジェスチャーで、会話で引き付ける間に突っ込めと言う。
(ありがと)
モモはマスクが潜む物陰に飛び込む機会を伺う。
「ココ! 私はあなたを殺そうなんて思って無いわ!」
「ママの声に成らないで気持ち悪い!」
「ムギ! これは全部モモが仕組んだことよ!」
「ここまで来て言い逃れ! だいたい! これまでのママの行動を考えたら、ママがムギたちを殺そうとしてるって言われても納得だよ!」
「ココ! ムギ! 話を聞いて!」
モモはマスクの大声に紛れて、柱の裏に回り、マシンガンを連射した。
(居ない!)
しかし連射中にマスクが居ない事に気づく。
(柱の裏からちゃんと声が聞こえていた! なのにどうして!)
ぴちゃりと水音が背後から聞こえた。
(大声は囮! 裏をかかれた!)
モモは身を捻って床に倒れ込む。その最中、背後の何も無い暗闇からマズルフラッシュと同時に、弾丸が飛び出すところを見た。
(変装術の応用で暗闇と同化してる!)
モモはマシンガンを乱射する。しかし手ごたえは無い。
右から滴の跳ねる音がした。
(音を殺して移動してる!)
モモは転がって弾丸を避ける。
(片足で松葉杖も無いのにどうやって音を殺して動けるのよ!)
改めてマスクの桁外れな実力に戦慄する。
(慌てるな! いくらマスクでもこんな曲芸染みたテクニック長時間続けられない!)
モモは長い間マスクと暮らしていた。だから無理をしていると分かる。
(マスクは出血してる。血が滴る音までは隠し切れない。ならば落ち着いて行動しろ!)
モモは再度、弾丸が飛んできた方向にマシンガンを乱れ撃つ。
手ごたえは無い。
背後から水音が聞こえた。
「そこだ!」
モモは背後にマシンガンを連射する。閃光が花火のように部屋を照らす。
「さよなら、モモ」
モモの右側で、背景に同化したマスクが冷笑した。
水音はフェイントだった! 手に着いた血を放り投げ、モモの背後に落としたのだ!
背景に同化したら音が頼りだ。だからモモがフェイントに引っかかってしまっても仕方ない。
マスクはモモのコメカミに狙いを定める。
「見つけた」
しかしモモはマスクが引き金を引く前に、左手に持って居たハンドガンで、マスクの右腕を撃ち抜いた。
「なぜだ! なぜ俺がここに居ると分かった!」
マスクは負傷した両腕をだらりと下げながらがなり立てる。
両腕は負傷し銃が撃てない。右足は不自由で、左足は足音を殺す必殺技の疲労で震えている。逃げることすらままならない。
勝負ありだ。
「私はあなたが無理をしてるって分かった。だからさっきの一回でラストだと思った。だから背後はフェイントだと読んだ。だから左右のどっちかに居るって分かった」
モモは立ち上がるとマシンガンでマスクに狙いを定める。
「フェイントだと分かっても左右のどちらに居るか分からないはずだ!」
マスクは自分の変装術が破れたのがショックのようだ。声が引きつっている。
「ママさんは左足しか動かない。なら移動するのは私から見て常に右側だと見当をつけてました。そしてそれが本当か、詳細な位置を探る意味でも、マシンガンを連射して、マズルフラッシュで部屋を照らしたの」
マスクは暗闇と同化する。ならば暗闇を消せばいい。
マズルフラッシュは一瞬しか部屋を照らさない。しかしモモは一瞬あれば十分だった。
マズルフラッシュが部屋を照らした時、黒いマントを羽織るマスクがハッキリ見えた。
「まさか……あの一瞬で俺の位置を確認したのか」
「私にとって一瞬は一日と同じですよ、ママさん」
モモは深くため息を吐く。
「今までありがとう、ママさん。あなたのおかげで、お父さんとお母さんの仇をとれた」
マシンガンはモモの思いを代弁するかのように、闇夜で咆哮を上げた。
「モモ……あなたは私の誇り……私の後継者……私の最高傑作よ……」
全身を撃たれたママは、血の微笑みを携えながら、血に伏した。
「猫杉桃子ちゃん。あなたの言う通り、マスクを殺したよ」
モモは涙を流しながら、任務完了を己の過去に伝えた。