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28.待ち望む聖女




混迷する王宮の中、エニモルは婚約者であるフェルリオの部屋で一人佇んでいた。

冷静に冷徹に、今に起きた事を噛み締めていく。

後悔も焦りも一切見られない。

するとそこに、闇の中からシトリーが現れて彼女に問う。


「本当に、これで良かったの~?」

「構わない。どの道、切り捨てていた男よ。丁度良い捨て駒にもなった。それよりも、あの話は本当?」

「えぇ。ティエラ・シュヴェルトは存命。悪魔を召喚して生き延びて、今も彼を使役しているわ~」

「……焼け残った骨は全て、悪魔による偽装工作だったのね。シトリー、何故気付かなかったの?」

「ごめんなさい、彼は隠蔽が上手いのよ~。上位の悪魔にもなると余計に、ね」

「まぁ、良いでしょう。それにしても、ユースハイムが動くとは思わなかったわ。最近はもう表に出てこないから、とっくに死に体だと思っていたけれど」

「薄れても王族の血、という事かしら~。あの人も、魅了しておけば良かったわ~」

「死して尚、甦る……本当に、憎いほどに似ているわね」


エニモルはティエラが生き延びていたと知り、眉間に皺を寄せる。

単純に厄介から来る感情だけではない。

恨み、妬み、怒り。

様々な思いが、生き延びていたティエラに向けられていた。

そして再び、悪魔を使役して立ち向かおうとしている。

ティエラは所詮ただの令嬢だが、呼び出した悪魔だけは看過できない。

恐らくユースハイムらを取り込んだのも、その悪魔が原因だ。

死を偽装した手際の良さからも、決して侮れない。


「それで? その工作好きの悪魔には、勝てるの?」

「正面からは、まず無理ね~。力比べじゃ歯が立たないわ~。でも……」

「何?」

「彼には大きな弱点があるの。どうしようもなく大きくて、致命的な弱点が」


シトリーは笑みを浮かべるだけだった。

既に敵となる悪魔の弱点を掴んでいるようだった。

単純な実力では負けるが、勝てる算段はあると仄めかす。

ならば、問題はない。

エニモルが頷くと、突然部屋の扉が開かれる。

乱暴に入って来たのは、婚約者であるフェルリオ王子だった。

彼はエニモルしかいない部屋の周りを見渡した。


「何だ!? 今、誰と話していた!?」

「いいえ、独り言ですわ。フェルリオ様、どうかなさいましたか?」

「どうもこうもない! 宰相が! ノルマンディが死んだ!」


問うと、彼はそれだけを口にした。

動揺が見て取れる。

それもその筈である。

宰相・ノルマンディは、フェルリオの助言役。

彼自身も同じ王族として重用していたくらいだ。

そんな人物が殺されたとなれば、自らの地位が揺らぎかねかい。

そして畳み掛けるように、フェルリオは唾を飛ばす勢いで叫んだ。


「それだけじゃない! ティエラが……あの魔女がッ!!」

「……生きていたのですね?」

「あ、あぁ! そう! その通りだ!」


ティエラが自らの名を公演の場で明かした事は、王宮内の誰もが知っている。

同時にノルマンディは魔女の力に殺された。

目論見通り、王宮の連中は彼女を魔女と断じて準備を進めている。

一度は断罪した女の、火刑の再決行である。

喚き散らすフェルリオもそれは同じだった。


「あの魔女の仕業だ! 地獄から甦り、復讐を始めたんだ! 今までの不可解な事件も全て、王になろうという俺を貶めるためにやったに違いない! そうに決まっている!」

「哀れな事ですわ。魔女は所詮、魔女。神に認められし聖なる力で、浄化されるだけの存在なのですから」

「エニモル……!」

「私にお任せ下さい。フェルリオ様の王の儀は、誰にも邪魔をさせません。私の聖女としての力を、不届きな輩に思い知らせてあげましょう」

「お、おぉ! そうか! そうか、そうか!」


エニモルはあくまで聖女としての役目を果たすと告げる。

そんな適当な言葉を聞いただけで、フェルリオは不敵に笑った。

自分には聖女が付いている。

負ける事など有り得ないと思い込んだようだ。


「そうだ、正義は我々にある! あのような卑しい女に屈する訳がない! 王宮と教会の者達を集めて、王都を厳重に囲おう! あの女狐! 毒婦め! もう一度地獄に叩き落とし、我々に楯突いたこと、その果てまでも後悔させてやるッ! そうして俺は、この国を統べるに相応しい王となるのだ! ふ、フハハハハハッッ!!」


魔女を殺すことで、自身の王としての立場は確固としたものになる。

そう確信したフェルリオは嗤い、兵を呼び寄せるために部屋を去っていった。

再び残されたエニモルだったが、気にも止めない。

ただ一言、虚空に向かって命じる。


「シトリー、準備が出来たら合図を送る。悪魔の処理は、貴方に任せるわ」

「はぁい、任せて頂戴~。でも本当に良いの~? やっぱり、考え直しても良いんじゃない~? ティエラ・シュヴェルトは、アナタの……」

「そんな事はどうでも良い。行きなさい」

「はいはい~、仕方ないわねぇ~」


間延びした少女の声が響き、その気配が消失する。

もう直ぐ、全てが終わる。

当初の狙いとは異なるが、それでも何も変わらない。

ティエラが生きていようと、王宮がどうなろうと。

何も変わりはしないのだ。

エニモルは窓の外から見える、曇り空を見上げる。


「来なさい、ティエラ。私は逃げも隠れもしない」


既に彼女は殺す準備も、殺される心構えすらも、とうに済ませていた。




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