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27.その名は




否応なく日は昇る。

ティエラが抱いていた思いも焦りも、時は待ってくれない。

遂にノルマンディの領土へ乗り込む時刻となった。

誰に言われるでもなく、急き立てるように彼女は準備を整える。

正門前にはウインスを連れたヴァロムだけでなく、何十の兵士とユースハイム辺境伯が待ち構えていた。

彼女達に助成するため、辺境伯も共に向かう運びとなったのだ。


「ノルマンディは本日、王位継承の儀に関する演説を行う。幾ら奴が、内心気が気ではなくても、それ程に重要な場を直前になって中止する訳もない。必ず出席する。私達はそこに乗り込み、民衆の前で全ての罪を明かす」

「……恐らく宰相は、ウインス伯爵が貴方の手に渡ったと勘付いている筈です。直ぐにでも此処に別の兵がやって来るでしょう」

「報告はあった。今朝方、関所を押し通った連中がいるようだ。間違いなく、ノルマンディの手の者だろう。厄介ではあるが、これで口実は出来たからな。私の部下達が正式な令状で押し留めている間に、返す形で私達も乗り込む」

「大丈夫、なのですか?」

「今この場に残っている部下は、私個人を信じて付き従ってくれた者達ばかりだ。案ずることはない。それより気掛かりなのは、昨日引き入れたノルマンディの先行兵だが……」


辺境伯は荒れた古城の方角を見据えた。

シトリーとの戦いに巻き込まれたノルマンディの兵達は、今の事態に追い付いていない。

ウインスは何処に消えたのか。

夜に起きた襲撃は何だったのか。

混乱の果てに予想外な動きをされる事の方が、彼にとっては懸念材料だったようだ。

しかし、ティエラはやんわりと否定する。


「それは、問題ないと思われます。彼らは今、夜間の襲撃とウインス伯爵の脱走で、職務を行える状態にはありません。怪我人もいますし、関所の兵達と合流させなければ、情報が共有される心配もないでしょう。後は脱走したという名目で、伯爵はユースハイム様が探し出している、と説き伏せ続ければ時間稼ぎは出来るかと」

「成程な。これに関しては、君達の働きが功を奏したという訳か」


下手な行動をすれば、それは主であるノルマンディに返る。

それが分からない程、彼らは無能ではない。

今まさに下手な行動を取っている関所の兵と合流させなければ、暴走は起きない。

彼女の意見を聞いて、辺境伯はゆっくりと手を挙げる。

合図に従って、部下達が沈黙するウインスを馬車に押し込めていく。

それに続く形で、ヴァロムがティエラに近づく。


「確かに、兵の中には魔薬で昏倒したヤツもいたみたいだ」

「……」

「……もしかして、他にも隠し持っているのか?」

「さ、さぁ……?」


よくやったモノだと言いたげな彼の呟きに、思わずティエラは目を逸らす。

魔薬を使ったために、気が引けるというのも一つある。

しかし一番の原因は、昨夜の会話のせいだ。

あれ以降、ティエラはやはり寝付けなかった。

ノルマンディとの決着が付けば、後は王宮を残すだけだ。

元婚約者のフェルリオと、聖女のエニモルに己が罪を償わせる。

そう、終わりは近づいている。

だと言うのに、迷いばかりが大きくなっていく。

そんな彼女の様子に不思議そうな顔をするヴァロムだったが、辺境伯が先に二人を呼び寄せた。


「追手の心配はない。ならば、早々に向かおうではないか。演説が終わっては、衆目も途切れてしまう」


そうして彼女達は別の馬車に乗り込んだ。

分かっている。

もう自分の感情だけでは戻れない所まで来てしまった。

全ては自分が起こした事だ。

皆を巻き込んだ結果だ。

今更、立ち止まる訳もない。

揺れる馬車の中、ティエラとヴァロムは向かい合う形で、流れる景色を眺めた。


「ノルマンディは王族……第一王子との繋がりが強い。この一件、あの王子も関係しているかもしれない」

「……確かに彼は、フェルリオの肩を持つばかりで、私の発言には色々と反論していた覚えがあるわ。まるで、裏から糸を操っているような」

「昨日の悪魔についても、ヤツが契約者だという可能性もある。一応だが、注意はしておいてくれ。オレも、可能な限り警戒しておく」

「えぇ……お願いするわね……」

「ティエラ? 具合でも悪いのか?」

「う、ううん、平気よ。心配しないで」


気付かれたくない。

悟られたくもない。

時間は刻々と過ぎていくが、ヴァロムとの距離感は余計に分からなくなっていった。

今まで何を話していた。

どんな気持ちで、彼の傍にいたのだろう。

馬車はそれらの感情を乗せて、ひたすらに走り続けた。


日が昇りきるよりも先に、ティエラ達は領境を越えてノルマンディの領地に侵入した。

本来、許可もなく兵士達と共に他貴族の領土に踏み入れるのは、いかに辺境伯であっても許されない。

既に領民たちも、早馬に近い馬車の存在に驚き、異変を感じ始めている。

しかしそれは、ノルマンディが差し向けた兵にも言える。

やられたらやり返す、を地で行く行動。

教会と対峙していた時も、辺境伯はこれ位やってのけたのかもしれない。

そのまま彼女達は演説の場、中央都市へと辿り着く。

既に都市の真ん中では、多くの人だかりの下でノルマンディが、華々しい壇上で演説を始めていた。


「フェルリオ王子は、亡き王の意志を継ぐ唯一の人物! 私は宰相として、あの方を支えるべく立ち上がった! 今こそ、我らの意志を一つにするとき!」


静かに馬車を降りて、人ごみに紛れ込んだティエラ達は期を窺う。

既にどのような行動を起こすべきかは分かっている。

ただ演説中に割り込む程、無粋ではない。

民衆も耳を傾けている今、突然割り込んでも傾聴はされないだろう。

一応は彼が語り終えるまでに、息を整えておく。

そして取り留めもない話が続き、いかにフェルリオが次期王に相応しいかを延々と語りつ受けた後、ようやく演説が終わる。

期は熟した。

演説が終わると共に訪れた拍手を越えて、ティエラはローブを被ったまま、ノルマンディのいる壇上へと近づいた。


「ご高説の所、失礼いたします。ノルマンディ侯爵」

「な、何者だ! 何処から現れた!? 衛兵、何をしているッ! この女を取り押さえろッ!」


勿論、得体の知れない人物を近づける筈もない。

兵士達が止めに入る。

それだけでなく、武器を持たないティエラに向けて剣を振りかぶってくる。

随分な歓迎だった。

とは言え、ノルマンディは侯爵なのだから当然の処置か。

拍手をしていた民衆からも、どよめきが起きる。

同時に、振り下ろされた剣が粉々に砕け散った。

剣が破壊された衝撃で、襲い掛かって来た兵士達は後ろに倒れ込む。

何が起きたと周囲は混乱するが、既にヴァロムがティエラを庇うように片手を上げていた。


「ぐぁっ!?」

「うぐっ! こ、この男は一体……!」


彼は終始無言だった。

この場で自身が悪魔だと知られるのは、不利になるからだ。

故に最小限の力だけで、彼らと相対するという手筈だった。

するとユースハイムが、兵達を連れてノルマンディの視界に入る。


「落ち着けノルマンディ。無礼は承知だが、いきなり斬りかかるとは焦り過ぎではないか?」

「ゆ、ユースハイム……!?」

「そうなるのも無理はないのだろうな。何せ私の領土で起きた騒動は、君が首謀していたことなのだから」


意味深な言葉で牽制すると、ノルマンディが言葉に詰まる。

明らかに動揺している。

ユースハイムが現れた事が何を意味するか、彼も悟ったからだ。

流石に辺境伯相手では、他の兵達も剣を振りかざしはしない。

代わりに民衆達が口々に疑問を触れ回る。


「ど、どういう事だ? 何故、辺境伯が?」

「宰相が首謀していたって、何の話だろう?」

「さ、さぁ……自分にはさっぱり……」


無関係な彼らが知る筈もない。

そしてその真実を知らしめるために、ティエラ達はやって来たのだ。

彼女は横槍が入らないと分かると、息を吸いこんで一歩前に進み出る。

此処が正念場だと、自らを奮い立たせる。

語るのは全ての始まりとなる判決。

魔女裁判の真偽だった。


「ノルマンディ侯爵、貴方は以前行われた魔女裁判において、無実の人間を容疑者に仕立て上げ、火刑に処しましたね?」

「何を馬鹿馬鹿しい……あの裁判は正当なものだ。魔女を生み出す忌むべき家系であると、聖女・エニモルが証明したのだ。今更そんな戯言を……」

「でしたら彼女の証言も、戯言と仰るおつもりですか?」


あくまで呆けるノルマンディだが、それは許さない。

ティエラが反論すると、辺境伯の部下によって一人の女性が壇上に上がってくる。

気迫を失い別人のようにも見えるが、その正体を見間違える者はいない。

俯いたままの彼女の姿を見て、皆が騒ぎ始める。


「ウインス・ヒンドリー!?」

「馬鹿な! 奴は、領主毒殺の容疑で拘束されていた筈だろう!?」


ヒンドリー家の毒殺事件は平民も知っている大事件だ。

その犯人が目の前に現れれば嫌でも視線は集まり、足も止まる。

民衆の耳を傾けさせるには十分だった。

これも情状酌量を対価に協力関係を築いた結果である。

ティエラが静かに頷くと、ウインスは苦しそうな表情で全てを明らかにした。

魔女裁判で何が起きたのか。

何故、自分が死罪に加担したのかを確かに告げた。

一時は怒りの視線をウインス達に向けていた民衆だったが、その矛先が徐々にノルマンディへと変わっていく。

対するノルマンディも苦しそうな表情でウインスを睨んでいた。


「今、彼女が証言した通りです。貴方はシュヴェルト家の者が無実であると知っていながら、有罪にするためにヒンドリー家を取り込んだ。同調した他の貴族たちも同じでしょう。そして聖女を利用して……或いは結託して邪魔者を一掃した。全ては自分こそが実権を握るために」

「そ、そんなモノ! その女が苦し紛れに付いた嘘に過ぎん! 知らん! 私は何も知らんぞ!」

「でしたら何故、そこまでしてウインス伯爵の身柄を求めていたのですか? 彼女は既に罪人。何の力もありません。そんな状況下で貴方がヒンドリー領に圧力を与え、ユースハイム伯の領土にまで押し入ったのは事実。それは此処にいらっしゃる、辺境伯様が証言してくださいます」


知らぬ存ぜぬでは済まされない。

ウインスを連行しようとしたのは事実であり、そのために令状すら送ったのだ。

隙を逃がすまいと、辺境伯が逃げ道を塞ぐ。

ロール状に丸め留めた羊皮紙を、ノルマンディに向けて放り投げた。


「念書だ。アラン・ヒンドリー宛に書いた手紙も、私の領土にある関所を強引に押し入ろうとした事も、全て正式な手順を以って書き記している。自らの悪事が明るみになると焦り、墓穴を掘ったようだな」

「ぐ……!」

「ノルマンディ、君は取り込むべき相手を間違えたのだよ」


勢力が大きくなればなるほど、清濁混合して流れ込むものだ。

そこを区別していくのが、力を持つノルマンディの役目でもあった。

しかし焦りのためか、油断のためか。

本来、呑み込んではいけない味方を呑み込んでしまった。

外壁が強固な城は、トロイの木馬のように内部から切り崩される。

周りの者は、呆気に取られて沈黙するばかりだった。

最早、弁明の余地はないか。

そう思えたのだが、不意にノルマンディは不敵な笑みを浮かべた。


「……だ、だからどうしたと言うのだ?」

「何?」

「私は確かに、他の貴族たちと結託した。それは認めよう。だがッ! 魔女裁判に、間違いはない! お前達にあの判決を覆せると!? 雑把なお前達が、それを証明できる訳もない! アレら罪人は、全て火刑で葬られたのだからな!」

「……!」

「控えろ! 無礼な態度も此処までだ! 宰相である私に向かって、このような真似をするとは! タダで済むと思うなッ! 貴様らにも、神の裁きが下るぞッ!!」


苦し紛れに近い言い逃れの仕方は、何処か覚えのあるものだった。

幾ら今回の件が悪質だったとしても、既に終わった魔女裁判の判決は変わらない。

死人に口なし。

そう言いたいようだった。

神を引き合いに出され、辺境伯の視線は鋭くなる。

しかし彼がわざわざ反論する必要はなかった。

死人は生き返り、口を開く。


「行こう。奴の高慢ちきな鼻を、叩き折るんだ」


ティエラが視線を向けると、それに気付いたヴァロムが強く頷く。

今までは自分の身を明かせなかった。

明かした所で、味方をする者などいなかったからだ。

だが、今は違う。

ヒンドリー領のアランだけでなく、辺境伯も手を貸してくれた。

抵抗できずに黙殺される心配は何処にもない。

故にティエラは声を響かせる。


「神の裁きですか……だとすれば、随分と生温いようですね。一番殺したかった筈の相手を、殺し損ねているのですから」

「な……に……?」

「まだ、分かりませんか? それとも殺した相手の顔など、とうに忘れてしまわれたのですか? ノルマンディ侯爵?」


続いてローブを取った。

一際目を引くバイオレット色の髪が靡き、皆の視線を釘付けにする。

そうして次の瞬間、その場にいた全員が理解した。

何故この者達が、魔女裁判の是非を問うために此処までやってきたのかを。


「なッ……!? そ、そんな!? 馬鹿なッ!?」


一番驚いたのはノルマンディ本人だろう。

目を剥き、信じられないモノを見るように後退る。

群れていた民衆からも、小さな悲鳴が上がり始める。

憚りはしない。

ティエラは大声で、その名を轟かせた。


「私の名はティエラ・シュヴェルト! 父と母の無念を晴らすため! そして己が無実を証明するため! あの火刑から舞い戻りましたわ!」


火炙りにされた少女は、死から甦る。

魔女としてではなく、自らの潔白を証明するために。

元は第一王子の婚約者。

王妃になる可能性すらあった人物だ。

彼女に秘められていた気迫に圧されない者はいなかった。


「い、生きていたのか……? シュヴェルト家の御令嬢が……!」

「そんな……どうやって……!?」

「もしや私達は、大きな間違いを犯していたのか……?」


確かにティエラが姿を現した事は、間違いなく衝撃的だっただろう。

剣を向ける者も、石を投げる者もいない。

代わりに、賛同や賞賛はない。

仕方のない事だ。

ティエラも民衆の信用を得られるとは思っていなかった。

必要なのは疑念。

魔女裁判に対する疑惑を抱かせる事だった。

後は自らの力で、その道を引き寄せる。

彼女は怯えすら見せるノルマンディと相対した。


「ノルマンディ侯爵、私が望むのはただ一つ。この私が魔女であるという証を、此処で告げる事です」

「な……!?」

「貴方が本当に私を魔女だと仰るなら、それを突き付ければ良い。王族という権力による封殺ではなく、確かな事実を示すのです。もし、それが出来ないと言うなら……あの裁判は不当に繋がります」

「く、くく、下らぬことを! 今この場に現れ、火刑から甦った事こそ魔女である証! 貴様は死して尚甦る、地獄の魔女に違いない!」

「もっとマトモな言い訳はできないのですか? 急場とは言え、本来ある筈の証拠を仄めかしもしないとは……。それはつまり、自身では証明できないという裏返し、と解釈しても宜しいのですね?」


自分が魔女ではない事は、他でもないティエラ自身が理解している。

でっち上げの冤罪である以上、そんな証拠がある筈もない。

突然それを追及されれば、頭も回らなくなるだろう。

ここに来て、苦しい言い訳にも拍車が掛かっていく。

ノルマンディの取り巻き達も、流石に動揺が隠せなくなっていく。


「さ、宰相……!」

「まさか、そのような事実はなかったのですか!?」

「私達はてっきり、聖女様との公約があったのだとばかり……!」


側近の言葉を聞き、ティエラは思い出す。

笑みを浮かべながら漆黒の瞳を覗かせていた、あの得体の知れない女性。

やはりあの聖女が関与していたようだ。

かつての断罪時、現れた聖女・エニモルは、既に王宮の人々から不自然な程の信用を得ていた。

それまで影も形もなかった中、まるで洗脳をされているかのような代わり振りだった。

若しくはノルマンディも、その一人だったのか。

彼は動揺の果てに首を振るだけだった。


「私は聖女の証言を信じたまで……! し、知らん……! 私は何も……!」

「知らない、ですか。私達も同じでした」

「!?」

「何一つ分からないまま、知らぬままに火刑に処されたあの無念……貴方に理解できますか? 全てを奪われた、私の怒りが……!」


譫言のように呟き始める彼に、最早用はない。

ならば加担した聖女に、それを証明してもらうまでだ。

断罪と冤罪を行った、元凶ともいえる人物に、同じ舞台に立ってもらう。

彼女はかつて王宮にいた頃のように、ノルマンディに命じる。


「聖女を証人として呼び出しなさい! 彼女が何故、私を魔女と呼ぶに至ったのか、真実を明らかにするのです! 判決を下した貴方には、その責任がある!」


民衆からの反発はなかった。

ティエラ達はただ、自らの潔白を訴えているだけ。

真実か否かは、聖女が姿を現せば自ずと分かると知ったからだ。

あくまで彼らは、疑惑の外には出られない。

確かな支持も受けられないと悟り、ノルマンディはガックリと俯いた。

顔色は完全に青ざめている。

それは自ら明かさずとも、悪事を働いていたのだと訴えているようにも見えた。


「な、何故だ……あと、もう少しの所だったというのに……ウッ!?」


意味深な事を呟いた、その瞬間だった。

突如、ノルマンディは苦しみだす。

精神的なものではない、身体に痛みが走ったのか胸を両手で抑える。


「何だ!?」

「さ、宰相!?」


取り巻きが傍に駆け寄る。

しかし一向に様子は戻らず、遂には膝を屈した。

嫌な予感がした。

何故かは分からないが、大変なことが起きる。

直感したティエラは思わず声を上げようとしたが、それよりも先に彼が叫び声を上げた。


「ぐあああああああッッ!!」


ノルマンディから暗黒の瘴気が溢れ出す。

見たこともない邪悪な力が、衝撃波を生み出す。

これは到底、彼が放った魔法ではなかった。

取り巻きが次々に吹き飛ばされ、警戒していたヴァロムも駆け寄るティエラを引き止めながら、全員を制止させるように声を張った。


「皆、離れろッ!」

「ヴァロム!?」

「コイツ、始めから埋め込まれていたのか!」


ヴァロムは力の正体に気付いたようだが、既に手遅れだった。

巻き上がっていた瘴気は一気にノルマンディを襲い、その身体を喰らった。

まるで眠っていた闇の力が、その宿主を侵食しているようだった。

時間は一瞬。

瘴気が晴れるとともに、ノルマンディは倒れ伏した。

正確には、だったモノと言うべきか。

遺された身体は、あまりに酷い状況だった。

誰でも分かる、絶命の瞬間。

一瞬の静寂の後、周囲は混迷を極めた。


「きゃああああっっ!」

「宰相ーッ!!」

「何だ!? 何が起こったんだッ!?」


ウインスは腰を抜かし、ユースハイムも突然起きたノルマンディの死に、事態を把握し切れていない。

そんな中、ティエラは彼の元に駆け寄る。

力の正体を探るためだ。

凄惨な遺体を前にヴァロムが引き止めようとするも、こればかりは譲れない。


「ティエラ……!」

「私の事は良い! それよりも彼を!」


最早、無関係ではない。

仕方なく同行するヴァロムと近づくと、絶命したノルマンディの身体には、奇妙な刻印が浮かび上がっていた。

ティエラは、それに見覚えがあった。

記憶と照らし合わせても、相違はない。

それは伝承に語り継がれる、悪しき力の根源。


「この紋様、まさか……!」

「間違いない! 魔女の刻印だ!」


魔女の力の一端が、そこにはあった。




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