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23.茨の先に




シトリーが放った茨は、古城内にも侵食しつつあった。

堅牢な壁を突き破り、ゆっくりと周囲を這いずり回る。

触れればタダでは済まないだろう。

警備をしていた兵士達は得体の知れない茨を見て、統制を乱し始める。


「一体、何が起きている!?」

「それが……正門の近くで、何者かが争っているらしく……!」

「争い!? ならば、この茨も連中が生み出したという事か!」

「恐らくは! ただ、あまりの強さに近づくことが出来ず……!」

「クソッ! 辺境伯の差し金か!? それともヒンドリーの子息か!? いや、それにしては争っている理由が……一体、どこの勢力が対峙しているのだ……!? ええい! とにかく、奴らの正体を探れ! 一歩も城内に入れるな!」

「はッ!」


見立て通り、兵士達とシトリーの間に協力関係はない。

彼らは一斉に剣を振るい、魔法を放ち始める。

しかし、その程度で悪魔の力を破れる訳もない。

斬撃や魔法を受けても、茨に傷が入る様子はなかった。

そんな状況を目にしたティエラは、透明化のローブを被ったまま、通路の影から周囲を見渡した。


「私には気付いていないようね」


細部にまで気を払う余裕はないのだろう。

戦いに巻き込まれないように、今の内にティエラは慎重に先へと進んだ。

当初の目論見からは外れたが、兵士達は黒茨に釘付けになっている。

警備を薄くさせるという結果は導かれた。

後は、ウインスの元にまで辿り着くだけ。

しかし新たに現れたあの悪魔は、ティエラには少々気掛かりだった。


「悪魔・シトリー……彼女も仕える主がいるの? でも周りの兵は知らなかったようだし……」


本来、悪魔は主の命令に従って行動する。

だとするなら、シトリーも何者かの命令で古城に現れたことになる。

ノルマンディの手の者かとも考えたが、それにしては兵士達との連携が取れていない。

別の勢力、はたまた刺客が適切だろう。

それに加えてシトリーの放つ一方的な感情は、ティエラの心を騒がせた。


「本当に、あの二人は初対面? それに、私に向けたあの視線……」


シトリーはヴァロムを王子様と呼んだ。

当然のように好意を示した。

彼は全く動じなかったが、ティエラは気が気ではなかった。

突然現れて、間に入ってくるような嫌悪感と孤独感。

それだけでなくティエラに向けて、すれ違いざまに挑発的な笑みを浮かべたのだ。

まるで、哀れな女を見るかのようだった。


駄目だ、とティエラは込み上げた感情を振り払う。

そんな事を考えている場合ではない。

今は一刻も早く、ウインスを連れ戻さなければならない。

居場所は兵士達の動きを見ていれば割り出せる筈だ。

戸惑う彼らの動きが地下から伸びているのを見て、ティエラはその跡を辿った。

侵食する茨は、それを追うようにゆっくりと迫ってくる。

まさか城ごと包み込む気だろうか。

地下に足を運びつつも不安を抱くが、次の瞬間、目の前に現れた茨の先に青白い火が付いた。

今までビクともしなかった茨が、炎に焼かれ細かな炭となって溶けていく。

間違いなく、ヴァロムが放った力だ。

彼は今もシトリーと対峙し、茨の侵攻を食い止めてくれている。


「大丈夫……落ち着いて……」


茨は迫って来ない。

自分にそう言い聞かせ、深呼吸をしてから注意深く進んだ。

胸中を渦巻いていた様々な感情を忘れ、罅割れた通路を渡る。

すると暫くして、前方から男達の声が聞こえてきた。


「クソッ! 何がどうなっているんだ!?」

「落ち着け! 俺達はウインス伯爵を守ればいい!」

「いっその事、混乱に乗じて始末すれば……!」

「よせ! 名目は病人の輸送なのだ! ここで始末すれば、他の貴族たちへの体裁が悪くなる! 王位継承の儀も近いのだ! 勝手な真似は出来ん!」


武装した兵士達が一番奥の部屋の前に留まっていた。

明らかに扉を守るように剣を構えている。

あの部屋にウインスが隔離されているようだ。

ティエラはその場で立ち止まりつつ、彼らの様子を窺う。


「兵士は三人……でも、問題はないわね」


三人程度なら問題はない。

そう確信し、彼女は懐からとあるモノを取り出した。

紫色の液体が入った透明な瓶だ。

彼女はそれを、思い切り兵士達の元へと放り投げる。

透明化で姿を隠していたティエラに気付く者はいない。

床に着地した瞬間、硝子が壊れる音と共に瓶は割れ、液体が気体となって飛散する。


「何ッ!?」

「瓶だと!? 一体何処から……!」


ようやく気付いた兵士達だが、既に手遅れだった。

彼らは巻き上がった紫色の空気を吸い、意識を手放していく。


「ウッ!?」

「き、急に眠気が……」

「しまった……魔薬……か……」


数秒で効果を発揮し、兵士達は一斉に倒れ伏した。

単純な話。

ウインスの魔薬、それを拝借しただけの事だ。

念のためと思って借りていたが、こんな所で役に立つとは彼女も良い仕事をする。

そう思いつつ、ティエラはハンカチで口元を覆いながら、兵士達に近づいた。

彼らが持っていた鍵を手に入れて、鍵の掛かっていた扉を開ける。

内部は簡素なもので、殆ど牢獄のような場所だった。

大よそ怪我人に対する扱いとは思えない。

しかしそこには病院服を纏い、ベッドで寝かされているウインスがいた。


「意識は戻っていないようね。一人で担げるかしら……」


目を覚ましているのも厄介だが、眠ったままも厄介だ。

どうにかして一人で運び出さなければならない。

兎に角、新たに持って来たローブで身体を包んでしまおう。

そう思ったティエラが彼女に近づこうとした、その時だった。


「随分と大胆な行動をするのだな」

「!?」

「しかしあの時、儂の前に立ちはだかったのだ。それ位の度量があっても不思議ではないか」


多少感心するような、しわがれた声が聞こえる。

思わず声の主を探すと、部屋の隅に佇む老爺がいた。

忘れる筈もない。

つい先日、ヴァロムを一方的に追い込んだ人物。


「アグレアス!?」


老獪な大悪魔が、赤い瞳でティエラを見据えていた。




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