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廃線

作者: 飯島 里佳

先日、家族で愛知県にある日本一小さなミニ村、「とみやまの里」へ行ってきました。

そこへ行った時に隧道の多い事。(隧道ずいどうとはトンネルの事です。)

佐久間ダム横の県道1号線を走りましたが、何処か異世界へ持って行かれそうな気分になりました。

そんな異世界感を舞台に今回この「廃線」を執筆しました。


夏休み。

僕は友人の鉄オタのヒロトと静岡県佐久間ダムに来ていた。

佐久間ダムは天竜川を堰き止め、全長30キロという大きさを誇るダムでダム湖百選にも選ばれたダム湖だ。

佐久間湖は長野、愛知、静岡の三県をまたぐ巨大ダム湖である。

ここ付近を走る列車はJR飯田線。

今年は渇水と言う事もあり、廃線、廃路オタクは佐久間ダムの下方を少しでも見ようとこぞって集まっていた。


僕が来た理由はヒロトの様に鉄オタでは無く、大学の真面目な夏休みのレポート提出の為だ。

四年になり就職活動もこなしつつ、卒業論文の練習も兼ねて題材を佐久間ダムとした。


「田舎だよなぁ…。」

ヒロトが周りの景色を見てボソっと言った。

確かに田舎だ。東京生まれ、東京育ちの僕とヒロトからみたら飯田線から見る景色はとにかくローカルだ。

車窓からは山と川と田園風景。時々街並みが見えるがそこでも東京の様な景色は無く、田舎と形容するに相応しい景色が並んでいた。てんりゅう

「でもさ、喧騒から逃れて何か良くない?東京って毎日何かにせっつかれている感じがして疲れる。」

僕がそう言うとヒロトは少し首をかしげたがそのまま車窓の景色に見入っていた。

列車は暫く走るとどんどん山間部へ入って来た。


東京を出発して4時間半経った頃に中部天竜駅に着いた。

駅からタクシーに乗り佐久間ダムまで行った。

道中タクシーの運転手にも佐久間ダムについてや、廃線になった飯田線について聞いたりした。

タクシーから降り、僕は佐久間ダムの写真を撮ったり、佐久間湖の写真を撮ったりした。

「なぁ、湖岸の右側行こうぜ。廃線だろ?YouTubeで上がっていた所。」

ヒロトがとても行きたそうにソワソワしている。

「白神駅があった所だよな?」

僕はヒロトに確認した。ヒロトは頷き、二人で富山へ向かう今は廃路になった右側を歩くことにした。

廃路になった道は地道で更に土砂崩れで転がって来た大きな岩などもそのままだった。

「大嵐駅まで何キロあるんだよ?」

ヒロトが聞いて来た。

「んと・・・20キロくらい?」

僕は調べた資料を見ながら答えた。それを聞いた瞬間ヒロトはあんぐりと口を開けた。

「そんなに大きな口開けてびっくりするなよ。大体、こんな所に来たら普通だよ。その状況は。」

僕はヒロトにそう答えて先へ進んだ。ヒロトは何やらブツブツ言っていたが、周りの景色を撮りながら後ろから着いて来た。

歩いているとじんわりと汗が出て来る。東京よりは涼しい気もするが、何せ山に囲まれているから風が抜けない。例えるならば盆地の様な地形だ。

「なぁ、これ見てくれよ。」

ヒロトがスマートフォンで撮った写真を見せて来た。

「ここの木の陰に、人が居る様に見えないか?」

「気味の悪い事言うなよ。ヒロトと僕しか居ないよ?」

僕は写真と同じ位置を確認したがそれらしい人影は見えなかった。

鬱蒼とした森が目の前に広がっているだけだった。

また暫く歩くとヒロトがおかしな事を言い出した。

「なぁ、後ろから誰かが着いてきてないか?何かずっと後を付けられている気がするんだけど。」

「・・・ビビってんの?」

僕は少しからかい気味に言った。

「なっ!何言ってるんだよ!怖い訳ないだろ!?ただここ何か重苦しい空気感っていうか・・・。」

ヒロトはそう言って下を向いた。

確かに昔ダムを作る際に河内地区を閉鎖させたため重苦しい感じはするが、怪奇現象が出るような事は何も無かったと思う。

「ヒロト、気にしすぎだよ。でももし嫌なら戻っていてもいいよ。」

僕は気遣いヒロトにそう言うと、「イヤ、いい。せめて隧道の写真を撮ってからじゃないと帰れない。来た意味が無くなる。」

そう言って隧道がある方へ歩いて行った。

歩けども歩けどもなかなかそこへたどり着くには厳しい道を、というか獣道の様な道を上がったり下ったりした。

2時間ほど歩くとダムに沈んだ隧道が姿を現した。

鉄オタの人たちなのか、まばらに人が居た。

僕とヒロトは歩きやすそうな坂を見つけ、ダムの水が無いところへ下りた。

近くの隧道へ足元に気を付けながら歩く。

「凄い・・・あまり老朽してないな。」

隧道を覗き込んだヒロトが感動のあまりに声を詰まらせて言った。

ダムに沈んでいたので泥もかなり堆積し、歩くのには辛い高さだ。

「やったなヒロト。先ずは目標の隧道の写真ゲットだな。」

「おう、お前もレポートのネタゲットだな。」

僕たちは顔を見合わせて笑った。


その時・・・


『キィー・・・・』


何かが開く音がした。

「・・・何の音だよ・・・。」

ヒロトが恐る恐る音のした方を見た。

僕も一緒に隧道へ体を入れて覗き込んだが、人影は無い。

ヒロトの顔をチラッと見た。二人で目を見合わせその場を足早に去った。


中部天竜駅に戻った頃には日は暮れかかっていた。

とりあえず宿のある富山へ行くために列車に乗り大嵐駅迄向かった。

大嵐駅に向かうまでに全長5063メートルの大原隧道がある。

「長いトンネルだな。」

僕は真っ暗で何も楽しくないトンネル内をずっと見つめていた。

「このトンネルは列車のトンネルで一番長いみたいだぞ。」

ヒロトは電車百科事典の様なものを開いて話してくれた。

トンネル内をボーっと見ていると、髪の長い女の様な影が見えた。

「わっ!人!!」

僕は思わず叫んだ。

ヒロトは僕の声にびっくりして持っていた本を落とした。

「何だよ!!人なんて居るわけないだろ!!ここトンネル内だぞ!!しかも昼間なら百歩譲って点検員が居たとしてもこんなもう日も暮れていて居るわけないだろ!!」

ヒロトは僕の言葉にそう否定して叫んだ。

「・・・ごめん。疲れているのかな?駅着いたら急いで宿へ行こうぜ。」

僕はそう言ってヒロトをなだめた。

駅に着くまで僕とヒロトはモノも言わなかった。


大嵐駅に着くと7時半を過ぎていた。

駅を出て左側を見ると、閉鎖されていた道に繋がる県道287号線の夏焼第二隧道があった。

元々は鉄道用の隧道だった。

「不気味だな・・・。街灯もあんま無いから暗いし。」

ヒロトが気味悪そうに言った。

「まぁな。こんな場所だから余計にそう感じるんだよ。とにかく宿まで歩いて結構あるから急ごうぜ。グーグルで見ると30分近くかかりそう。」

僕がそう話すとヒロトが第二隧道の方を見て「あれ?女の子が座り込んでる。大丈夫かな?行ってみようぜ。」そう言って女の子が居るという方向へ駆けて行った。

僕にはその女の子の姿が見えなかった。

昼間からずっとヒロトは不気味な事ばかり話していた。

「・・・ヒロト・・・ヒロト!!待てよ!!」

駅の側道を見ると昔のホームの跡がダム底まで続いていた。

僕はヒロトを追って隧道へ急いだ。嫌な気分しかしなかった。

隧道の手前まで来るとヒロトの姿が無い。

「おい、ヒロト!!どこだよ!?変な冗談やめてくれよ!!」

僕は大きな声で叫んだ。

けれど叫んでもヒロトからの返事が無い。

「ヒロト・・・?」

僕は恐る恐る隧道の中へ入った。


「お兄さん、何してるの?さっきの人の・・・お友達?」

後ろから女の子の声がした。足元を見るとヒロトの荷物が転がっている。

僕は体が震えている。

怖くて後ろを振り向けない。


震えているうちに僕の視界と思考が止まった。

















二人は何処へ行ったのか?

女の子は誰だったのか?死神だったのか?幽霊だったのか?

想像すると私も怖いです。結局姿をはっきりさせない方が後味悪さと気味悪さが残っていいかなと思いこの終わり方にしました。

とにかく隧道の多い富山、旧河内地区、佐久間ダム周辺。

佐久間ダムの静岡県側の側道は何年も前から廃路となっています。

(良い子は入らないでください。(笑))

本来四季折々の景色が見られる風光明媚な所です。富山地区にも秘境の秘湯と呼ばれる温泉があり、コンビニもなく俗世感を忘れられる所です。

本当は怪談めいたことなどありません。

ただ作品を書くのに隧道の気持ち悪さが行けると思い、話のネタにさせていただきました。

こちらを読んだ読者の皆様、秋には素晴らしいけしきが佐久間ダム一帯に広がります。

良かったら是非足を運んで見てください。あ、マスクは忘れずにお願いします。


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