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空想国会  作者: 113RC
1/1

開廷

空想国会


それは、人が生きて行く上での最高機関であり、

身体内における唯一の意志決定機関である。






僕の名前は佐藤弘樹。三十二歳独身の営業マン。売るのは車、法人相手だ。毎日、既存客や新規先を駆け回る日々。


時には即座に判断を強いられる場面も多々存在する。しかし、簡単には決められない。何故なら僕の頭には、国会があるからだ。





 冬の寒さが、時折布団から出てしまう足先に刺さる。まだ夜が明けない早朝、目覚ましの音が鳴り、目が覚めた。


【一月二十日。午前六時十三分。空想国会、開廷。】


 1DKの、至ってシンプルな一人暮らしの部屋、ここに住みだしてから五年が経っていた。

いつものように、リモコンで電気をつけ、カーテンを開けた。外を見ると疎らに電気が灯り出している。背伸びをし、僕はエアコンのスイッチに手を掛けた。


【節電等に関する審議】


『脳内野党による一般質問』

「環境大臣にお聞きします。先月の電気代、いくらでしたか?そして、今月は何パーセント削減すると、先月の定例会見、仰っていましたか?」


『環境大臣 答弁』

「事務方に確認を取っておりますが、一万五千円程だったと記憶しております。削減率につきましても記憶にはなりますが、一〇パーセントから二〇パーセントと、回答を致したと思います。」


『野党』

「正解です。環境大臣!それでですよ。今から貴方、身体に何をさせようとしてるんですか?答えてください。」


『環境大臣』

「エアコンのスイッチを入れようと、指示を出しました。」


『野党』

「いやいや、有り得ませんよ。削減する気あるんですか?私ね、隣国の使用料金、見ちゃったんですよ。我が国の40パーセント以下でした。それでも生活出来てるんですよ。エアコン、つけるんですか?」


『環境大臣』

「結論から申しますと、エアコンはつけます。当省と致しましては、消し忘れ、保安球の撤去等の対策を講じており、エアコンをつけたとしても、削減率には問題ないと、判断を致しまして、今回の指示を致しました。尚、隣国についてですが、外務省からの報告で、隣国は、女性であり他国に定期的な亡命をしていることが分かっております。よって、独身である我が国と比較する事は出来ないと、そう考えております。以上です。」


【節電等に関する審議 終了】


空想国会での一回目の戦いを終え、僕はエアコンをつけた。徐々に風が暖かくなり、部屋の温度を上げている間に、洗顔と歯磨きに向かった。洗面所へと向かう廊下は冷たく、足が凍りそうになっていた。


エアコンをつけて良かった。脳内の環境大臣に感謝しつつ、僕は冷水を顔に掛けた。夏場では考えられない温度の水に、思わず顔をしかめる。そして、真冬の朝一番の関門を乗り越えた。その後、歯磨き、着替えを済ませ、エアコンに部屋中の電気を消し、足早に自宅を後にした。





 スーツ姿のサラリーマンが集団となって、駅に歩いていく。まだ陽が上がりきらない中、眠気と戦いながら出勤している姿がそこにはあった。早朝から大変だな。職場が近い僕は、朝ごはんを近くのカフェでとる。今朝は何を食べようか。横目でサラリーマンを見つつ、僕は悩んだ。


【食糧費に対する予算審議 第一回】


『野党』

「財務大臣、ずばり聞きます。今日の朝ごはん、何になさるおつもりですか?」


『財務大臣』

「350円の、トーストセットと考えております。」


『野党』

「朝一番の活力ですよ?ここは、550円のサンドイッチセットにするべきかと思います。いかがでしょう?」


『財務大臣』

「厚労省から、朝ごはんに関する通達が来ております。しかし、贅沢をしろとは、書いてはおりません。よって、朝ごはんとして相応しいエネルギー摂取、これが出来るなら、トーストセットでも充分だと、判断致しました。」


『野党』

「しかし、トーストセット、財務大臣は中身を見られましたか?一枚のトーストにコーヒーと、微々たるコールスロー。これでお昼までの活動が出来るとは思えません。労働者目線の政策をする気はないんですか?」


『財務大臣』

「ですから、財務省としましては、今月度の予算に応じて、食糧費を捻出している訳であります。よって、予算に添った値段、それが370円です。このお店のメニューを見る限りでは、350円のトーストセット、これしかないと判断したまでであります。」


『野党』

「370円分かりました。では後20円は使用出来るということですよね。でしたら、トーストセットにプラス20円で、コールスロー小が、コールスロー大に変更出来ると書いてあります。大に変更される意思はあるのでしょうか?お答えください。」


『財務大臣』

「小さい文字でしたが、よく見つけましたね。拍手ものだと思います。本当であれば、省内で検討をしなければなりませんが、何分時間が御座いませんので、20円プラスのコールスロー大、補正予算を組み、対応したいと思います。」


【食糧費に対する予算審議 第一回 終了】

 

20円プラスでその手があった。やはりメニューは良く目を通さないといけない。僕はそう思いつつ、

「トーストセット、プラス20円でコールスロー大に変更お願いします。」

朝七時過ぎだというのに、この笑顔は凄い。そう思う女性店員に対して、僕はそう口を開いた。



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