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召喚

目を開けて天井を睨みつける。意識が完全に覚醒するまでの間、というより頭が起きてから体が始動するまでのタイムラグに、やることなんて限られてる。

「知ってる天井だ。」なんてネタをやってるうちにだんだんと頭が冴えてきた、そろそろこの半金縛り状態も終わりだろう。


ゆっくりと体を起こし、伸びとともに大あくび。布団から出てまだいまいちピントの合ってない目で勉強机の上のデジタル時計を見るけど、目やにやら涙やらでぼやぼやでほとんど見えない。

一度目を閉じなおして目を擦る。本当はあまりやっちゃいけない、瞬きで何とかするべきなのだがこれは癖みたいなもので、この動作を含める朝のルーチンだけは今まで意識しても変えられたためしがない。

もう一度まだ少し重い瞼を意志の力でこじ開けて、液晶にピントを合わせる。時刻は午前五時三十一分と十二、十三、十四秒。いや秒は切り捨てていいや。


布団から出て、6時にセットされたアラームを止める。ポチっとな。のそのそと着替えを探しにドアノブに手をかけ、捻った。ガチャリ、と小気味良い音を立ててドアが開く。



今日も、なんてことない一日が始まる。そう思っていた。・・・その時までは。



どたどたと下に降りて、まだ誰も起きていないリビングに突撃して冷蔵庫を漁る。昨日買った新鮮な鮭、パックの納豆、日切れが近い卵。鮭は塩焼きにするとして、ほかのメニューはベタに卵焼きとかでいっか。

昨日乾燥昆布を放り込んでおいた鍋をIHヒーターの中火で温め、っとそうそうちゃんと昆布は回収しておく。これは佃煮になるんだ。だしは取れたんで大根をいちょう切りにして投入。油揚げも放り込んで、大根が透き通るまで煮る。

一度火を止めて味噌を溶き入れできあがり。鰹節は面倒だったので飛ばした、まあ少しくらい楽をしたって罰は当たらないだろう。


鮭は塩焼きなので考えることは特にない、タイマー機能を使おう。1切れは1食分には大きすぎるけど、朝食の残りをほぐしてご飯に混ぜ込んで握り、仕上げに白ごまを振って昼用の弁当のおにぎりを作るからこのくらいがちょうどいい。

最後に卵焼きを作って、朝食べる分と弁当に入れる分で分けておくか。我が家のレシピは甘めなのだ、砂糖の溶け残りがないようにまず砂糖を魔法瓶のお湯に溶かして濃い砂糖水を作って、卵液に投入。焦がさないように気を付けて加熱して形を作る。


これで朝と昼の分の食事の出来上がりだ。


ご飯をよそう前に時計を確認。壁掛け時計は長針が十一、短針がほぼ六を示している。今日も予定通りだ。


「いただきます。」


・・・高校生になってから一人暮らしを始めたが、一人でのんびり食べる朝というのもなかなかどうして悪くないではないか。自炊スキルは中3家庭科「5」相当だけど案外何とかなるもんだった。


「ごちそうさま。」


食べ終わった食器は水につけておくと汚れの落ちがよくなる。・・・この食器がそのまま彼の手によって2度と洗われることがないが、そんなことは知る由もない。


支度を済ませ趣味の読書に暫しふける。「世界で一番美しい図鑑」シリーズが最近のお気に入りだ。もう何周したかわからない、かなりボロボロになってきている一冊を手にとって、ほとんど暗記してしまった内容を見ながら写真を暫し見つめる。

こんな調子で読んでいるから、我が家にある本はたいてい全部古く見える。要はボロボロなのだ。


気が付けばそろそろ学校へ行く時間だ。今日も仲間たちとバカやりますか。


―――!

何かがおかしい、そんな嫌な予感がふっと背中を走り、全身の筋肉を緊張させ皮膚を粟立たせる。周りを見回すが、特に異常はない。

無駄によく当たる自分の感から、何か非日常へと巻き込まれそうな気がしてならなかった。


―――――――

何時もより神経を尖らせて授業に臨んでいた。

1限目は道徳、マナーやルールについてお話が合ったのとワークシートだけだった。何事もなく、ソラ達と一緒にルールの抜け穴を探したり「先生を困らせる100の質問」を考えてみたりしたことを除けば何事もなく終わった。バカやって気を紛らわそうとしたという意味もあったかもしれない。なのに嫌な予感は収まることを知らない、むしろもうすぐ何か起こるとしか思えなかった。

5分休憩、友人に話そうかと一瞬躊躇したが、そんなのは無意味だったようだ。

ちょうど副担任の千歳先生しかいなかった時だった。担任の先生については昨日紹介し忘れたが、そんなものは今となってはもう関係ない。


教室全体を包み込むように赤黒い魔法陣が展開され、何をする間もなく。時間にして展開が始まってからコンマ一秒にも満たない間に体が引っ張り込まれ、次に担任が戻ってきたときに目にしたのは忽然と人が消え、無人になった教室だった。


―――――――――――


まず、視界がホワイトアウトして何も見えなくなった。テレビの砂嵐のようなノイズで聴覚も使い物にならない。嗅覚と味覚は何も口に入っていないはずなのにエキゾチックな、嗅いだことのあるような無いような・・・蓮の花に特殊な柑橘系の香りを足して、そこに古いかびた本のにおいと鼻血を出した時に感じた鉄の味も追加して四で割らなかったような妙な感覚に襲われていた。


思考が加速し、この状況を務めて冷静に捉えようとする。引きずり込まれるような感覚と現在の状況から判断するに、今は転送途中なのだろう。問題は、転送先が不明だということ・・・前に読んだラノベのような状況だと仮定するならば、異世界である可能性が高い。

できれば拒否したい。

うちに帰ってから「マイ〇ラ」のModパックをプレイしたかったんだ!

そこまで考えたところで意識さえも消失しかける。


――――――――――


何とか視界が戻った時、見える光景に唖然とした。


キラキラとした輪を持つ、蒼い星。地球と比べて両極の氷が広く、大陸の形が全然違う。夜の部分に見える灯はまばらで人の目にかろうじて見えるか見えないかといったところ。

足元には無数の魔法陣によって淡い黄色に輝く、この惑星の衛星とみられる星。

そして頭上には、星座図鑑を暗記した自分がどこの空かわからない未知の星空。

挿絵(By みてみん)


ちょっと待て。


ここ、宇宙空間じゃないか?


異世界転移かと思いきや即死なんて、人生ハードモードすぎ。笑えない。

気圧が低くなればなるほど水の沸点は下がり、富士山山頂で約七〇度前後だったハズだ。それが宇宙空間の場合真空であるので人の体温でも沸騰を始める。それが終わったら氷点下一七三度でカチカチに凍らされ、あっという間にミイラの出来上がりだ。宇宙服なしではとても生きられない。


・・・あれ?もう死んでてもいいはずなんだが?いっこうに意識が消えない。

と思いきや、また発生する引きずり込まれるような感覚。周りを見ると、衛星表面から次々と光が飛び出して、目の前の星に吸い込まれていく。

こんなにこの星は大きかったっけと数舜前の自分の記憶と今見えている景色を照らし合わせて、自分が、いや自分もこの星へと飛ばされているということを理解した。


必死で向かっていく先を把握しようとするが、地平線すれすれでまだよくわからない。どうやら視認した四つの大陸のうちの一つ、ただ気になるのは唯一街の明かりが全く見当たらなかった大陸であるということ。まだ、そこに行くとは確定していないんだ、焦るべき時じゃない。


周囲が緑色に発光し始めて段々と何も見えなくなってゆく。


最後に、青白い魔法陣をくっきりとみた。ような気がした。

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