態度の大きいキャベツの話
スーパーでキャベツを買った。少しでも食費を抑えたかったから、高々と積み上げられたキャベツを一つ一つ手に取って、一番重いのを選んでカゴに入れた。
帰宅して、その日は料理をする気がしなかったので、とりあえず冷蔵庫に入れた。
翌日、野菜炒めを作ろうと冷蔵庫からキャベツを取り出すと、中から何やらゴロゴロと転がるような音がした。
慎重に包丁を入れると、キャベツの中には男児が入っていた。
「寒いんだよ、このやろう」
男児はこう言うと、箸とコップと皿を持って食卓についた。
俺は少し戸惑ったが、男児がいかにも当たり前という顔をして居座ったので、追い出すのも面倒になり同居生活がはじまった。
俺は男児を“キャベ太郎”と名付けた。ちなみにイントネーションは“このやろう”と同じである。
キャベ太郎は優秀だった。ひと月もたたぬうちに高卒認定をとり、翌4月には東◯大学に入学していた。
大学では起業家志望の学生たちと集まって、意気揚々と勉強会や飲み会を主催しているらしかった。
一方の俺は、会社の業績が悪く、アテにしていたボーナスも削られて食費にも困っていた。
頭の良いキャベ太郎ならと思い、ある日の晩あけすけに相談してみたが、キャベ太郎はこう答えた。
「それで?」
「それでお前はどうしたいの?」
それは...と言いかけたとき、棚に飾っていた家族写真が目に入った。ふと、田舎のばあちゃんが、「ホウレン草についてる虫は、ホウレン草しか食べてないんだから、味も栄養もホウレン草」と言っていたのが思い出された。
キャベ太郎がみじん切りになるまでは一瞬だった。
みじん切りになったキャベ太郎は言った。
「なるほどね」
俺は数少ない仲の良い同僚数人にLINEを送り、青海苔と鰹節を手土産に頼んだ。
少なく見積もっても、26枚はお好み焼きが焼けるはずだ。
フライパンを温めながら、こいつは間違いなく一番大きいキャベツだった、と俺は思った。