いつかまた出会うときに
崇たちがルサールカとの話し合いが終わったのは、まだ昼にもならない時間帯。デートを十分に楽しめれる時間帯だ。崇と雄太は「野暮なことはしない」と同行拒否をしたが、涼太の強い願い(?)のもと少し離れた場所で付いていくことになった。
「涼太のあんな顔、見たことなかったな…」
「ふふ、そうですね。北倉君は基本的にクールですから」
ルサールカに腕を組まれている涼太は、体が斜めになりながらも一緒に街を歩いている。途中で大きな可愛い綿菓子やゲームセンターが気になったルサールカの希望を聞きながら。そんな姿を後ろから見ながら二人は大きなかき氷やジュースを飲みながら話していた。
「今の状態のルサールカは他に人間にも見えるんだろ?」
「そうですね。ルサールカ本人の希望もありましたし、周りの方に見えないと、一人おかしな行動している北倉君というイメージが付いちゃいますし…」
「クマのぬいぐるみを大事に持ってて、女に興味がないということ自体、俺から言わせればおかしいけどな」
「…それは…仕方がないですね」
崇は少し困った顔をして言った。
「まぁ、ルサールカは凄い美人だから一緒にいるうちに女にも興味を持てるようになるかもな」
「う~ん…」
「っと、そんなこと言ってると、やっぱり声をかけてくる男がいたな」
雄太がニヤッと笑いながら前を見て言った。崇は二人を見ると、前から男3人組が絡んでいる。
「ヒュー。メッチャきれいな女の子を連れてんじゃん」
「こんな奴やめて、俺らと一緒に楽しいことしようぜ」
「おい、お前。お前じゃ役不足だよ。あっち行けよ」
3人組は口々に言った。結構体格もがっつりしてて良い。反対に涼太は身長はあるが細身のため、ひ弱に見えてしまう。一人の男は涼太をドンッと押した。
「!!」
雄太は駆け寄ろうとしたが、崇はそれを止めた。「なんでだよ!」と言いたかったが、崇の少し険しくなった表情を見てやめた。
「なぁなぁ」
男たちはニヤニヤと笑いながらルサールカに触ろうとした。
ガッ!
手を伸ばした男の手首を涼太は掴んだ。
「おい、なにすんだ…よ」
睨め付けてくる男に、涼太は冷ややかな視線を送り無言のまま、相手の手首を強く握った。
「いて、いててて!」
「お前…何やったか分かってんのか…?」
涼太は冷たく、そして低い声を出して言った。
「お前、やってはいかんことをしてくれたな」
涼太のその表情や声に男たちはゾクッと寒気を覚えた。
「お、おい。行こうぜ」
男たちはそう言うと、その場を離れた。
その後ろ姿を涼太はため息をつきながら見た。
『涼太、ありがとう』
ルサールカは笑顔でお礼を言った。
「あ、いや…」
涼太はルサールカを軽くあしらうと胸ポケットからマシェリを取り出した。
「うわぁぁ、ごめんね、マシェリ!大丈夫だったか?ちゃんと仇は取ったからな!痛い所はないか!?あぁ~、こんなにへこんで…。くそぉ、あいつら今度会ったらただじゃ置かないからな!」
涼太はマシェリに頬をスリスリしたり、形を確認し、涼太でなければ分からないようなへこみ(全くわからんが…)に対しての怒りを露わにした。
「………たか…」
「なんです?」
「もしかしてさっき俺を止めたのはアレがあったからか…?」
「はい。僕の位置から涼太が突き飛ばされたとき、マシェリにも当たってたので、これは危ないなと…」
「………あいつは本当に………」
雄太は呆れた顔をしていたが、クッと吹き出し「あはははは!」と大声で笑った。
「まったく呆れたもんだな。本当感心するよ。クマに向ける愛情を女にも向けたらモテまくるな」
「涼太はマシェリにモテてたら、それで幸せなんですよ」
「そこまで大事ってのが凄いな。なんかあるのか?」
「………どうでしょうね」
崇は少し遠くを見ながら言った。
『涼太はその人形が大事なのか?』
ルサールカは涼太の顔を覗き込んだ。
「あぁ。すごく大事な………大切なんだ」
涼太のマシェリを見る目つきが優しいことにルサールカは気付いた。
『そうですか』
「あ。すまない。今はデートをしているんだったな。申し訳ない。こればかりは引くわけにはいかないんだ」
『いいえ、大丈夫です。…私もそんなお方に出会えていたら…』
ルサールカは少し寂しそうな顔をした。
「…俺は女性が苦手だから、どうしていいかは分かりかねるが…ルサールカは素敵な女性だと思うぞ?」
『え?』
涼太は不意に出た自分の言葉にハッとしたが、少し気まずそうに言った。
「俺にとって一番はマシェリだが、今日一緒に行動して…そのなんだ…悪い気はしなかった。最初はとんでもない事だと思ってたんだが、意外と楽しんでる自分がいた。ルサールカが自分に正直に喜びを出してくれたからではないだろうか」
『…』
「君が俺を選んでくれたおかげで、また新しい自分を知ることが出来たよ。ありがとう」
涼太は少しテレた様子で、不器用な笑顔を見せた。
『ありがとう…』
「え?」
『私はその言葉が聞きたかったみたいです…。涼太、ありがとう』
ルサールカはそう言うとスッと消えた。
「「え?」」
街のど真ん中で人の目を寄せるほどの美人が急に消えたのだ。周囲はざわつき始める。3人は目が点になったが、すぐに我を取り戻した。
「おいおいおいおいおい!」
「消えちゃいましたね」
「ここは走るぞ!」
そう言うとすたこらと走り出した。後ろからは恐怖の叫び声や自分たちを引き留めようとする声が聞こえるが無視をした。
「どこに消えたんだ!?」
雄太は走りながら聞いた。
「ルサールカが戻る場所はあそこしかないでしょう」
「あぁ。学校のプールだ」
3人は学校へと向かった。
学校に着くとそこにはルサールカはいなかった。代わりにババさんがプールの上で正座をしていた。
『ババ!』
鈴音はババに近寄ろうとした。しかし、バチッと何かの壁に跳ね返されたようだ。鈴音は手のひらで見えない壁を叩いている。ババはそれを静かに見て、頭を下げた。
『姫様。ご迷惑をおかけしました』
「ルサールカからは解放されましたか。ご気分はどうですか?大丈夫ですか?」
崇は優しく話しかける。
『はい。皆様方にもご迷惑をおかけしました。私の弱さが呼んでしまった…悲しいものです…』
『ババ!』
『姫様、人柱としてのお勤め、ご苦労様でした。苦しかったでしょう、怖かったでしょう。変わることが出来なかったババをお許しください』
『怒ってない!怒ってないぞ!ババ!』
ババは優しく微笑んだ。
『姫様、ババは姫様の近くにいることが出来て幸せでした。…涼太殿』
「はい」
『先程は申し訳ありませんでした。あの者と私は同じ…。ふふ、私にあんな感情があったとは知りませんでした。お恥ずかしい限りです』
ババは少し頬を染め、着物の裾で少し顔を隠して言った。
「ババさん、俺も同じですよ」
涼太は優しく言った。
『崇様、涼太様、雄太様』
ババは背筋を正して3人の名前を呼んだ。
「はい」
『どうか姫様をよろしくお願いいたします』
ババは頭を下げた。少し影が薄くなっているようだ。
『姫様、私はお先に行って姫様があちらに来られる日をお待ちしております』
『ババ!もう少し話がしたい!』
『ババはもうあちらに呼ばれておりますので…』
そう言うと、もうほとんど姿が見えなくなっている。
『ババ!ありがとう!ありがとう!ババ!わらわはババがいてくれて本当に良かった!楽しかったぞ!』
鈴音は大粒の涙を流しながら叫んだ。
『ふふ、姫様。大声ははしたないですよ』
ババはそう言い残し、消えた。
「鈴音さん、大丈夫ですか?」
崇は丸くなって動かない鈴音に声をかけた。
『…』
「鈴音さん、ババさんは鈴音さんがいつまでも落ち込むと悲しんでしまうぞ?」
涼太も少し鈴音が気になり声をかけた。
『…』
「はっあぁ~あ!鈴音ってそんなに弱い姫さんだったのか?いつまでも落ち込むなんて考えられねぇ!ババさんは良い場所に行ったわけじゃん!喜んでやらんでどうするよ!それが嫌なら一緒に行けば良かったんだよ!」
ピク。
「この前までなんて俺を怖がらそうとしたり、そんなしおらしさの欠片もなかったお方がねぇ」
ピクピク。
「まぁ、たがが10歳の女の子じゃ仕方がないか。お子ちゃまだもんなぁ」
雄太はニヤ~ッと笑いながら鈴音を見た。
『…貴様…わらわを愚弄する気か…』
ゆら~っと立ち上がった鈴音は、怒りのどす黒いオーラが半端なく出ている。
「ふ、鈴音さんには悲しい顔なんて似合わないよ。元気を出して…」
雄太はそう言うも鈴音の怒りのオーラが半端ないことに少し怖気つく。
「あ、あの…崇、涼太…」
雄太は二人を見るが、遠く離れた場所で合掌している。
「!?」
雄太の顔から血の気が引いた。
「す、す、すみませんでした!鈴音様!どうかお許しください!」
『ほぉ?わらわを呼び捨てにしただけでなく言葉で愚弄したモノを許せと…?ふふふ、わらわはおこちゃまなんであろう?覚悟をするが良い!』
鈴音は雄太に向かって近場にある石や道具を、力を使って攻撃を始めた。
「ぎゃぁああぁあ!冗談きついって!当たったら死ぬ!死ぬから!」
『死ねばわらわと同じじゃ!安心せい!』
「冗談じゃない~!崇!涼太!助けてくれ~!」
雄太と鈴音の追いかけっこを二人は暖かく見守った。
これで第二部は終わりですが、まだまだ続きます。




