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こんばんは、神崎です。
新しい話の公開です! 七夕の夜は、更けていきます。
よろしくお願いします。
「今までなら当たり前だったんだよね、こうやって話したり、こうやって触れたり。もし今日そんな気分じゃなかったら明日にすればいいや――なんてことだってできたのに」
「…………うん、」
星に見下ろされた展望台で、景色なんて見ることすらせずにわたしたちは抱き合っていた。夏の蒸し暑い夜だから、できるだけ身体を夜風で冷ましたいと思っていたのに、たぶんそれはお互いに同じはずなのに。
それでも、わたしたちは互いに離れることなんて考えられなかった。
だって、こうしていられる時間は当たり前じゃない。
七夕が土曜日だからこうして帰ってこられた。
でも、月曜日にはまた、いつもの日常が始まることになる。
紗菜はこの街で。
わたしは上京先で。
遠く離れた毎日を送ることになってしまう。
もちろん、それを選んだのはわたしだ。
それを伝えたとき、勝手に引き止められることを期待した。笑顔で見送られたことが、痛かった。今となってはそれが本当に笑顔だったかもわからない。けど、その痛みがわたしをずっと遠ざけていた。
もし、またいま伝えたらどうなるんだろう?
お互いわかりきっていることだとはわかっているけれど、言いたくなった。きっと、それでやり直しにはならないけど、意味はないけれど。
あの頃ほしかったものをほしいわけでもないし、そんなの今更だ。
それでも。
どういう意味があるとかじゃなくて、言いたくなったから。
「あのさ、紗菜」
「ん、」
「わたしさ、明日には帰るんだよ、向こうに」
「……そっか」
「うん」
「そうだよね」
「そうだよ」
「……うん」
紗菜は、わたしの腕の中で何度か頷いた。
…………別に、引き留めてほしかった訳じゃない。だって、今そんなことされたって、もうわたしには向こうでの生活がある。それを崩すことだってできない。
それでも、まだわたしは大人になりきれていないみたいだった。
「――――っ、星音、痛いよ?」
「痛くしてるから」
腕の中で苦しそうな声を上げる紗菜に、今度ははっきり言う。
「は、」
「今『離れたくない』って言ってくれても、今更なんだよ、星音?」
その言葉は、重くのし掛かった。
こんなに身体はくっついているのに、まるで空気が違うみたいに、壁みたいなものを感じる、嫌な重さだった。