ignorance
こんばんは、神崎です。
七夕の夜に気持ちを打ち明け合うって、ちょっと素敵かも知れませんよね。
よろしくお願いします!
「え……、」
なに。
後悔してること?
切なげな――あの頃より大人びて見える顔で言われたその言葉に、わたしは心を奪われて、次の瞬間に激しい痛みを感じた。心臓を握られるみたいに、身体を内側から圧迫されているみたいに。
わたしたちは、いわゆる幼馴染だ。
それは、大学に進学した去年から今までずっと離れてたよ?
でも、言ってしまえば、たったの1年半。
わたしたちが離れるより前に一緒に過ごしていた時間と比べたら、本当に短い間じゃない。たったそれだけの間に、紗菜はこんなにも寂しそうな顔を……、わたしの知らなかった顔をするようになっていた。
いつも知らないことなんてないくらい一緒にいて、むしろわたしがいなきゃ何もできないなんて感じのあった紗菜のことが、もうわからない。
それが、苦しかった。
無条件に信じていた前提を覆された、どうしようもなく頼りない気持ち。見ているものが全部蜃気楼になってしまったみたいな気持ちになる。
「ぁ、あの、紗菜……?」
「ん?」
「紗菜、だよね?」
うわ、我ながら何を訊いてるんだろう! すごい変な質問してる……っ!
思わず頭を抱えてしまうわたしの姿は、紗菜にはどう見えたんだろう。少しだけ、緊張した呼吸音が聞こえた。
それから、紗菜はわたしの頭をやんわりと抱き締めた。
「え、」
なに、え、柔らか。いい匂い。
戸惑いよりも、感覚に訴える情報に思わず反応してしまった自分が恥ずかしくなってしまう。でも、何か弁解しようとする前に、紗菜の声が頭上から聞こえた。
「星音だよ」
「えっ」
「星音はさ、昔からお姉ちゃんみたいだったけど、たぶん昔から自分のことはあんまりわかってなかったよね。うーん、それはこっちも一緒なんだけど、あの、あの、あのね?」
「……紗菜?」
「私を変えたのは、たぶん星音なんだよ」
「え、どういうこと、――――」
言いかけて、止める。
だってそんなの、わたしだって感じてることじゃないか。わたしだって、ここに帰ってきてから、紗菜の“変化”を見てから、ずっと感じてるじゃないか。
「当たり前が当たり前じゃなかったって気付かされるのってね、ほんとに辛いんだよ?」
わたしは、紗菜の胸の中でただ頷くしかなかった。