ハヴァの指先
女子高って聞くと、どんな学校生活を想像する?
やっぱり、女の子たちが楽しくキャッキャうふふしてる姿?
先輩と後輩で、お姉さまとか呼び合っちゃう姿?
そんなのナイナイ。
むしろ、行ってみたいよ。
そーゆー夢の国に。
女子高なんてさ。
男と触れ合う機会が、無いで有りまくりなんだけど、ない。
うん。何を言っているか判らないよね、私も判らない。
ようはさ。
クラスメイトにどんな子がいるかで男と知り合う機会が段違いになるってこと。
「彼氏の友達の友達が、彼女が欲しいって言ってるらしいから紹介するよ」って、それ知り合いですらないじゃん。
こういう伝言ゲーム型カレカノ紹介リレーがすごく多い。
そして、同性しかいない。これ凄いよ。夏の教室内とか目も当てられない。
だって人間、暑さとか無理じゃん。自然に勝てないよ。
まぁ、そんなわけで。
珍獣動物園に放り込まれて一年。
小動物並みにビクついていた私は、この肉食獣が集うポストアポカリプスを無事生き抜き、ヌーに進化した。
環境適応力はA++だったみたい。
二年になり、当たり前だけどクラス替えがあった。
今度はどんな珍獣や猛獣がいるんだろう?
そんな期待を裏切らない仕様、大好きです。
でも、一人だけ。
新学期が始まって、一週間。私の隣の席は空席だった。
事情を知るクラスメイトに聞いた話だと、私の隣の席の子は足を骨折してお休みしているらしい。
「次の水曜には学校来るって言っていたよ」
同じ部活だというクラスメイトは、彼女の登校日を教えてくれた。
今日、一週間不在だった私の席の隣の子がやってくる。
どんな子がくるんだろう。
少しの期待をこめて教室の入り口を眺めていたら、息が止まった。
スポーツ系の部活をしている子は、髪が短いのは普通だけど。
髪が短い以前に、とても綺麗な子だと思ったのだ。
日に焼けた小麦色の肌とか、ワックスで固め少し立ててる短めの髪とか触ってみたい。
意志の強そうな太目の眉、笑うと歯並びのいい白い歯が見えた。
教室に入ってきた彼女に気がついたクラスメイトが集まっていく。
私は知らなかったけど、彼女は、それなりに人気者だったみたい。
見た目がとっても男の子だもの、女の子はそーゆー子好きよね。
自分の席を教えられ、器用に松葉杖を操りながらこちらに向かい歩いてきた彼女は、机に鞄を置くと少し照れくさそうに私を見て笑った。
「ウッス、よろしく」
「よろしく。はじめまして」
簡単に名前を教え合うだけの自己紹介を終え席に着くと、今度は松葉杖の置き場所に四苦八苦してる。結局、諦めて床に寝かせるあたり可愛い。
「ねぇ、それ何? 」
「ん? 」
松葉杖の置き場が決まった彼女が、私の指先を見ながら聞いてきた。
彼女が松葉杖と格闘している間、私はずっと爪を磨きながらその姿を見ていたのだ。不躾な私の視線に文句を言うより、私が手にしている爪やすりに興味が惹かれたのだろう。
「グラスネイルファイル。ガラスで出来た爪やすりだよ」
「えっ、そんなのあるんだ」
彼女が爪やすりを見たことがないとは思わないが、ガラスで出来ているのを見たのは初めてなのかもしれない。
爪やすりと私の顔を交互に見る顔は、どこか犬っぽい。
「マニキュアだと、見つかると面倒だから」
そう言って、私は鞄の上に置かれていた彼女の左手に自分の手を重ねた。
「手、貸して。磨いてあげる」
「えっ、いや」
「まだ予鈴がなるまで時間あるから」
まるで御伽噺の王子様が姫君の手を取るように、彼女の手を掬い上げると私は爪やすりを持つ右手の指先で彼女の指に触れる。
「指、真っ直ぐにして」
素直に指を伸ばす彼女の仄かに色づいた頬に恥じらいが見える。
私は、湧き上がる喜びを抑える気もなく笑顔を浮かべながら、彼女の人差し指の爪にそっと爪やすりを押し付けた。
ある春の日、
クラスメイトたちがおはようと挨拶しあう教室で
誰にも気づかれず、私は……
男の子に憧れる少女を犯したの。
読んでいただき、有難うございました。