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第11話、お仕置き。

 軍隊内において男女交際は特に禁じられているわけではない。性交渉についても同様だ。ただし、合意のないものについては軍規により厳しく罰せられる。娼館のようなものの利用についても許されているが、街でしか営業しておらず最前線までわざわざ出張してくるようなことはない。


 ところで、以前説明した通り、ホムンクルスは軍規における扱いは例外規定を除けば歩兵と同等である。歩兵と同等であるということは基本的に人間として扱われるということだ。それは上記の規定についても当てはまる。


 つまり、合意さえあれば一般兵士がホムンクルスと性交渉を持つことは合法である。そして、ホムンクルスは自由意志がないので会話の仕方さえ間違えなければ拒否されると言うことはない。


 要するに、この場にいないホムンクルスがどこに行っているかというと、この先任分隊長が言った言葉の文字通り、別のところでているということだ。そして、彼はセイカーの目の前でエルマに対して同じことをしようとしたのだ。


 確かに軍規には違反していない。だが、それは単に上層部やホムンクルス開発者の誰もそんな事態を想定していないというだけのことであり、風紀の面でも何よりセイカーの個人的感情からも容認できない問題だった。とはいえ、軍規違反に問うことはできず、指揮系統上も階級上も先任分隊長の行動をとがめることはできない。


 つまり、これから行うのは腕力に物を言わせた私的制裁リンチということになる。


 「では行きましょう、分隊長殿」


 残念そうな表情を隠そうともしない先任分隊長だったが、親睦会とやらの行われる場所へと案内されると、そこは小隊長の私室で中には先ほどの小隊長と分隊長たちが勢揃いしていた。この悪弊に士官まで関与しているとは。


 「ジョーイ小隊長殿」

 「セイカー軍曹か。もう一人はどうした?」

 「は、明日の出撃の準備をさせております」

 「そうか。仕事が終われば一緒に呼ぶといい。新人で右も左も分からんだろうからいろいろと教えてやろう」

 「それはご命令ですか?」

 「いや、ただの戦友としての親切心だよ」


 言質を取ろうとすると必ず任意だと言って逃げに走る。どこに線が引かれているか分かったうえで誘導しようとしてくる態度は完全に黒だと言っていい。


 「了解しました。後でエルマを呼びに行きましょう」

 「いい。別のやつに行かせるさ。それより、ここは無礼講だ。存分に楽しもうじゃないか」

 「はい、小隊長殿」


 そう言ってセイカーは小隊長のそばによって片手で胸を触り、顔をじっと見つめながらもう片方を股間の方へと伸ばした。


 ……、そして、小隊長の腰に下げられていたサーベルを抜き放った。


 「なっ」

 「さすが小隊長殿はたいそう立派なものをお持ちでございますね」


 士官は腰にサーベルを下げている。これはもともと士官が騎士階級以上のみから構成されていた時の名残で、共和国となって階級制度がなくなった今も当時の名残のまま士官に帯剣の義務が課されているためだ。ほぼ飾りのみで実用性はないが、鋼鉄製だし力を込めれば肉は切れる。


 その場に集まった人間が警戒感を顕わにして身を固める中、セイカーは剣先を口元に持って行って舐め始めた。


 「これはなかなか硬くて長くて美味しそうです。はぁはぁ。舐めているだけで興奮してきて、思わず……」


 そこまで言って、セイカーはサーベルの先端を大きく口を開けて飲み込むと、そのまま噛み砕いた。


 バキッ。ボキボキ。


 「食べちゃいそう」


 うっとりとした目つきで手を頬に当てて歯形に欠けた剣先を見つめ、上品な手つきでで指先でひねって千切り、飴を食べるように口に放り込んで指先をぺろりと舐めて見せると、小隊長は腰を抜かしたようでがたんと音を立てて尻餅をついた。


 ダメ押しに、わざとSFMCの歯をサメのように鋭角にとがらせ、にやりと歯を見せるように笑って舌を出し、ペコちゃんスマイルをして見せると分隊長の1人がはねるように逃げ出した。


 タ、タ、タ、タ。


 分隊長がドアに手を掛けようとしたところで、サーベルの鉄から口内で作った針を息で飛ばしてドアノブの周りに撃ち込むと、悲鳴を上げてドアから飛び退いた。


 「どうしたんですか? 懇親会は始まったばかりですよ?」

 「ひぃぃっ。ば、ばけもの」

 「ばけものはひどいです。これでも書類上はレディーなんですよ?」


 そう言ってさっきから食べ掛けのサーベルの先端を小隊長の眼前に伸ばした。


 「そうだ。小隊長も一口いかがですか? せっかくなので食べさせて差し上げます。はい、あーんしてください」


 そのままサーベルの先端で小隊長の口をこじ開けようとすると、小隊長は悲鳴を上げて窓の方に逃げて、死に物狂いで窓を開けて外に飛び出してしまった。さらに残りの分隊長たちも窓から飛び降りていく。ここは2階なのだが、日ごろの厳しい訓練を考えれば2階から飛び降りたところでせいぜいかすり傷程度だろう。


 最後の1人が飛び降りようとするところを腕をつかんで引きずり戻した。たまたま先ほど懇親会の案内をしてくれた分隊長だった。


 「どうしました? もう懇親会はおしまいですか?」

 「お、おしまいだ。そうだ、おしまいだ。だから帰っていい」

 「残念です。せっかくエルマも呼んで来ようと思っていたのに」

 「いや、いい。その必要はない」


 少し力を入れて腕を掴んでしまったので、掴んだところが赤を通り越して紫色になっていた。まあ、多分大丈夫だろう。つばでもつけておけば治る。


 「そうですか。では、ファルコン軍曹は仕事に戻ります」

 「ああ、急いで戻れ」

 「そうだ、軍曹殿。一つお願いがあります」

 「ひっ。な、なんだ?」

 「隊の顔合わせをしたいのですが、隊員たちが個別に懇親会をしているようですので、見かけたら集合するように伝えてもらえますか?」

 「わ、分かった。今すぐ行ってこよう」


 そう言うと、分隊長はセイカーの手を振りほどいてホムンクルス兵を集めるべく部屋を飛び出していった。あまりの必死さに思わず笑いが出そうになるところを奥歯で噛み殺し、半分くらいまで食べたサーベルを小隊長の執務机の上において、戸締りをしてからエルマを迎えに行った。



 どうやら先任分隊長は仕事を熱心にやってくれたらしい。エルマを回収して集合場所に着いた時には分隊員9名は全員集合していた。全員がホムンクルスだ。


 (N-9-19、全員の魔力波の識別は可能か?)

 (計11名の魔力波を検知しました)

 (では、エルマの魔導コアを経由して通信路を開け)

 (ハンドシェイク実行中……、ハンドシェイク完了。通信路、オープンしました)


 先日の調査でセイカー自身の魔導コアはエネルギー関連にしか使えないことが判明している。けれども、魔導コアはそれだけではない。エルマにもある。


 エルマの体を治したとき魔導コアにセンサーを貼り付けておいた話をしたが、その後、それをちょっとだけ改造してセイカーからの信号を受信してエルマの魔導コアに伝えられるようにしたのだ。それによって、信号の受信範囲はせいぜい30メートル程度だが、その範囲ならエルマの魔導コアを直接操作して魔法を使うことが可能になったのだ。


 そして、それは魔法だけでなく、魔力波による通信にも当てはまる。つまり、セイカーはエルマを介して分隊全員を魔力波による通信で指揮できるようになったのだ。

本作はR18要素を加えてノクターンで連載することになりました。リンクをここに貼るのは規約違反なので、同じタイトルの作品を検索してください。

また、アルファポリスの作者ページからも辿ることができます。

https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/719114197


R18版の開始に伴ってこちらの更新は停止となります。

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