第3話 風呂
『あ~それにしても汗かいたな。風呂入るぞ』
狐が勝手に体を動かす。廊下を歩いていく。おそらく風呂場に向かっているのだろう。
「お前・・・勝手に体を動かすなよ。修理の時は何もしなかった癖に」
『風呂場に案内してやってるんだよ』
・・・勝手な狐だ。
風呂は総ヒノキというやつだった。ヒノキの匂いがする。自然の優しい香り・・・これも初めての経験だ。
『そもそも風呂に浸かったことがないって、人生の半分は損してるぞ』」
そう言って、狐はまた勝手に人の体を動かす。
『入り方、知らないだろ』
「・・・そうだが、お前こそ入ったことあるのかよ」
『まあな。大人しくしとけ』
湯船に体が入る。
(・・・温かい)
体が勝手に肩までつかる。最初は痺れるような感覚であったが、だんだんとそれが心地よくなってくる。初めての感覚だった。
『お前にとって、ここでの生活は初めての事ばかりになりそうだ』
「・・・そうか」
自分だけこんな感覚を味わっていて良いのだろうか。そう考えていた時・・・
「失礼します。ウカ様、お背中御流しします」
・・・は?
『おぉ、鈴か。気が利くな』
狐がそう声を上げた次の瞬間。白い着物を着た巫女の女が風呂場へ入ってきた。
「おい、お前、何入って来てるんだよ!!」
「?? だからお背中を流しますと・・・」
「女だろ!!お前!!女が男と一緒に風呂に入るなんて・・・!!」
『ははははは』
「狐、何を笑ってるんだ。女、早く出ていけ」
「だから、背中を流しに来ただけです。何を勘違いされているんだか・・・」
『おう、よろしく頼むぞ』
「止めろ―――――――!!」
結論だけを言うと、無事、背中を流された。屋根の修理より疲れた。
『だから、初めての事ばかりだと言ったろ』
朝起きた部屋に戻って、布団に入る。今の俺の思考は自分だけのものじゃない。なのに、狐の知識の一部は使えても思考は俺のものではない・・・不公平だ。
『だったら・・・お前、聞きたいことがあったら聞いても良いんだぞ』
「は?」
『日常生活の知識は貸してやってるが、それ以外の事は分からんだろう。俺の考えとかさ。だったら、俺に尋ねてみろ』
「尋ねる・・・」
尋ねる、聞く、疑問に思う・・・それは軍人として考えてはならないこと。
『なんだ、情報収集という概念は教えられてないのか』
「そんなことは無い」
『なら聞いてみろ』
・・・今、聞きたいこと。それは
「俺以外の捕縛された連中は・・・今、どうしてるんだ」
『特にマリアだろ。お前の妹分』
「ああ」
『明日、鈴に言ってみろ。会うくらい問題ないだろ』
「それって・・・お前も知らないってことじゃないか」
『ははは。そうだな。悪い悪い・・・もう寝ろ』
瞼が自然と(それとも狐によってか)落ちてきた。
初めての経験ばかりする謎の移民船。任務は失敗だし、風呂は疲れた。しかし、マリアや仲間はひどい扱いはされていない。そう確信できた。