第2話 神々の船
食事の席に着く。狐(が正体らしい)の知識を借りるのは癪だが、和食を箸で口に運ぶ。
『お、俺の知識の使い方が分かってきたじゃないか』
「話すな。食えんだろ」
『すまんすまん。そう俺は稲荷だから狐だが、ウカ様と呼べ』
(狐で十分だろ・・・)
心の中で言い返しながら箸を口元に運ぶ。
「・・・うまい」
『そうだろ。って、お前の記憶の中の食い物は食事と呼べねぇな』
「ウカ様は如何ですか」
巫女の女が尋ねた。
『こいつが旨いと感じてんだから、旨いに決まってんだろ』
「それは、ようございました」
『そうだ。鈴、こいつにこの移民宇宙船について説明してやれ』
「『ニ‐八〇〇』についてですか?」
『ああ。自分たちが何に手を出したのか、知っておくといい』
『移民宇宙船ニ‐八〇〇』は日本を出航した最後の宇宙船です、そう最後の箱舟だったのです。ノアの箱舟の話はご存知?あの話では地球上のすべての動物が船に乗りました。
しかし、『ニ‐八〇〇』に乗ったのは人間、動物だけではありません。日本全ての、八百万の神々が乗った、まさに神々の箱舟なのです。だから神々の舟『ニ‐八〇〇』には手を出すな。そういう取り決めがされていたのですが、時代とともに忘れ去られてしまったのですね。
普通なら信じない話だ。特に、俺が育った科学的な環境では。しかし、今の状況と狐からの知識が、巫女の話が本当だと告げてくる。納得せざるを得ない。
『分かったろ。お前たちは神々の船に来ちまったのさ』
「問題は。何をしようとしていたかですが・・・」
『だめだ鈴。こいつは何も知らねぇよ。集合場所から考えて調査していくしかねぇな』
「・・・そうですか」
おもむろに巫女の女が立ち上がった。
「さて、私は学校に行ってまいります。タナカ殿、貴方の立場は捕虜になりますが、その体にはウカ様が憑依されている。ある程度の自由を保障しない訳にはいきません。体も、その気になればウカ様の自由になりますしね」
「・・・ああ」
「それと、タナカ殿『一宿一飯の恩義』をご存知ですか?」
「・・・狐の知識で今、知った」
「それは良かった。ウカ様。タナカ殿と一緒に屋根の修理をお願いしますね」
『おう、学校行ってこい』
「行ってまいります」
巫女の女は出かけて行った。よく俺一人を残して出て行ったものだ。
『俺が居るからな。よし。屋根の修理するか』
「もう勝手にしろ」
体が自由にならないなら言う事を聞くしかないだろう。
結局、屋根の修理で一日が終わってしまった。
(・・・俺、何してんだろう)
『屋根の修理だろう?』
「そういうことじゃない」
『それより・・・見てみろ』
狐に促されて後ろに振り返った。・・・世界が赤く染まっていた。
「これは・・・夕焼けか。また古典的な映像を・・・」
『だが、初めて見るだろう。お前の居たところって何もないのな』
高度に機械化された科学的移民宇宙船。それが俺の生まれた『U-120』だった。だから、こんな光景は初めてで・・・
(マリアにも見せてやりたいな)
『あぁ、捕まった捕虜の中にいるやつか・・・見せられるさ』
初めて見る夕日がやけに目に染みて・・・涙を流した。
『綺麗だろ』
「知るか」
・・・同じ口で否定している自分が馬鹿らしかった。




