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毒白

たとえばこんなありがちな夜

作者: 棠 智果

部屋があまりにも広い。

布団を敷こうが、本棚を置こうが、どう考えても広い。

この春に私の拠点となったアパートは、夜には独房と化すのだった。

テレビを置く気はなく、かと言って生き物は飼えない。音楽を聴いても部屋の空白に目が行って落ち着かない。薬を飲もうものなら全身を虫が這うような感覚に襲われて眠れず、眠りに落ちる手前で呻くことしかできない。何度も寝返りをうって、やっと眠りに就いたと思えば薬が効いているにも関わらず3時間で目が覚め、朦朧としたままもう一度枕に顔を埋めて意識を泥にしようと試みる。


こんな事をしていてはあまりにも心に悪すぎると気が付いたのは最近のことだった。片付ける気力もなくだらだらとカーテンから差す休日の陽光が街灯の青白い光になるのを待っていても、憂鬱は吹き飛ばない。

寝癖の取れない頭をキャップで誤魔化し、そろそろ季節外れになりそうなブルゾンを羽織っても尚、コンビニに出かけて時間を潰そうという気にはならない。

不意に、冷蔵庫の中のアルコールのことを思い出す。

「もういいや」の一言と共に履いたばかりの靴を脱いで玄関に上がり、最低限の社会性を保つための装備を解いて冷蔵庫を開けた。

作り溜めた常備菜がそろそろ萎びかけている。

いつ買ったか分からないコーヒーゼリーが奥の方でこちらを見ている。

空になった卵のパックが野菜室で俯いている。

「可哀想」という形容詞が似合う我が家の冷蔵庫。独り暮らしの女子大生の現実がこれかというほど目にしみる。

ええいままよ、可哀想なのは私だと言わんばかりにアルコールだけを手にして乱暴にドアを閉じた。


我が身を憐れんで乾杯。なかなかにロックな一夜だと独りで息巻いて飲み干そうとするが、炭酸350mlはなかなかに厳しい。一口で降参した。

申し訳程度と言うには申し訳ない程度に青リンゴの風味がする。やたらめったら甘いよりもこれくらいのがセンチメンタルさを増す。そんなことは余計なお世話でしかないが。

部屋からパソコンを持ち出して音楽を流す。淡々とアルコールを喉に流し込むと、頭の中心がぼんやりと輪郭を失って揺らぎ始める。

こういう日は無駄にハイになれる曲だけを流していても疲れるので、時々ゆったりとした曲を流してみたりする。基本的に洋楽しか聴かない。日本語が流れてくると、(そう理解力があるわけでもないが)頭が勝手に意味を取ろうとしてフリーズする。

だんだんと独り言が増える。気が付いたら2本目を開けているか煙草に手が伸びている。灰皿も埋まってくる。独り言が加速度的に多くなる。


ああ、こうやって人は簡単にではないにしてもダメになっていくんだろうなと天井を見る。

だから何だ、私は寝るぞと椅子から飛び降りて一目散に布団に向かう。

この時音楽は止めるが電気は消さない。もはやそこまで頭が回らない。

もっと上質な夜の明かし方があったら教えてほしいとありもしないことを願って寝る。

そして何かを思い出しかけるが、もう遅い。


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