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短編置き場

軽くて重い話

作者: ぽて



 −−ある夏のとても暑い日に僕は『僕』に出遭った。





 公園のちょうど木陰になっている場所にあったベンチの右側に僕。左側には『僕』が座った。『僕』の容姿は僕と違って幼い。だいたい小学校の低学年だった頃の背丈か。


「さいきん、ちょうしはどーよー?」

「まぁ、ぼちぼち」


 軽く『僕』が尋ねてきたので、僕も程々に軽く答えておく。


「およめさんとは、うまくいってるー?」

「子供達に、いつまで新婚気分でいるつもりなんだと言われる程度には」

「……そ、そっか」

「そう」


 しばらくミーンミンと蝉の鳴き声だけが響き渡る。


 『僕』は若干引いていた。こういう話題は、お子様にはきつかったかもしれない。でも振ってきたのはあっちだ。僕は悪くない。あと仲が良いのは良い事です。


 あちらばかり質問させるのも悪いので、僕は『僕』に聞いてみる事にした。少しばかり重いけれども。


「うちの子供達の成人を見届ける事は出来ると思う?」


 ちなみにうちの子は十七歳で双子なので、成人式は三年後だ。


「まぁ、ギリギリー」


 そうか、ギリギリなのかぁ……。


「じゃあ、孫の顔は見られるかな?」


 そう聞いた僕に、『僕』はしばし黙り込んだ。かなり意地の悪い質問だったかもしれない。ちなみにうちの子達、恋愛とは程遠い。


 少しの間まごついていたが『僕』は答えた。苦い物を口にしたような顔で。


「それはムリぽ」


 でもその分、言葉は軽かった。


「無理かぁ……」

「どう考えてもアウトです」

「アウトかぁ……」


 チラチラと『僕』を見る僕。すると『僕』はしょうがないなぁと言わんばかりに魔法の言葉を発した。


「しますかー、『悪魔の契約』ー」

「オッケー」

「そくとうとか早すぎ!」


 『僕』は自分から取引を持ちかけたくせに、僕に「せめて内容を聞いてからしょーだくしようよ!」と愚痴った。


 でも−−


「−−でもその狂気染みた執着心は嫌いじゃないです」


 ニヤリと口端を吊り上げる『僕』。


「じゃあ成立という事で」

「せーりつということでー」


 まいどありーと笑う『僕』の瞳に映る僕もニヤリと笑っていた。


「ちなみにデメリットは?」

「あ、それ今さら? 今さら聞いちゃうんだ?」

「まあ一応、聞いておかないと」


 クーリングオフは出来なさそうだし。


「デメリットは−−−−−−−−−だよ」


 何だ、その位なら安いものだ。逆に『僕』が僕に取引を持ちかけるメリットが見当たらない。


 そう問うと、


「ぼくのしあわせが『ぼく』のしあわせなのでー」


 と、返ってきた。

 これの何処が悪魔の契約なのだろう? と思いもしたが、『僕』がそうだと納得しているのだから、そう言う事にしておこう。


「んじゃ、よきじんせいをー」





 気が付いたら僕は、木陰のベンチに一人で座っていた。『僕』がいた場所にはもう何も無かった。




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