ハジメテの再会1
「今日からこのクラスで一緒に勉強をすることになった佐伯君よ。みんな、仲良くね?」
4月9日、遅咲きの桜も散り始めた頃、私立志貴ヶ丘学園高等部では始業式を終えた生徒たちが各々クラス分けの表に従って自分が1年を過ごす教室へと移動した。
南校舎3階に教室が並ぶ3年生ともなれば、コース選択の関係で教室の中にあるのは殆どが2年生の頃と変わらない顔ぶれとなっているのは当然だろう。
強いて違いを挙げれば、今年度から新たに施行された校則の関係でブレザーやベストの色が変わったことくらいである。
規定通り臙脂、紺、そして白という3色のブレザー姿は見慣れるまでは目に煩いと感じるかもしれない。
2年生の頃から理系のクラスは1本化されるので変わるのはそれくらいだろうと高を括っていた3年4組の生徒たちは担任が現れるまで前年度の終業式までと変わらない様子で談笑に興じていた。
しかし担任の広瀬瑠衣が教室の扉を開けるなり言い放った言葉に、談笑に興じていた生徒たちは教室の入口を一斉に振り返る。
振り返った先には、おおよそ教師には見えない少女めいた外見にレースやフリルで彩られた膝丈のワンピース姿で顔を覗かせた担任の姿と、見たことのない、そこそこ長身に分類されるどこか気難しそうな印象のチャコールグレーのブレザーに身を包んだ男子生徒の姿があった。
全校朝礼を兼ねた始業式では転校生など紹介されなかったし、3年生になってからの転校生というのも実に珍しい。
にこやかで朗らかな広瀬とは対照的に、その男子生徒はどういった表情をしていいのかわからないのか少しばかり不機嫌そうに見える。
正確には編入生と呼ぶべきだろうが、この際呼び名などどうでもよく、談笑に興じていた生徒たちは好奇心や興味の色を浮かべて入口に立つ男子生徒に視線を向けていた。
「ご両親が仕事の都合で海外へ行くことになったとかで、寮のあるうちの高校に来たみたいよ」
そう説明しながら教壇のところまで歩くと、広瀬は可愛らしい顔に笑顔を浮かべてそう説明する。
入口のところに立ち尽くしていた1人の見慣れない男子生徒に向かって手招きをすると、黒板の前に立たせた。
「自己紹介してくれるかしら」
教壇の上から広瀬は男子生徒に向かって笑顔を向ける。
その言葉に、男子生徒は不機嫌そうだった表情を一転させ、人の良さそうな温和な笑顔を浮かべてクラスメイトたちへと向き直った。
「佐伯十夜です。前の学校は普通科ではなくて音楽科の学校でした。1年間よろしくお願いします」
表情と朗らかな声の割には淡々とした口調で、どこか事務的に名乗りぺこりと小さく頭を下げる。
薄っぺらい訳ではないのだが、親しみやすそうな笑顔に柔らかい声と、事務的な名乗りは何となくミスマッチだ。
「じゃあ佐伯君の席は、あそこの空いてるトコね。…それから委員長は…」
自己紹介を終えた十夜に最後列の1つ空いている席を示し、移動するのを確認すると広瀬は改めて教室を見渡した。
「広瀬先生、進級した直後、当然クラス委員などまだ決まってはいないのだが?」
控えめな挙手と共に、冷やかにも聞こえる調子で発言をしたのは銀縁眼鏡に紺のブレザー姿の、見るからにクールな優等生を絵に描いたような少年だ。
知的かつ神経質そうな表情と落ち着き払った声、僅かに顰められた眉は冷たそうな印象を与えるのだが、不思議と嫌味っぽさや不快感はない。
むしろ絵に描いたようなクールな委員長という雰囲気は、その少年にとてもよく似合っていて、魅力と評するほうが適切に感じられる。
「あら、日下くん。そうよねぇ。もう、せっかくだから今決めてしまいましょうか」
生徒の言葉に、広瀬は困ったように笑うと、あっさりとそう言うとポンと手を打った。
「そういうワケだから…そうね、テスト開始までの30分後までに決めておいてちょうだい。先生、その頃に戻ってくるわ」
そしてそう言い置くと可愛らしい笑顔を残して広瀬はさっさと教室を後にする。
教室を出る際、ひらひらと手を振って生徒たちに笑顔だけを残して行ったが、見た目が可愛らしいから似合うと言えなくもないが、担任教師の態度としては少し不適切かもしれない。
そんな担任の様子に面食らっている様子を見せたのは転校生の十夜だけで、他の生徒は呆れ半分諦め半分といった表情を浮かべていた。
この顔ぶれでの生活が初日の十夜と違い、このクラスは全員が2年生の頃からのクラスメイトであり、3年生ともなれば教師の性格や扱い方もそれなりに把握して当然というものだろう。
つまり、あの行動が担任である広瀬の通常運転ということだ。
「それじゃ広瀬台風が戻ってくる前にとっとと決めようぜ?どうする?くじ引きか?」
面白がるような様子を隠そうともせず、1人の男子生徒が立ち上がる。
臙脂色のブレザーに身を包んだ彼は、精悍な顔立ちに子供っぽい笑顔を乗せた人懐っこそうな印象の生徒だった。
彼の言葉が合図になったのか、教室内が俄かにざわつき始める。
最初は、席の近い生徒同士の、誰が委員長になるんだろうというような小さな囁き声だったのだが、自然と広がって教室中のいたるところで言葉が交わされ始めた。
3年生ともなれば受験を控え、わざわざクラスの委員などに立候補したい人間も少ないだろう。
押し付け合うでもなく、けれど積極的に請け負おうという生徒もいない状況では、話し合いの形にすらならず次第にただの談笑へと変化していった。
その中に混ざることも出来ず、ただ様子を眺めていた十夜の感想はくだらないの一言。
柔和に見える表情を張り付けたまま、これから1年を過ごすことになるクラスを観察していた十夜だが、考えていることは表情とは裏腹に呆れや軽蔑が滲んでいる。
地域有数のエリート進学校の名を冠していても、所詮は子供の集まりか。
これが、十夜がこのクラスに抱いた第一印象だった。
近くの生徒同士で言葉を交わすだけではなく、ついには席を立つ生徒も現れ、委員長を決めるはずの会話は仲の良い人間同士の気の置けない会話へと変化していく。
はっきり言ってこれでは小学生と変わらないのではないか、というのが十夜の感想だ。
特に、最初に決めようと言いだした活発そうな少年を中心とした数人に視線を向けた時、十夜は真剣にこの学園へ編入したことをさっそく後悔した。
決めようと言い出した当の本人である彼が、自ら席を立って他の生徒の席まで移動して行くのが見えたのだ。
その途中に彼と同じ臙脂色のブレザー姿の男子生徒の肩を叩き席を立たせ、最初にクラス委員など決まっていないと発言をした紺色のブレザーの男子生徒を引き摺るようにして2人を連れて行ったのにも呆れたが、それ以上に呆れたのは彼らが向かった窓際2列目の席で白いブレザーを身に纏う少年が机に突っ伏していたところだった。
広瀬が委員長を決めるようにと早めに切り上げて出て行ったが、戻ってくればいきなりの学力テストだと聞いている。
それなのに勉強するでもなく、委員長を決めるでもなく、堂々と寝ているというのはどういう了見なのか。
委員長を決めることにも、実力テストにも、無関係だという主張なのであれば、クラスの一員としてだいぶ問題である。
そこであまりの幼稚さに眉間の奥に微かな痛みを錯覚した十夜は小さく頭を振って思考を切り替えた。
勿論一種の現実逃避なのだが、このまま小学生レベルの談笑を観察していても、精神力を浪費させるだけで何の意味もないので、少しでも建設的な内容を考えようと思ったのだ。
今更のように、何故この学園のブレザーは4色もあるのかと首を捻る。
十夜自身が身に纏うチャコールグレーのブレザーに、臙脂色、紺色、そして白色の4色だ。
別に男女の差でもなければ選択科目の差でもなさそうで、均等に分かれているわけでもない。
教室内を見渡せばチャコールグレーは十夜ただ1人だし、白も堂々と寝ようとしていた生徒だけだ。
一体何の差なのか、別に知らなくとも日常生活に支障があるようにも思えないが、十夜は興味も沸かないが、他に時間を潰せる脳内の使用方法がないので仕方なく考えた。
そうやって無為な時間をやり過ごすうちにすぐに10分が経過する。
どうせこのまま担任が戻ってくるまで決まらないんだろうな、と十夜は冷めた気持ちで教室を眺めていた。
まるで小学生の学級会のレベルだと馬鹿にしながら、彼らは戻ってきた担任にどんな小言を貰うのだろうかと意地悪く考える。
「なぁ、もうクジでイイと思わねー?」
最初に提案した男子生徒の声が教室に響く。
ハリのある声は真っ直ぐで、窓もドアも閉まった教室ではとてもよく通った。
「部活動や委員会の関係で出来ない人間が当たったらどうする気だ」
そんな彼を横から小突いて冷静な意見を述べたのは、彼と同じ臙脂色のブレザー姿の男子生徒だ。
艶のあるどこか甘く低い声は、喧騒の中からでも思わず拾ってしまうような芯の強さがあり、聴くつもりはなくとも教室中に広がる。
「だって早く決めないと広瀬台風戻ってくるだろ?」
「クジで決めて出来ない生徒が当選した場合、余計時間かかるだろうが」
喧々囂々とまではいかないが、仲の良い間柄だろう彼らは仲良く言い争いを始めていた。
なまじどちらもよく通る声だけあって、何時しか教室からは談笑が消え、生徒たちは彼らの言動に注目しているようだ。
「おい、赤也も拓海も、落ち着け。どっちの意見も一理ある」
その間に入って仲裁役のようになっているのは連れだって歩いて行った紺色のブレザーに眼鏡の彼だ。
冷たく硬質な声は、言い争いをエキサイトさせ始めた2人を黙らせるだけの威力があったらしく、言い合っていた2人は同時に口を噤んで発言者に視線を向けた。
ほぼ自分の頭上でそんなやりとりをされているのに、白いブレザー姿の少年は我関せずといった様子で机の上に頬杖をついている。
流石に突っ伏して寝ていないだけマシとも言えるが、どこまでも無関係を貫いているように見えて、成行きを眺めていた十夜はますます呆れるしかない。
「もう、こうなったらこのクラスの最終兵器投入しかないな」
問答の末、明るい声で宣言するなり、臙脂色のブレザーの少年は完全に我関せずを決め込んでいた白いブレザーの少年の腕を取った。
腕を引かれるのに合わせて、少年はゆっくりと身体の向きを変え教室の中央の方へと向き直る。
何となしにそちらへ視線を向けていた十夜の目に、軽く振り向いた少年の姿が映った。
ブレザーの白の負けないのではないかと思うくらい色素の薄い肌に、長めの真っ直ぐな髪、それに私服だったら一瞬性別を迷ったかもしれない少女めいた整った容貌をしている。
眼鏡の奥から覗く黒目がちの大きな瞳を、ぱちりと瞬かせると困惑の表情を浮かべ、その少年は腕を引いた生徒を見上げている。
一言で言い表すなら深窓の令嬢をそのまま少年に変えただけという、男子高校生には本来似つかわしくない儚げなという形容詞がとてもよく似合う。
堂々と机に突っ伏して寝ようとしていたくらいなので、もう少し違ったイメージを勝手に抱いていた十夜は視線の先ので困惑の表情を浮かべている大人しげな少年に僅かな違和感を覚えていた。
「なんか、イイ方法ない?」
あまりにも収拾がつかなくなった教室内を見渡し、臙脂色のブレザーの少年はわざとらしく肩を竦めて見せるとニカっと笑ってそう問いかける。
「…クラスの構成は変わってないんだから、2年の時と同じでイイんじゃないの?」
困惑の表情のまま、そう紡がれた声は涼やかで別に大きな声を出したわけでもないのに教室内に浸透た。
その言葉にクラス中が声の主を振り仰いだが、視線が集中したことに気付いていないのか動じた様子はなく、正面に立つ臙脂色のブレザーに向けてではなく近くにいた紺色のブレザーの方に視線を向けると、軽く首を傾げている。
十夜の位置からは声は聞こえないが、恐らくダメなのかとでも問いかけたのだろう。
「その手があったかっ!」
大きな声を上げて手を打ったのは、最初からずっと明るい臙脂色のブレザーの少年だ。
少年らしい活き活きとした表情に適度に日に焼けた健康的な肌、それに緩められたネクタイは快活そうなその少年の魅力を底上げしているように見えた。
ブレザーの袖やボタンを止めずに緩められた首元から覗く僅かな部分だけで無駄なく鍛えられているのがわかる。
髪は本気で運動をするのには少し邪魔かもしれないという微妙な長さだ。
改めて観察してみるとしっかりした体格とそこそこの高身長に、子供っぽいがかっこいいという表現が似合う顔立ちで、恐らく女子生徒には一定以上のファンがいてもおかしくないと思われる外見をしていた。
「赤也の言う、くじ引きよりはよっぽど理に適ってるよな」
その横でもう1人の臙脂色のブレザーが大きく頷くと、まともな提案をした白のブレザーの少年の頭を軽く撫でるようにして髪を梳いている。
まるで子供か彼女にするようなその仕草に、手を払われて苦笑するその少年ももう1人の臙脂色に負けないくらい鍛えられた身体つきをしていて、こちらは大人っぽい甘いマスクというべきか同じように女子生徒が放っておかないだろう外見をしていた。
種類で言えば、下級生から素敵な先輩と絶大な支持を集めそうな外見をしていると言えばいいだろうか。
「赤也も拓海も初めから瑞貴に丸投げする気だったように見えるがな…」
呆れたように肩を竦めたのは、幾度となく臙脂色2人の仲裁をやっていた紺色の彼だ。
切れ長の目の一見気位の高そうな印象を与える外見の彼は、見るからに委員長といった外見をしている。
秀才肌というか学者肌というかそういう人種特有の潔癖性が現れていて、当然浮かべている表情も人当りの良い笑顔とは程遠いが、やはり最初の印象通り嫌味さは感じさせない。
観察をしていた十夜の感想からすれば、委員長風の眼鏡の少年が1番関わる相手を選ぶタイプに見え、まだ気が合いそうだと思われるタイプだった。
「異論ないなら、祐一が委員長やってよ。慣れてるだろうし」
座ったままなので見上げるような姿勢で去年同様でと提案した本人がダメ押しとばかりに言葉を重ねる。
「よかろう。請け負おう」
見るからに委員長の外見をした彼は大きく頷いて、引き受ける旨を了承して見せた。
クラスの注目が集まっていたせいか、軽い拍手が起こる。
そこまでの流れをただ観察していた十夜は、とりあえず表面だけでも健全な学園生活を送るべく簡単に情報を整理した。
最初の煩い、いや明るいムードメーカーの臙脂色は赤也という名前らしい。
それから同じ臙脂色の女子にモテそうなのが拓海で、白の大人しそうなヤツが瑞貴、紺色の委員長が祐一。
苗字でなく名前で呼び合っているところから察すれば、恐らく彼ら4人は仲が良いのだろう。
最終的にはクラス全員を記憶しなければならないが、最低限クラス委員長とその周辺さえ記憶してしまえば学校生活に支障はないと、十夜は図らずも初日の目的をこれで達成してしまったことに内心で小さく笑みを浮かべた。
「女子、副委員長さ、のばらちゃんでOK?」
くるりと女子の集団を振り向いて、赤也が言葉を投げる。
一応疑問の形は取っているが、それでいいだろう、というようなあたかも決定事項を話しているように聞こえるから不思議だ。
「あ、うん。誰も言わなかったら私がやるつもりだったから」
言葉を向けられたのは、長い髪の真面目そうな印象の女子生徒だった。
可愛いと言うよりは美人という形容の似合う大人びた雰囲気の少女で、紺色のブレザーを纏っている。
彼女の特徴と言えば、真面目そうな表情と、長い髪と留める大きなカチューシャだろうか。
校則違反ではないのかと疑問に思うほど、鮮やかな青い色のカチューシャは今日かぎりの物でなければ彼女を見分けるのに役立つだろう。
十夜は頭の中で女子の副委員長の名前はのばらと追加で記憶した。
女子生徒を苗字でなく名前で記憶するのは微妙な心境ではあるが、少しでも早くクラスの主要人物の名前は覚えてしまいたいところなので仕方がない。
記憶力には自信があったので、十夜はこの調子ならばすぐにクラス中を覚えて当たり障りのない情報を付加できるという手ごたえを感じていた。
「じゃあ委員長と副委員長、決定だな。みんな、拍手」
言葉と共に手を打ち鳴らしたのは拓海で、その言葉につられるように委員長副委員長に決定した一対の男女以外の生徒がパチパチと手を叩く。
申し訳程度に手を叩くフリをしながら十夜は再びこのクラスは小学生の集まりと大差ないな、という感想を抱いていた。
しかし時計に目を向ければ話し合いのために時間を設けられてから15分を僅かに過ぎたところで、結果論としては時間内に決定したことに十夜は僅かばかりの驚きを覚える。
始めの予想では担任が戻ってくるまでに収拾がつくと思っていなかったからだ。
そんな風に十夜が考えていると、教室の扉がガラリと開いた。
「みんな、委員長は決まったわよね?そろそろテストの準備するわよ~」
かさ高いプリントの山を抱えて顔を覗かせたのは担任の広瀬である。
彼女はプリント類を教壇の上にドサっと置くと、のんびりとした様子でクラスを見渡した。
クラス委員は当然決まっているものと決めてかかっているのは、彼女の性格なのかクラスの統率を信頼しているからなのかは十夜には判断出来ないが、決まっていないとは微塵も思っていないようだ。
広瀬が教室に姿を見せたことで、それまで思い思いに席を立って友人たちと談笑していた生徒たちが次々に自分の席へと戻っていく。
「委員長は俺で、副委員長は桐原女史に」
席に戻りながら祐一は必要最低限の決定事項を広瀬に伝えた。
「あら、去年と同じなのね」
その内容に広瀬は訳知り顔で笑みを浮かべると手振りで早く席に着くように示す。
「全員自分の席に戻ったわね?机には筆記用具以外置かないこと」
テスト前のお決まりの台詞を告げ、彼女は黒板を振り返るとチョークを手に取った。
ふわふわの服が似合う彼女はお世辞にも背が高いとは言えない小柄な身長で、本来ならば黒板の上部には届かないだろうというくらいなのだが、足元にはそれで歩けるのかと疑問に思ってしまうほど踵や底に厚みがあるストラップシューズを履いている。
それで身長に補正がかかっているせいか、全長で見れば充分黒板の上部にも手が届く高さになっているようで、彼女は黒板の中央に学力テストと大きく書いた。
その下には10時30分から12時、括弧を付けて数学、英語、国語と続ける。
「3年生のみんなはもう慣れてるでしょうけど、いつも通り3教科よ。まとめて配るから全部で90分あるけど時間配分には気を付けてね」
語尾にハートマークや音符でも付きそうな朗らかな口調で広瀬はテストの概要を説明した。
時刻を確認すれば開始までにまだ10分もある。
それでも十夜が小学生並と称した生徒たちは一切の私語を止め、大人しく筆記用具だけを机に並べていた。
十夜自身もその流れに逆らうことをせず、鞄から筆記用具を取り出すと机の上に置き、準備を整える。
テスト開始の5分前になると、広瀬が問題を裏返したままプリントを配り始めた。
「時間が来るまで表向けちゃ駄目よ~」
朗らかな声が教室に注意を促す。
問題用紙は3枚、解答用紙は大きな1枚という変則的なテストだ。
時計の長針が文字盤の6を指すのと同時に、静まり返った教室にチャイムの音が響く。
「それじゃ、始めてちょうだい」
緊張感の欠片もない声で広瀬が宣言するのと同時に生徒たちが一斉にプリントをひっくり返す。
新学年始まって初日の、学力テスト。
編入のための試験の難易度からさほど難しいとは思っていなかった十夜は他の生徒たちと比べて余裕の様子で問題用紙をひっくり返した。
最も得意とする数学を後回しにし、とりあえず国語から解こうと暢気に問題を読み始めた十夜だったが、問題文を読み進めていくうちに真剣な様子へと表情が引き締まる。
ただの簡単な学力テストだろうと甘く見ていたが、流石というか当然というか有名進学校の名は伊達ではないと思わせる手応え以上の難易度の問題が並んでいた。
現国は気を抜いたままでは解けないような読解問題ばかりで、加点のためのサービス問題である漢字や読みを書かせるような問題は一切なく、今まで読んだこともないような物語から登場人物の心情を慮ってみたり関係する文章を抜粋したりという問題がひたすら続く。
古典はといえば現代語訳させる問題や一部分を抜粋しただけで物語の名称と作者名を選び出すような問題と総合的な知識を求める問題で、あまり得意とは言えない十夜は記憶を総動員しながらなんとか解答を導き出すという苦戦を強いられた。
続いて取り掛かった英語はといえば、恐らく何かの物語の原書をそのまま転載したであろう文章が並んでいて、習っていないはずの単語の意味だけはサービスなのか別欄に記載されている。
日本語訳を求めるだけの単純な問題ではなく、一文を現在形から過去完了形に書き換えるように指定された問題や、長文を要約した内容に最も適した文章を選べなど出題者の性格の悪さが伺える問題が並んでいた。
これはもう高校の学力テストと言うよりは模試や検定試験のような内容だと問題を追いながら十夜は呻く。
国語と英語を解き終え、数学に取り掛かろうと時計を見れば既に60分が経過している。
得意ではない教科を先に選んだとはいえ、時間配分ちょうどであることに十夜自身驚いていた。
自身の学力にそれなりの自負がある十夜は、こんな問題では生徒たちは当然苦戦しているだろうと他の生徒の様子を伺うようにこっそりと視線を巡らせば、暢気にシャープペンシルを手先でくるくると弄びながら今にも鼻歌でも歌い出しそうな様子の赤也の姿が目に入る。
あまり考えている素振りもなく一定のリズムで答えを書いているような赤也の様子に、テストの内容が余裕というよりは適当に埋めているのではないかと勘繰ってしまう。
他はどうだろうとこっそり視線を巡らせば難しい表情で問題を熟読している様子の祐一の姿が見え、彼は真面目に問題を解いているんだなと納得と同時に安心する。
その後ろの席では拓海が淡々とした様子でリズム良く解答を書いているのが見えた。
あまり苦戦しているようにも見えないので、もしかすると彼らの春休みの宿題に関わる問題なのかもしれないと勝手に考えもしたが、他に視界に映った生徒は頭を抱えていたり真剣に首を捻っていたりするのでそうとも言い切れない。
しかしこの難易度の問題で投げ出さず真剣に向き合うのはさすが名高い進学校だな、という感想を抱きかけた十夜は視界の隅に映った人物に即座に前言撤回を強いられた。
窓際の席で机に突っ伏し暢気に寝ている生徒を見つけたからだ。
こんな短時間で全問解けるわけもなく、解くのを放棄したとしか思えない様子で寝ている後ろ姿に十夜は真剣に呆れていた。
クラスで唯一白いブレザー姿というだけでなく初っ端から堂々と寝ようとしていたという不真面目さが十夜の記憶にはしっかりと残っている。
どこの学校にもそういう生徒はいるものだ、と心中でため息を零した十夜はそこでようやく視線を机の上の問題用紙に戻す。
残りは1番得意な数学なのでそんなに手こずらないだろうと問題を解き始める。
図形の証明はどこの大学入試問題だと頬が引き攣ったが、それ以外は関数や連立方程式、微分積分などの計算が多かったが、他の教科よりは簡単だと感じるのは恐らく解が1つしか存在しないという安心感からだろう。
止まることなく淀みなく解答を書き終え、十夜がシャープペンシルを置いた時、テストの時間は残り5分だった。
思いのほか手こずったという感想を抱いた十夜は、面白いさすが進学校と挑戦的な気持ちでテストを終える。
チャイムと同時に解答は前に送られる形で回収された。
「はい、全員提出したわね?それじゃ終わりのHR始めるわよ~」
生徒たちから解答用紙を回収し終わった広瀬がパンと手を叩く。
新学年新学期初日は始業式と学力テストで全日程終了だ。
「明日は時間割配ったり教科書配ったり色々あるから、みんなちゃんと学校には来てちょうだいね?」
片目を閉じて可愛らしくウィンクをすると広瀬はそう告げる。
「それと、最後になって悪いけど佐伯くん、わからないコトがあれば委員長の日下くんに聞いてちょうだい。日下くん、よろしく頼むわよ」
注意事項などを一通り話し終えた広瀬は、締め括りとばかりにそう言って教室内を見渡した。
「特になければ今日はココまで。じゃ、後は好きに帰っていいわよ~」
広瀬のその言葉に、クラス委員長に起立と声をかける。
全員が立ち上がると、礼という号令がかかった。
それに満足そうな笑みを浮かべると広瀬は回収した答案用紙を手にさっさと教室を出て行ってしまう。
気の早い生徒は既に帰り支度を終えていたのか、鞄を手に教室を後にする姿がいくつかあった。
教室を出ていく生徒たちに混ざって席を立った祐一が、広瀬の言葉を実行するためか十夜の席に近づいてきた。
「佐伯くん、クラス委員長を拝命した日下祐一だ、よろしく」
辛うじて笑顔の部類に含んでもいいだろうというような表情で、祐一は十夜に話しかけると握手を求めるように片手を差し出した。
「よろしく」
初対面なのに鬱陶しいと感じた十夜ではあるが流石に初日から、それもクラス委員を相手に波風を立てるわけにもいかず、表情を変えずにそう応じて軽く手を握る。
「早速だが、校内の案内は必要か?それとも必要に応じてその都度教えた方がいいか?」
どこか冷めたような目をしてそう言う祐一はクールな委員長のテンプレのようだった。
怜悧な声といい、細い銀縁の眼鏡といい、絵に描いたような委員長ぶりに十夜は内心小さく苦笑する。
話の流れで去年から委員長をしていたというのは理解していたが、確かに適任なキャラだろうなというのが正直な感想だ。
過剰なほど構ってくる人懐っこい種類の委員長とは違って、どこか突き放すような彼の物言いや雰囲気は十夜にとって心地よく感じられた。
「一気に聞いても不要な物もあるだろうし、都度聞くことにさせてもらっていいかな。君のことは日下君て呼べばいいかい?」
微かな笑みを浮かべ、十夜は言葉を返す。
2年生まで通っていた学校では、十夜は常に周囲を魅了する存在として君臨してきたという自覚があるので、当然相手に良い印象を与える笑顔を作るなど造作もない。
心の内でどう考えていようとも、それを欠片も匂わさずにイイ人を演じるのは十夜の得意とする処世術の1つだ。
「それで構わん。何かあったら遠慮なく聞いてくれ」
十夜の人の良さそうな笑顔に何かを感じた様子もなく、祐一はあっさりとそう言って手を解く。
「お、委員長、早速転入生と仲良し?楽しそうじゃん」
そこへやってきたのは赤也で、背後から祐一に肩を組むように近づいたかと思えば楽しそうな口調でそう言った。
「オレ、新田赤也。よろしく。…えっと?」
最初の紹介を聞いていなかったのか、自己紹介をして明るく笑顔を向けた赤也だったが途中で困ったように表情を変えて首を傾げる。
「佐伯。佐伯十夜。よろしく、新田君」
祐一に向けた笑顔のまま、十夜は改めてそう言ってやった。
内心では名前くらい1度聞けば覚えろよと思ってはいたが、そんな様子は億尾にも出さない。
「よろしく、十夜。オレのコトは赤也って名前で呼んでくれてイイから」
挨拶を交わしただけで友人にでもなったつもりなのか、赤也はニカっと笑ってそう言った。
「佐伯、これがクラス1の問題児だ。関わらない方がよかろう」
祐一はふっと小馬鹿にするような笑みを浮かべると、肩に回された手を払いのけてそう笑う。
「おい、オレのドコが問題児なんだよ、明るく元気なムードメーカーくらい言えよ」
本当に仲が良いのだろう、赤也は祐一の酷評を気にした様子もなく軽く不満そうな様子を浮かべて友人を小突いている。
「いや、お前は間違いなくトラブルメーカーの方だろ?」
何時の間に近くへやってきていたのか、そう言って苦笑したのは拓海だった。
「佐伯、俺は黒島拓海だ。大抵委員長とつるんでいるうちの一人だから、よろしくな」
間接的に関わる可能性が高いだろうと言外に匂わせ、拓海は十夜に向き直ると形式通り自己紹介をする。
初心な女子生徒なら頬を染めてしまいかねない笑顔を浮かべてはいるが、生憎それを向けられたのは十夜で、十夜はその程度の笑顔に心が揺れることなどない人種だった。
「…拓海もたいがいトラブルメーカーではないか?赤也とセットでな」
呆れるような声でそう告げたのは祐一である。
十夜から見れば、赤也1人が暴走しがちに見えるキャラクターなのだが、祐一の感想からすればどうやら赤也と拓海はセットでより賑やかになる組み合わせなのだろう。
そういえばクラス委員を決める際も、2人が仲良く言い争った末に祐一が仲裁していたのを思い出す。
彼らの仲睦まじい会話を微笑みの仮面で聞き流しながら、十夜は基本的に関わるのはこの3人になるのかと冷静に考えていた。
「3人は、仲がいいのかい?」
確認の意味を込めて、十夜はそう問いかける。
関わる可能性のある主要人物を確認しておく作業であると同時に、彼らにも自分と関わっていく可能性をしっかりと理解してもらおうという意図もあった。
「おう。仲良しだぞ?っと、正確にはちょっと違うな」
満面の笑顔で頷いたのは赤也だが、彼はすぐに何かに思い当たったらしくいきなり踵を返して別の生徒の方へと歩いて行く。
何なんだと赤也の行動を眺めてみれば、彼は鞄を手に帰ろうとしていた生徒の手を無理やり引っ張って戻ってくる。
連れてこられたのはこの教室に足を踏み入れてから今までの間に十夜を何度も呆れさせていた人物、瑞貴だった。
背の高い方に分類される赤也と並べば、小柄で華奢な瑞貴は服装さえ見なければ女子生徒だと言われても納得してしまうくらいで小動物的な印象を受ける。
「コイツも含めて4人で一緒に何かやってるコトが多いんだ」
赤也は強引に連れて来た瑞貴を指して、そう説明した。
「…何の話?」
いきなり連れてこられた瑞貴は会話の流れが分かっていないようで、訝しむような視線を赤也に向ける。
「委員長と愉快な仲間たちの紹介だ」
その疑問に軽い笑みで応じたのは赤也ではなく拓海の方だ。
拓海の言葉に、瑞貴はますます訳が分からないといった表情を浮かべている。
「十夜、コイツがうちのクラスの眠り姫」
面白がる様子を隠しもせず、赤也は笑顔で勝手にそう説明した。
十夜はせめて名前くらい言えよと思いながらも瑞貴を眺め、見た目の印象と実際に堂々と寝ていた様子から赤也の評した呼称に妙な納得を覚えてしまう。
「…その妙な表現止めて欲しいんだけど」
瑞貴は睨むような目を赤也に向けるが、赤也が変わらず笑顔のままなので結局諦めたように小さくため息を零した。
「これがクラスの猛獣使い兼最終兵器の忍足瑞貴だ。佐伯、赤也と拓海が手に負えないと感じたら、即座に瑞貴を呼ぶことを勧めておこう」
そのやり取りに小さく笑みを浮かべた後、祐一が名乗りもしない本人に代わってそう紹介する。
再び出て来た妙な表現に瑞貴は祐一にも睨むような視線を向けたが、そこでようやく何かに気付いたのか小さく声を上げて苦笑した。
「ごめん、名乗ってなかったね。忍足瑞貴です。よろしく、佐伯くん」
名乗ってないことすら失念していたらしい小動物は、女性よりは男性を魅了しそうな微笑みを十夜に向ける。
自然に浮かんだ控えめ笑顔と眼鏡の奥で見上げてくる瞳を見て、十夜はあまり自己主張をしない性格の人見知りなのだろうと勝手に分析した。
そもそも名乗らない本人に代わって友人が紹介していた点から考えても、大人しい小動物という見たままの印象で問題ないように思える。
「よろしく」
小動物の相手は苦手だと思いながらも、十夜はなるべく人当たりの良い笑顔を心がけて挨拶を返した。
クラスでは基本的にこの4人を相手すれば事足りるはずだと頭の中のメモに記録する。
「佐伯、他は別に構わないけど瑞貴だけは苗字でなく名前で呼んでやってくれ。諸般の事情で、苗字で呼んでも反応しないことが多いからな」
この中では一応まとめ役というポジションなのだろう拓海が補足とばかりにそう付け加えた。
諸般の事情はどうでもいいが、ますます面倒くさいと思いながらも十夜は了解と頷いて見せる。
「えっと今日までは4人だったから、カルト…なんだっけ?」
心底楽しそうな赤也の声が、何かを言おうとして不意に途切れた。
「…カルテットだろ?」
言いたいことをあっさり理解したらしい拓海が横からその言葉を補う。
「そう、ソレな。で、今日から十夜も入れて5人組だから…なんて言うんだ?」
拓海のアシストを受けた赤也は再び楽しそうな口調で続けようとしたものの、続く言葉が見つからなかったようで首を傾げる。
「…Quintet」
チラリと視線を向けた瑞貴が驚くほど綺麗な発音でため息交じりに赤也の求める単語を口にした。
言葉を知らないのならわざわざ口にしなければいいのにとでも思ったのだろうが、それを言う代わりに答えを言ったというところだろう。
「クインテットって言うのか。よくわかんねーけど、ソレな。仲良くやろーぜ?」
初めて聞く単語だったのか、赤也は納得しながらそう言うと真っ直ぐに十夜を見て笑顔を浮かべる。
「それじゃ、お言葉に甘えて」
笑顔を張り付けたまま十夜はそう言ってみせた。
実際には慣れ合う気などさらさらないのだが、慣れない学校の上有数の進学校ともなれば足の引っ張り合いも多いだろうと考えた十夜は、取りあえず敵意を持たれずに表面だけでも溶け込むことを選んだ。
生活の主軸は放課後の音楽だが、学業だって決して疎かにしていいものだとは考えていない。
円滑な学園生活を送り、自身の音楽の幅を広げるためにも十夜はクラス委員長を含めたこの集団と行動を共にしようと決める。
必然的に目立ちかねないが、前の学校では常に1人で衆目を集めていたのだから人数が分散されるだけ楽だろうと軽い気持ちで納得した。
「では、佐伯が特に案内を必要としないならあまり邪魔をしても悪い。俺たちは早々に引き上げるとしよう」
祐一は委員長という立場があるのか一応十夜の意見を聞く体裁は取っているが、初対面という線引きは忘れていないようだ。
あくまでも知り合ったばかりの顔見知りというのか正しい間柄で、最初からいきなり友人感覚で話す赤也と違い十夜のとって有難い距離感を保ってくれていた。
「除け者にすんなよ。どうせなら、一緒にやればいいじゃん、テストの答え合わせ」
せっかく辞去の挨拶をしてさっさと帰路につこうと思った十夜だったのだが、赤也が有難迷惑な発言をしてくれる。
本気で仲間はずれは良くないと思っているのが丸わかりのため、下手に辞去を言い出しづらいのが実に腹立たしいところだ。
「普通の人は会った初日からいきなり友好を温めようなんてしないだろ。それに都合も聞くべきだ」
下手に言葉を挟めなくなった十夜に変わって、拓海がまさにその通りだという内容を代弁してくれる。
十夜本人としては、むしろさっさと帰って少しでも早く楽器を手に取りたいというのが正直な気持ちなのだ。
「そうやって最初から打ち解けようとしなきゃ、いつまで経っても転校生のままで可哀相だろ」
言い返す赤也の言葉も、一般的には正論である。
十夜のように表面だけ打ち解けて当たり障りのない学園生活を送りながら音楽に生きたいというような変わり種でなく、本当に右も左もわからない転校生であれば感激したかもしれない。
再びこの2人で妙な舌戦が始まったらどうしようかと十夜は面倒くさくなりそうな雲行きを見守った。
下手に口をはさめば火に油を注ぐことになり兼ねないと理解しているので、早く帰りたいからこそ帰りたいと言えない矛盾に苛つく。
そんな十夜を見兼ねたというワケではないだろうが、瑞貴が意見をぶつけ合う赤也と拓海の制服の裾を軽く引いて注意を引いて彼らの言葉を遮った。
「…佐伯くん、無視して帰っちゃって大丈夫だから。答え合わせに参加するなら、たぶん中庭だと思うから用事がないなら覗いてあげて」
収拾がつかないと判断したらしく、瑞貴は双方の意見の真ん中を取って十夜自身が望む通りに動きやすい選択肢を提示してくれる。
「それじゃ悪いけど今日は帰らせて貰うよ。まだ寮の荷物が片付いてないんだ」
渡りに船とはまさにこのことで、他の誰かが口をはさむ前に十夜はさっさと帰ると口にした。
偶然だろうが小動物の援護射撃に僅かに感謝する。
「それじゃ、また明日」
言うだけ言って、十夜は荷物を手に軽い会釈を残して歩き出す。
「おう、またな!」
結局、散々引き留めようとした割に赤也はあっさりと手を振った。
それに笑顔だけ向けると十夜はさっさと教室を後にする。
初日の掴みとしては決して悪くないハズだが、実に面倒そうな集団だと考えながら廊下を歩き階段を下りた。
そのまま僅かに後ろ髪引かれることすらなく、十夜は真っ直ぐに寮へと続く帰り道を辿っていく。
帰り道の途中、追い抜いていった生徒たちの中には何故か十夜と同じチャコールグレーのブレザー姿の生徒は1人もおらず、そればかりか瑞貴と同じ白のブレザー姿の生徒も見かけないことに少しばかり首を傾げる。
十夜は翌日までその疑問を覚えていることが出来たらあの騒がしい集団にでも聞いてみようとどうでも良さげに考えながら歩き、結局寮に辿り着く頃にはその疑問は完全に頭から離れていった。




