page4
二日目
昨日は結局いろいろなことに追われ中ボス戦以降は街の外には出られなかった。
ノリノリとボンボンはギルドの設立とギルドホームとその内装の購入。
春は攻略サイトの創設および更新。
僕は四人分の装備の点検と足りない部分の生産。
ギルド名は『風林火山』に決まった。まあ変なのにならなくて幸いだ。
ギルドメンバーは僕ら四人に加えてリアル友達のハーダイ、モリモリ、ケリー、パッド。それに佐助さん。
佐助さんは以前説明したなちなみにlv23
ハーダイは石田大輝と言って名前こそ日本人たが見た目は西洋系というアンバランスなやつで国家級兵器。種族はヒューマン、職業は剣士lv18
モリモリは森田林子と言って名前からしてそうだがかなりの天然ちゃん。種族はエルフで職業はヒーラー。lv14
ケリーは…あのですね。説明が大変なので飛ばしたい。簡単に言えばハーダイと同じ国家級兵器。種族はヒューマン、職業は武闘家。lv17
パッドは片野拓務といい学校一の天才。手先が器用なのでいろいろな発明品を作ってくれる。種族はドワーフで完全に研究職だ。lv10
そんな愉快なメンバーだ。
ちなみにギルマスはノリノリサブマスが僕。
僕ら四人のレベルは昨日の中ボス戦で跳ね上がり、みんな仲良く30。
まあそりゃ二三十人で挑むはずの中ボス戦に四人で挑めば跳ね上がるか。
んで今日から新年度が始まり、今日は入学式。ゲームしたいのは山々だが、とりあえず学校には行かないといけない。
良かった点はみんな同じ学校であることか。
さっさと朝食を済ませ、制服に着替えそして自分の部屋に備え付けてある金庫の1段目の読み取り機にコードキーをかざす。
中に入れてあるのは拳銃二丁と弾それに麻痺警棒。
二つとも取り出し、麻痺銃はレッグホルスターに実弾銃は懐に麻痺警棒は縮めて筆箱に入れて隠す。
第三次世界大戦の影響で日本にも自分の身は自分で守るという考えが定着して今の日本では満10歳以上の国民は非実弾銃を満15歳以上の国民は麻痺銃を満20歳以上の国民は低威力の実弾銃を役所に届け出れば所持することが許可されており、また全ての銃にはAIセールティがかかっておりシステムが許可した場合しか撃てない。
では何故僕が実弾銃を持っているかというと、それは僕が国防軍の中尉だからだ。国防軍の兵士、警察官またその見習いなどは従来通り銃の所持を職務のためには許可されている。
とはいえ僕はいま国防軍士官学校には通っていない。
既に15歳までの長期休暇を使用して士官学校のカリキュラムを履修してあり、今は親父の藤林技術連隊の小隊長の一人
そこには春、パッド、佐助さんが入っておりハーダイとケリーも部隊こそ違えど軍人で、またみんなもそのことを知っている。
閑話休題
金庫にロックをかけ、車庫に留めてある核融合炉式電動バイクに乗って家を出る。
この核熱融合式炉も電気不足と地球温暖化を解消した発明品だ。
家から通っている高校までは10分程度の距離だ。
昇降口の電子スクリーンにクラス分けが書かれていた。
僕とノリノリとハーダイとボンボンが二組。
パッドとケリーとモリモリが三組。
と意外と固まったクラス分けだった。
クラスに入ると既にハーダイが来ていた。
ニューオーマを机のリーダーにかざす。
今年からはニューオーマが生徒IDカードになるらしい。
荷物を床下のロッカーに入れているとハーダイがやってきた。
「藤おはよ!」
「ん?ハーダイか、おはよ。今年もよろしくな。」
「ああ、まあたまに来れない日もあるけどな…」
「済まないな。軍の所為で…」
ハーダイは現代科学が生み出した数少ない戦略級の超能力者。
超能力は説明すると長くなるので要点をまとめると次のような特徴がある。
・超能力者化手術の費用が高い。
・素質がなければ何も起きない。
・素質があっても精神力がなければ使用できず使用期間は十代から四十代まで。
・素質は一万人に一人いるかどうかで実戦に使えるレベルとなると百万人に一人。戦略級となれば世界中に10人しかいない。
という多くの問題点がある。
また性質上恨みも買いやすく歳をとり力が落ちたところで暗殺されたという話もよくあるのだ。
俺の知り合いだとケリーとパッドも超能力者だ。
んでそのハーダイの超能力は【物体伸縮】。
物を伸ばしたり縮めたりする力。
一見すると何でもなく聞こえるが、ハーダイの場合そのスピードは音の速さを軽く超えている。
また伸ばす素材も自由で五年前の中華共和国の旧ハワイ島への核ミサイル発射もこれで打ち落とされた。
ケリーの超能力は【身体強化】
文字通り身体強化するただそれだけだがシンプルな故強い。
かなり無茶な反動の兵器でも使用可能であり、また自分の拳と脚だけでミサイルと同じ威力の破壊が可能な彼女もまた戦略級と言われるだけの力を持っている。
パッドはそもそも彼の兄とその友人達が超能力の基礎を築いたのであり、最初の超能力者でもある。能力は【電子操作】
クラッキング、電気分解、レールガンなど電子操作に関わることなら何でも電源無しで可能な能力でサイバー戦で彼に勝る者はいない。
ちなみにパッドは戦略級ではない。
話の流れから勘違いした人にはこの場で謝罪する。
ネバーランドオンラインではクラッキングしてしまうとつまらないので能力は使うつもりは一切ないらしいが…
そして僕と春はそんな三人の監視を務めている。とはいえ三人ともこんな拳銃だけで敵うわけがなく、またそんな大役を未成年にやらせているのも変なことを彼らしないと国は確信しているからだ。
そんなことを考えているとチャイムが鳴った。
知らないうちにノリノリ達も来ていたらしい。
ハーダイは急いで席に戻って行った。
はぁ〜〜こっから長ったらしい。校長の話か……
帰宅後今日1日分の三人の行動についてのレポートを書き武装を金庫の中にしまう。
そしてニューオーマを取り出し仮想世界へと飛び立った。
「ふう」
ギルドホームに降り立ったが誰もいない。
そして昨日よりも内装が増えている。ノリノリ達が並べたのだろうか?
ギルドホームとして購入したのは幽霊屋敷みたいなところで実際そういう曰く付きの物件だったらしいが中にいたのは弱いゴーストのみで下見にきた二人の手によって全て駆除され半額で手に入れたとか。
お陰で内装に金を回せたのは良かったけどな。
そんな内装の一つの会議用のテーブルに書き置きがしてあった。
「パッド達のパワーレベリング行ってくる〜〜byノリノリ。」
「りょーかい。じゃあ装備でも作っているか。」
まあ幾ら仕事とはいえ遅れた僕が悪いわけだし大人しく【鍛冶】と【錬金術】を上げることにした。
【錬金術】で各種下級ポーションを50瓶ずつと【鍛冶】で投げナイフなどの補助装備や替えの装備を、ギルドホームの自分の部屋で作っているとみんな帰ってきた。
レベルはノリノリ達は1か2上がっている程度だが、パッドやハーダイ、ケリーにモリモリのレベルは5も上がっている。
どこ行ったんだよ……
そう思っていると部屋にノリノリがやってくる。
「ただいまー、ん藤悪いな。」
「お帰り、みんな。いいさ元は遅れた僕が悪いんだ。」
「そうか、ならいいけどさ。あ、とってきた素材ギルドの共用ボックスに入れておくからみといてくれ。」
素材を見てみると中位のアイテムが多い。それこそ中ボスのいるダンジョン以上でないといけないはずだが…
「どこ行ったんだ?」
「この島のボスがいるダンジョン。なんだっけ名前?」
「大カルテミット山脈だろ? ボスはフェニックスレベルは34。公式サイトに発表されてるじゃん。」
「ああ、そこそこ!でもいつの間にそんなの見たんだ?」
いや見ようよと思ってけど口はもちろん顔にも出さず。
「きのうの夜ちょっとね。それよりなんかあったのか?」
「…ああ『勇者一行』とあってな。緊張したよ。」
「『勇者一行』っていうとあれか?1日で一体を除いてすべての中ボスを攻略したあのパーティ?どんな奴だった?」
「いかにもゲームやり込んでる奴らの集団だったよ。顔は多分なんかのソフトで無理やり変えてるんだと思う。なんかへんだったよ。ああそれとボスの攻略会議を今日の夜にやるから来てくれってさ。行くか?」
『勇者一行』からか……
「りょーかい。まあ行くしかないわな。
夜って何時から?」
「20時からだ。最低でもギルマスとあと1人は来てくれだと。」
「20時っていうとあと8時間あるな。誰が行く?」
「俺と藤は確実としてあとは…」
「念のため春を連れて行こう。暴力沙汰になったら役に立つし、そうでなくても頭はいいし機転も利く。」
「りょーかい。じゃあ三人で行こうか。」
「あとどこが来るのか分かるか?」
「ああ、『勇者一行』『風林火山』『疾風剣』『ムーンナイト』の4つだ。」
「そうか…分かった。準備は俺がしておく、あと春と佐助さんとパッドを借りていいか?ログアウトしてもらうことになるけど」
「ん?いいけど。俺たちはその間どうしたらいい?」
「共用ボックスに足りてない部位の装備を入れてあるそれに馴染むのとこのリストにある素材を取ってきてくれ。」
そう言って僕はリストを渡す。
「りょーかい。じゃあアイテムと装備整えたら行ってくる。」
「おう、いつでに三人にログアウトしたら僕の家に来るよう伝えてくれ。」
「おーう。」
ノリノリがいなくなったのを確認し、ログアウトする。
リアルに戻り、パソコンを立ち上げ金庫からUSBを幾つか取り出してパソコンに挿す。
「ふぅ、三人がくるまで調べておくか。まずは『勇者一行』から…」
ネバーランドオンラインの掲示板の中で『勇者一行』のスレを探す。
『勇者一行』はすぐ見つかった。というかギルド関係のスレの5分の1は『勇者一行』についてだった。
「…………よしと」
幾つか参考になりそうな動画やスクリーンショットをUSBに保存してもっと小さなニューオーマ用のマイクロUSBにデータを移行する。
この手間がかかるためマイクロUSBはそんなに好かれていない。記録容量が半分くらいになるが直接データを機器に送れる両用USBを使う人が多いのだ。
ともかく『勇者一行』について分かったことは以下の5点
・人数は四人。元々はとある大学のゲーム同好会の会員らしい。
・リーダーの名前はアーサー
種族はハイヒューマン。職業はウォーリア。
で戦闘スタイルは剣術と光魔法
種族がハイヒューマンなのはランダムで当てたかららしい。
・他の仲間は
マジシャンで種族はハイエルフのマーリン。
アサシンで種族はハイヒューマンのモルドレッド。
ヒーラーで種族はハイエルフのマリア。
でアーサーと同じく種族がハイなのはランダムで当てたから。レベルは全員約40
・これまで討伐した中ボスは四体。
草原の主《ビックファング》
遺跡のガーディアン《メタルナイト》
湖のヌシ《レイクサーペント》
森のリーダー《ワーウルフリーダー》
・今の所仲間を増やすつもりはなく、ギルドホームも持っていないとのこと。
次に調べたのは『疾風剣』
分かったことは以下の4点
・今の所最大規模のギルドであり、人数は百二十人。戦闘部、生産部、情報部と別れている。
・ギルマスの名前はリュート。ハイヒューマンでアサシン
・副ギルマスの名前はアリシア。ハイドワーフで職業は一応ウォーリアだが、ハンマーを使うというからで、生産のトッププレイヤー。
・今後も規模を拡大する用意があるとのこと。
ギルマス副ギルマスともにハイなのはランダムで当てたから。というかギルマスや副ギルマスは大抵ハイ〜である。
最後に『ムーンナイト』
について分かったことは以下の4点
・同じ学校の同じ学年の生徒で構成されており、クラスごとにチームが別れており、チームは3つある。
規模は『疾風剣』には劣るが人数は90と多い。
・ギルマスはドワーフで職業はファイター。名前は剛毅。その学校の生徒会長らしい。
・副ギルマスはフェアリーで職業はアーチャー。名前は祥子。その学校の副生徒会長らしい。
・人数は今の所は増やさないとのこと。ただ強くて良い人がいたらヘッドハンティングするつもりらしい。
「ふぅ、終わった〜〜」
「入るよ〜ってなにダラけてんの?」
「ん?春か。遅いぞ。」
「遅いってこっちのことも考えてよね……」
「そうだぞ、藤。どんだけうちからお前の家まで離れてると思ってんだ?」
「悪りぃ悪りぃ。それよりもこれを見てくれないか?」
春とパッドにこれまで集めた資料を転送し、待つこと数分。
「……ん。読了。」
「俺もだ。んで藤どうしたんだ?」
「今日ボス攻略会議があるのは知ってるよな?それに来るギルドはこいつらなんだが…
どうしよう?」
「どうしよう?って普通に行ってボス攻略の段取を考えて来るだけじゃないの?」
「それがな……『疾風剣』と『ムーンナイト』は反発しあっているというか、『疾風剣』が『ムーンナイト』を目の敵にしている。それで一波乱ありそうなんだよ……」
「そういうことね。で『風林火山』はどうするの?」
「とりあえずは傍観かな?まあ状況次第で動きは帰るけどね。というわけで春気をつけてね。勝手に突っ走らないよーに」
「う、う、りょーかい。」
春はよく突っ走るんだよな……
「お、すまねえ遅れたよ。」
「遅いですよ、佐助さん。今から資料を転送しますから読んでおいてください。」
「分かった。にしても見たか?藤林少将さんからのメール」
「メール?なんですか?」
「あれ?まだ見てなかったのか?軍の機密回線用のケータイに来てたぞ。」
ああ、機密回線のほうか
春とパッドもまだ見ていなかったらしくそれぞれケータイを取り出していた。
メールは二通来ていた。
「From藤林少将
藤林中尉及びその配下の士官、兵士に告ぐ。
貴君ら藤林連隊第3小隊を今日4月1日15:00より「国防軍及び国家公安委員会共同 仮想技術犯罪対策課」預かりとし、貴君らにネバーランドオンライン内での犯罪の処理を命じ、便宜上貴君らを「ハウンドキッド」とする。
なおこの任務は可能な限り秘密裏に行われることを期待するが、取り締まりの際などやむを得ない場合は貴君らの自由とする。
ただし職権乱用は認めずその際は通常の措置よりもより重い罰を与える。
特別装備として対象の犯罪者を国家公安委員会と国防軍が共同で保有している仮想エリアへ転送、及び移動する権限と貴君らをサポートする警察用NPCを呼び出すコマンドカードを尉官に三枚、曹長以下に二枚、一般兵に一枚与える。
俸給などはこれまでの給与の増額とする。
質問等は後日とする。」
「From藤林少将
早速貴君ら「ハウンドキッド」に命ずる。
ネバーランドオンライン内のギルド「勇者一行」と「疾風剣」にそれぞれ怪しき動きあり捜索せよ。
さしあたり貴君らも含むギルド『風林火山』も参加するボス攻略会議にて可能な限り情報を得よ。」
「……まじすか。」
春とパッドを見るとふたりも驚きのあまり動けずにいた。
「と、とりあえず話を進めよう。」「そ、そうね。」「あ、ああ」
「何三人ともそんな顔してんだよ。」
「いや、まさかゲームにまで厄介ごとに巻き込まれるとはと思いまして……」
「いや、どうせノリノリくんがいるから一緒だって、ポジティブに考えればそのことへの対応手段が手に入ったとも……言えんか〜……」
「と、とりあえず話を進めます。このことで重大な変更はありますがね。春は先ほどと同じく状況次第で。
パッドは会議の会場付近の警戒。
佐助さんは『疾風剣』と『勇者一行』についてもっと調べてくれ。」
「「「サーイエスサー」」」
もとはこのメールが全ての始まりだったのかもしれない。