修学旅行のジョーカー
「いやぁ西田先生はないな」
「そうそう、石田ちゃん先生が可愛いし、まぁ西田はないよな」
「そうそう、罰ゲームに近いってまぁ見た目美人だけどないよ」
キツメな印象の西田先生と、ふわっとしている石田先生、つきあうのはどっちなどと、本来なら話題に上がるはずのない、皆が一緒の答えだと分かっている話題でも、修学旅行の真夜中という条件がつけば、それなりに盛り上がる話題だ。
他にも、誰それが付き合っているだの、破局しただのと、そんな他愛のない会話をしながらやる、罰ゲームをかけた大富豪というのが更にまた、面白く消灯時間を越えて熱中していった。
「はい古河、大貧民決定な俺コーラ」
「俺紅茶、無糖のやつな」
「はいはい」
大富豪で負けてしまい、罰ゲームとして、飲み物を購入するために、自分達の部屋からでると、運悪く巡回していた西田先生と鉢合わせしてしまう。
「古河君、消灯時間はとうに過ぎているはずだけど」
西田先生に睨まれると、寿命が3年縮むと言われるほど厳しい目つきに睨まれ、心臓からも汗が出るのではないかと思うぐらいに萎縮してしまった。
「いや、その罰ゲームみたいな」
もうこうなれば。みちづれとばかりに、後ろを振り向くと、皆狸寝入りを決め込んでいた。
アレだけ一緒に騒いでいたとは思えないほどに、音ひとつたてずに、良い子は、すでに寝ていると演技をしてる。
あからさまにもかかわらず、 西田先生は、とりあえず狸寝入りの友人達は、見逃す事にしたらしい。
「古賀君は反省文ね」
「はい」
後ろではやばかったな、ご愁傷様と手を合わせるような友人達の様子が目に浮かぶが、人身御供のような形で、先生の部屋に連れて行かれた。
反省文とお説教がまっているかと思いきや、西田先生はトランプを取り出して、配り始めた。
「あのコレは?」
「トランプ、ババ抜きでいいよね」
「はぁ」
「キミが勝てば無罪放免、私が勝てば罰ゲームしてもらおうか」
「わかりました」
反省文を書くはずだったのに、なぜか先生の部屋で、二人でババ抜きをしている手にしたカードが残り数枚となっている。
トランプをマシンガンシャッフルしてカットしていき、配り方も映画でみたよなカジノのディーラーのようで、緊張感をさらに煽ってくる。
「古賀君は賭けで負けたことはある?」
残り手札3枚の西田先生は、ふいにそんな事を聞いてきた。
「そりゃあまぁ」
負けて、罰ゲーム買出しに行こうとしたところを、運悪く西田先生に見つかってしまったのだから。
僕の手元には最初に配られたジョーカーがあり残り4枚、先生から引いたがババは引いてもらえず、先生の残りは2枚、僕が3枚。
「賭けで負けない方法というのがあるの」
「そうなんですか」
僕が引いてカードの残りは3枚、先生がジョーカーを引かなけれれば、僕の負けが確定してくる。
「まず一つは何があっても動揺しない」
「はぁ」
「例えば、私より石田先生のほうがつきあいたいなん言われても、私は動揺しない」
体がビクッとなり、おそるおそる西田先生を見ると、こちらを睨みつけているように笑っていた。
「まぁ確かに、石田先生かわいいものね、私はないわよねぇ」
「あぁその、なんていうか」
「盛り上がるのも良いけど、声は注意しないとねぇどこで、誰が聞いているかわからないから」
まっすぐにこちらを見てくる目を直視できない、見たら、3年どころか5年は平気で寿命が縮むことになるだろう。
西田先生がそのまま、手札とらないままであれば、この恐怖から逃げられないままである。
「僕の負けですから、許してください」
「まだ私はカード引いていないわよ」
「いえ、本当に負けでいいです」
「そう、じゃあこれでおしまいね」
西田先生が迷う事もなく、トランプをひき、そのままパサッとカードが捨てられる、震える僕の手元に残ったのはジョーカーだった。
「じゃあ約束どおり罰ゲームね」
もうこの状況が、罰ゲームだったのだけど、なんだっていい、これで終ったのだと安堵とともに体が震えてくる。
「じゃあ古賀君の言うところの罰ゲームで、私と付き合ってもらうわね」
「えっと冗談ですよね」
「賭けで負けない方法は、どんな卑怯な手を使っても優位に立って勝つ事例えばカードに傷つけるとかね」
西田先生が指差した、まだ手元に握っているジョーカーの裏面には小さな傷がついていた。
「私、性格キツイし、執念深いし、根に持つタイプなのよね、まぁそこらへん付き合っていくうちに追々分かると思うわよ古賀君」
手元のジョーカーが、まるでこれからの未来を暗示するように笑っていた。