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第七章  -縁(えにし)の魔法使い-

「ワシがここに赴任してきた時からあの調子でした。前任者は心労で倒れて、そのまま目を覚まさなかったそうです」


 隔離エリアの応接室に通されたフェン達に、院長が低くか細い声で現状を説明する。

 院長の対面にある三人掛けのソファーにはフェン、アインス、ツヴァイが腰掛けて、フィーアはその脇に立ったままだった。


「稀代の魔女の封印。その存在自体は知ってはいましたが、まさか院内をうろつきまわっているとは。直接危害を加えられたものは皆無ですが……。ご覧になった通り、あの力にあの敵意。警備の者も、司書達も居つきません。当然ですが。

 私とて家族の事がなければ職を辞しているでしょう。本来ならこの地位につけるような人間ではありませんので、すがりついているに過ぎません」

「家族もここの隔離エリア内にいるのか?」

「いえ、まさか。こんな危険な所には……。首都に住まわせています。息子がマナ欠乏症でしてね。幸い症状が軽いのでマナの満ちた上級区画なら普通に生活出来ますが。それもワシがここの院長を勤めているが故の事です」


 院長の組んだ手が震えていた。


「封印がすでに解除されていたって言うのか?」

「違うわ、フェン。間違いなくあのコは封印下にある」


 一人立ったままのフィーアは、下を指差した。


「地下にあるのね」

「はい。その通りです」


 答えて、所長は思い出したようにポケットを探る。


「これを渡しておきましょう」


 所長がポケットから取り出したのは鍵だった。施錠はマナクラフトによるものが一般的な現在、珍しいと言える。


「この図書院にあるポータル全てに鍵穴があります。この鍵を差し込めば、タイプリストに第三隔離エリアが追加されます。そこが封印へと繋ぐポータルです」


 かつて、第二収容所でフィーアは所長に義務という言葉を使った。

 そして今、院長が封印へと導く鍵を差し出している。


「預かるよ」


 フェンは鍵を受け取った。

 これは儀式。院長が封印管理の義務。いや、それに関わる諸々に事全てを放棄し、フェンがそれを了承したと言う事だ。


「ありがとうございます。受け取って下さって」


 顔を伏せて、院長は肩を震わせた。そして、付け加えた。


「封印についてですが。彼女が封印されているという事実は間違いありません。私がこの目で確認をしました。だからこそ、図書院内にいる彼女もまた同じ存在である事を知ったのですから」


 分けられたとはいえ、稀代の魔女の別れ身。しかも、あの圧倒的な力。その上、あからさまな憎悪。そんなものと常に身近にすごさなければならないのだ。

 多くの人民にとって政府役人は特権階級。しかも政府立図書院長ともなれば上級役人。本来なら雲の上の存在だろうが、本人にとっては何のありがたみもないだろう。

 マナが確保され、長寿が約束されたとして、いつ魔女のきまぐれで、五体をバラバラにされるかも知れないのだ。生きた心地がしなかっただろう。

 家族の件があったからこそ、この院長も踏みとどまっているのだ。

 応接室の外で待機している警備兵にしても、相応の理由があっての事だろう。


「封印下に存在して。かつ他にも時空の魔女を名乗る奴がいる。しかも外見は同じときたもんだ。フィーア、お前にはこの謎が解けるか?」


 フィーアは嘆息し、答えた。


「これは謎でもなんでもないわ、フェン。簡単に言えば、稀代の魔女の封印と同じ理屈よ」

「稀代の魔女の……封印?」

「ええ。もうすでに話したと思うけど、私達は年代を切り分けられ封印された。十二歳のアインス、十六歳のツヴァイ、二十四歳の私。そして二十歳のドライ。

 そして、ドライこそ、その時間を切り分ける事を可能とする時空の魔法を、稀代の魔女より受け継いだウィザード。あのコは封印下にある自分の存在をさらに切り分け、持っている魔法技術の大部分を、その切り分けた分身に譲り渡したのよ」

「ちょっと待て。封印されている状態でそんな事が可能なのか? 封印下で外部に干渉出来るのはフィーアだけじゃなかったのか?」


 額に手をあてて天を仰ぎながらツヴァイが答えた。


「勿論、ドライ単体では不可能だ。その為の時間凍結の封印だ。本来であればドライどころかフィーアですら自力解除は不可能だ。

 フィーアが封印を解く事が出来たのは、稀代の魔女が封印前に肉体から意識を切り離していた事、そして第二収容所という豊富なマナクラフトに囲まれた好条件の結果にすぎない」


 その言い様に、フェンは眉を潜めた。


「だったら、なおさら話がおかしなものになる。なぜドライは封印外に――」


 服の裾を引っ張られ、フェンは言葉を止めた。アインスだ。


「フェンお兄ちゃん。ビーがもう答えを言っちゃっているよ」

「え?」


 言われて、フェンはツヴァイの言葉を反芻する。


 ドライ単体では不可能だ。ドライ単体では――。

 ドライ単体?


 アインスの言わんとしている事に気付いてフィーアを見やる。彼女は頷いた。


「そう。彼女の分身を封印外へ作り出す手助けをしたのは私。第二収容所ほどではないにしても、一般設備より充実したマナクラフト設備。そして、第二収容所とは比べ物にならないセキュリティの甘さ。時間凍結という封印の形式があのコの分野であった事も味方した。

 ただ、その時は私達の気持ちは一つだったし、その時のあのコの分身は、せいぜい隠れて本を読む程度のものでしかなかったわ」


 フェンは先程、ドライによって形を失った書架を思い返す。


「本を読むどころの力じゃなかったぜ」


 フェンの言葉にフィーアも頷く。


「ええ。その原因は言ったばかりだけど、封印が時間凍結という彼女の分野であった事。封印解除そのものは無理でも、封印の些細な綻びを探し出し、オリジナルの自分から受け継いだ魔法のほとんどを取り出したんでしょうね。

 そして、もう一つ。オリジナルが時間凍結の封印下にある以上、あのコは加齢しない。事実上の不老なのよ。ただ、分身はそうもいかないから、定期的に新しい分身を作って、力を一定に保つ為、古い自分を消去しているはず」


 フェンは困惑した表情で頭をかいた。


「何か、理解がおいつかない。というか、矛盾……とまではいかないまでもすっきりと頭に入って来ないんだが」


 フィーアは影のある表情で薄く微笑む。


「ウィザードならぬフェンには……。と言いたい所だけど、正直なところあの子の受け継いだ時空の魔法に関しては、詳しい知識が私にもないの」

「え?」


 フィーアは稀代の魔女から知識の大部分を受け継いだのではなかったのか?

 フェンの表情からその疑問を読み取ってフィーアは補足する。


「言いたい事は分かるわ。ただ、時空の魔法に関しては、魔法文明でも特殊な魔法技術と言えるの。開拓されて、間もない分野だったから。

 伝説では稀代の魔女は全ての魔法を極めたとも言われているけど、実情は違う。

 何事にも主流と非主流が存在するけど、魔法も例外ではない。

 稀代の二つ名は魔法の主流分野において、他の追随を許さなかった事。そして非主流分野であった、マナクラフト技術と時空の魔法。これを極めたが故に付けられた名よ」

「それとフィーアに時空の魔法の知識がないのとどう関係があるんだ?」

「アインスにしろツヴァイにしろ、単独でも魔法が使えるわよね? それはそれぞれ受け継いだ魔法分野における最低限の知識があるからよ。でも、時空の魔法については非主流、しかも研究途中の段階も多い分野であるが故に、その魔法を御する最低限の知識しかなかったのよ。

 故に稀代の魔女は自身の力を四つに分ける時に、時空の魔法に関しては全ての関わる知識も一緒に渡したの。そうでもしないと時空の魔法の制御すら出来なくなる。

 最悪のパターンとして封印解除した途端に、魔法が暴走して解除をする私達、そして彼女自身すら命を落とす危険も有りうる。

 時空の魔法の恐ろしさは体験したばかりでしょ? フェン」

「ああ」


 フェンは頷くしかなかった。

 威力の面だけを見て、脅威という事だけを考えていたが、確かにあれがコントロール下におかれていなかったらどうなるか。

 脳裏に浮かんだのは、かつてフェンのリングブレイドを無理に使おうとしたアインスだった。結果として本人が失神する程度で済んだが、あの肥大化したエゴフォトンが地面でなく、アインス本人、あるいはフェンやフィーアに向かって放たれていたらどうなっていたか。


「分かった。ドライ……だったな。あいつが封印の外にでていたその理由については理解した。その上で聞きたい事がある」


 フェンはフィーア、アインス、ツヴァイの顔を順に見た。

 その時、フィーアが片手を上げてフェンを制した。


「院長。申し訳ありませんが」

「ああ。むしろありがたい。院内の設備は好きにつかってくれ。フェン君だったな。キミのグローミングカードに私と同等の権限を渡しておく。院内の地図と私の部屋の位置も送っておくから、何かあったら……。いや、全てが終わったら教えてくれ」


 院長の重い口調は相変わらずだったが、その表情からは少し肩の荷が下りたといった表情だった。応接室を出て扉を閉める前に、警備兵に部屋から離れるよう指示しているのが聞こえた。

 扉が閉まるのと同時にフェンは立ち上がって、それまで院長の座っていた椅子に座りなおす。対面の三人掛けのソファーには、それまで立ったままだったフィーアが、フェンが座っていた位置に腰掛ける。


「約束だったわね。全て話すと。でも、何から話せばいいのかしら。フェン、あなたは何から聞きたい?」


 フィーアの質問には自嘲と自責の念が感じられた。ツヴァイの表情にはいつもの明るさはなく、アインスはただフェンの反応をじっと待っている。

 フェンはおとがいに指をかける。


「正直な所、こっちも何から聞いていいのやらって所だが。そうだな。なぜ、あいつは、ドライはオレを襲って来たんだ? そして、あいつは第五の魔法使いとオレを呼んだ。

 なぜだ? オレはウィザードじゃないんだぜ?」


 フィーアは一呼吸置いた。次に放つ言葉を無理に押し出さんが如く。


「まず後者。第五の魔法使いとは、稀代の魔女が分けた四つの魔法技術、設計、力、物質、時空。この四つに加えて、世界を滅びから救う為に必要な五番目のエッセンス。えにしの魔法を宿す者の事。……あのコなりの蔑称なのよ。そして、フェン。あなたが襲われたのは、あなたが縁の魔法によって人為的に作られたウィザードだからよ」


 フェンは言葉を失った。ある程度の心構えはしていたが、所詮ある程度止まりだった。


 オレがウィザード? いや、それ以前に作られた存在ってなんだ?!


「オレが親父達の息子じゃなかった。そう言いたいのかお前は」


 感情を抑えているつもりだったが、どうしても口調が険呑なものになってしまった。

 アインスが微かに震えている。


「いいえ。あなたがあなたのご両親の息子である。その事に間違いはないと思うわ。それを証明する術は私にはないけれど。

 作られたって言い方が語弊を招くのね。でも他に的確な表現がないの。フェン、あなただけじゃないの。あなたのご両親のどちらか、あるいは両方に縁の魔法が受け継がれていたはず。

 魔法文明が滅びた五百年前から、あなたに行き着くまで、親から子へ、子から孫へと縁の魔法は受け継がれ、そしてその子々孫々に至る過程で、着実に縁の魔法使いとしての素養が高められるように、生命の螺旋を操作された」

「生命の螺旋?」

「子は親に似る。それは当たり前の事だけど、不思議に思った事はない?」


 フェンは困惑した。それは理由が必要な事なのだろうか?


「いや、それはそういったものとしか考えた事しか。いや、考えた事すらないな」


 フィーアは頷く。


「そうね。在りし日の魔法文明時代もほとんどの者は気にしなかった。ウィザードの子はウィザードであり、平民の子は平民。

 ただ、いつの時代にも変わり者はいるわ。なぜそうなのかを解き明かそうとしたウィザードがいた。親から子への縁を繋ぐものを探求する者。

 彼の名はピャーチ=ニル。私達、いえ、稀代の魔女の兄弟子にしてメンターの実子。そしてえにしの魔法使いの二つ名を持つ者。

 彼は親から子へと多く受け継がれるもの、遺伝と呼ぶその根源が、極小にして膨大な数で人間を構成している物体、その内部にある情報によるものだと突き止めた。それは全てが螺旋の構造をしている事から生命の螺旋と名付けられた」

「遺伝……だと? 五百年前から?」

「そうよ、フェン。いえ、フェンフ=ニル。あなたの事だから、もう薄々気付いているでしょう? 縁の魔法の正体。

 彼は自らの生命の螺旋に手を加えた。いずれ来る破滅に対抗する力。ドライの言う第五の魔法使いを作りだす為。それは彼一代では完成しない。なぜなら縁の魔法は遺伝を操作する魔法だからよ。だから、生命の螺旋に代を重ねる毎に自己改良するよう細工をしていたの」


 フィーアが言葉を止めると、部屋に沈黙が下りた。

 彼女の言葉はまるで懺悔のようだった。

 アインスは目から涙が溢れそうになるのを必死に堪え、ツヴァイはまるで死を覚悟した囚人のように目を閉じて姿勢を正している。

 フィーアが再び言葉を紡いだ。


「フェンは自分がウィザードではないと言ったけど、自覚がないだけ。縁の魔法によって、あなたはウィザードをウィザードたらしめる因子を持っている。ただ、あなたには魔法の技術も知識もないだけ。

 ドライの時空の魔法は知識がないと制御できないと言ったけど、それはフェンにも当てはまる。

 フェン、あなたはすでに魔法を使っている。常に開放されていると言っていいわ」

「………………」

「ピャーチ=ニルが目指した縁の魔法の行き着く先。世界の滅びに対抗する力。それはマナドレイン現象の無効化。この世界のマナ枯渇化現象の原因にして、いずれ封印施設アビスをやぶり、全てを滅ぼす空の裂け目。クレヴァスに対抗する為の魔法。

 私達は黒の魔法使いが平民を使っての人体実験を責めたけど。フェン、あなたのマナドレイン無効化体質もまた魔法技術による結果なの」


 フィーアの声は最後は聞き取り難いほど小さくなり、そして微かにごめんなさいと聞こえた。

 また沈黙がおとずれたが、フェンが無言で立ち上がった。


「……フェンお兄ちゃん?」

「悪い、ちょっと頭を冷やしてくる」


 応接室のドアを開いて、部屋を出る前にフェンは振り返らずに尋ねた。


「もう一つだけ教えてくれ。第五の魔法使いについては分かった。だが、ドライがオレを敵視する理由が分からない。なぜだ? 理由があるんだろう?」


 それにはツヴァイが答えた。


「ピャーチの事をあたし達。いや、稀代の魔女はヤットと呼んでいたんだ」

「それが?」

「ヤットはピャーチの愛称。……二人は恋人同士だったんだ」


 そして、アインスが引き継いだ。


「でも、稀代の魔女は子供を産まなかったの。ううん、産めなかった。それ以前に封印されたから。でも、フェンお兄ちゃんは、ヤットの子孫は……存在しているの」


 アインスの声は涙声で、それでも懸命に泣くまいとしていた。


「……分かった。ありがとう」


 フェンは応接室を出て、音を立てないようゆっくりと戸を閉めた。



*---*



 さて、何が問題なんだろうな?


 フェンは己に問いかけた。

 ショックを受けている。それは間違いない。むしろ、あんな話を聞かされて平然と流せる方が変人だ。

 何かに憤っている。さもなくば胸の内で煮えたぎるようなこの熱さはなんなんだ?

 気付けば図書院の外、竜車を止めてあった場所まで来ていた。

 軽く居眠りをしていたらしいテトラ達が出迎える。

 フェンはテトラ達のハーネスを外してやった。普段なら甘えて擦り寄ってくるはずだが、二匹はどこか遠慮がちだった。


「ははっ、オレとお前達の仲だもんな。やっぱり、気持ちが伝わるのか」


 言って、フェンは自分が苦笑しているのに気付いた。

 二匹の間に嵌るように座り込む。


「作られたウィザードね。……どうも、いまいちピンとこないんだが」


 嘘ではない事ははっきりしている。

 アビスへの護送時、ただ竜車の中にいるだけの囚人達や、まだテトラ達を買い戻していない頃の引竜が、急速に消耗していっている中、自分だけが平気な事はずっと疑問に思っていたのだ。

 そして、その謎は本日めでたく解明された。


 何が問題なんだ?


 自問を繰り返す。

 フィーアがフェンを選んだのに理由があったのは初めから分かっていた事ではないか。

 ウィザード? 魔法文明が滅びた今、何の意味がある。

 縁の魔法? 結構な事じゃないか。ようはマナ枯渇化現象の影響を受けないって事だ。

 稀代の魔女の恋人。その子孫? だからどうし――。


 フェンは額を平手で叩いた。

 テトラ達が小さく鳴きながら、心配そうな目でフェンを見上げる。

 応接室の最後の光景が脳裏に浮かぶ。

 全てを話し終えた後、顔を伏せていたフィーア。

 何を言われようと、何をされようと受け入れる、そんな雰囲気だったツヴァイ。

 アインスが涙を必死に堪えていたのは、泣くのは卑怯だと思ったからだろう。


 ……ああ、なんだ。簡単じゃないか。


 フェンは理解した。

 彼女達があんな状態になったのがショックだったんだ。彼女達をあんな状態に追い詰めたのが、自分自身だった事に憤りを感じていたのだ。

 フィーアもアインスもツヴァイも。今日という日を覚悟して、共に旅をしてきたに違いない。


『あなたが私達を軽蔑せずにいてくれるなら』


 馬鹿だ。三人共。大馬鹿だ。どうでもいいじゃないか、そんな事。


 そして、それ以上の特大級大馬鹿野郎がここに一人いる。


 もっと早く気付けなかったのか? わざわざ頭を冷やさなければ、こんな下らない事実に気付かなかったのか。


 オレはあいつ等を傷つけたくない。

 オレはあいつ等を悲しませたくない。


 ただ、それだけ。それだけだ。

 ならば、すべき事は?

 高い々々授業料を払っただろう? 払いきれないほど悔やんだはずだ。ミリヤンへありがとうの一言が言えなかった事。


 繰り返してたまるか!


 フェンは立ち上がった。


「おとなしくしてろよ、お前等」


 外したハーネスをそのままにテトラ達に声をかける。テトラ達は同時に返事のように鳴いてお互いによりそった。

 そして、フェンは図書院に引き返した。



*---*



 図書院に入って応接室にまっすぐ向かう。ただ、ここではどこへ行くにも無数に並ぶ書架の間を通り抜けなければならなかったが。

 フェンの足が唐突に止まった。

 右のホルダーからリングブレイドを引き抜き、脇の書架と書架の間の空間に突きつける。


「出て来い。それとも引きずり出して欲しいか?」


 何も無く、誰もいないはずの空間。あらゆるモノを覆い隠すカーテンが引かれたかのように、唐突に女性が姿を現れた。

 時空の魔女ドライ。


「恐ろしいわね」

「そりゃあね、誰でも殺されかけりゃ、険呑にもなるわ」

「そっちじゃないわ」

「?」

「空間の狭間に潜んでいた私を見つけた。それだけではなく、そこから出ていかざるを得なくするような圧力をかけた」

「お前ほどの力があるのに、あの程度が脅しになったってのか?」


 フェンは肩を竦めるが、ドライの表情には微かに警戒のようなものがうかがえる。


「言霊」

「?」

「魔法文明時代に研究されていた魔法分野の一つ。言葉によるマナ操作技術。

 ミスティックコードを使う技術が一般的だった為、非主流の分野であり、衰退の一途だったけど。ヤットは多少使えたわ。専門が非主流同士という事で、気があう友人に教わったって言っていたけれど。

 もうあいつ等から聞いたわよね? 自分が何者であるか。ただ自覚しただけ。それだけでウィザードの因子が順応し、祖の力を行使するなんて……。

 ヤットの血を引いているだけはあるわ。それとも、それすらも第五の魔法、縁の魔法の内なのかしら」


 フェンは下らなそうに言った。


「なんでもいいよ、そんなもん」

「そう? ならばなんの用かしら。わざわざ見逃してやろうと思ったのに」


 返答次第では容赦しない。そんな口調だ。


 言葉に圧力があるのはどっちだよ。


 内心呆れながら言葉を紡ぐ。遠慮はしない。同じ稀代の魔女から分かれたと言っても、彼女はあいつ等を阻む障害。傷つける刃。


「オレは女を口説く言葉も、慰め方も知らない。勿論、付き合った経験もない」


 返答が予想外すぎて虚をつかれたのか、ドライはポカンと口を空けたまま固まった。

 それを愉快そうに眺めながらフェンは続ける。


「気付けばずっと護送屋一筋で、心許せる家族は二匹のクエイクフットだけ……だった」

「だから、何がいいたいのよ!」


 立ち直ったドライが、苛立たしげに目を吊り上げる。


「だから、オレが出来る事はせいぜい戦うこと。だから、それで決着をつけようぜ」


 ドライはきょとんとして目を見開いた。フェンが何を言ったか瞬時に理解出来なかったのだ。


「闘う? あなたが? 私と? ……正気で言っている?」

「ああ、シンプルだろ? オレが勝てばおとなしく一緒に来い」


 ドライはおとがいに指をかける。その仕草はどこかフィーアに似ていた。


「私に勝てるかどうかは横に置いて置くわ。私が勝ったら? あなたが相応しい対価を持っているとは思えないのだけど?」


 フェンは口にした。必ずドライが食いついてくるであろう餌を。


「お前の言う事をなんでも聞いてやるよ。一生な」


 ドライはしばらく無表情で押し黙った。


「……本気? 本気で言ってるの?」

「ああ、本気だ。こいつは一種の取引だ。護送屋を家業にしていた以上、取引に嘘をつかねぇよ」

「生涯、ここに居ろと言っても?」

「負けたら従うさ。クエイクフットの餌ぐらいは買いにいかせて欲しいけどな。お前が買いにいってくれるなら別だが」


 次の瞬間に起きた事。フェンには何が起きたか瞬時に理解出来なかった。

 哄笑。天を仰いでドライは狂ったように笑っていた。禍々しいまでの負の想い。それが空間を満たしていく。

 これが本性、これこそが世界の破滅を望む狂気と憎悪の魔女、ドライの姿。


「たかがウィザードとして目覚めつつあるくらいで、稀代が分けた四つの魔法のうちで、最強たる時空に決闘を挑むなんて。愉快よ。愉快だわ」


 ドライの目が爛々と輝いていた。


「いいわ、いいわよ。闘いましょう。闘いましょうよ。私が勝ったらあなたをここで飼ってあげる。逃げられないように、両足を切り落として。余計な事が出来ないように両手を切り落として。

 食事の心配はしなくていいわ。毎日、私が食べさせてあげる。食べさせてあげるから」


 ふらふらと危うい足取りでドライが近づいてくるが、フェンは特に構えなかった。彼女の狂気と憎悪を満たす提案を提示したのだ。いまさら、それをご破算にするような真似をするはずがない。


「でも、あいつ等は反対するでしょうね。あいつ等の横槍が入らないよう説得してきて頂戴。それが決闘を受ける条件よ」

「分かった」


 硬質な音が書架の間に響いた。リングブレイドをホルダーに収めたのだ。


「説得出来たら、どうすればいい? お前を探して図書院中走り回るのはゴメンだ」

「意識のチャンネルを開いたわ。あいつ等を通じてやり取りは出来るわ」

「そうか。じゃぁ楽しみに待っていろ」

「ええ。楽しみにしているわ、ヤット」


 オレはフェンだ。そう言い返す前にドライの姿は消えていた。



*---*



 決闘の事を告げた瞬間、応接室内は凍りついた。

 その後、真っ先に動き出したのはアインスだった。


「だめー、フェンお兄ちゃん! ライはもう壊れちゃっているよ! 絶対容赦なんかしない。殺されちゃうよー!!」


 それまで堪えていたのが限界だったのか、みるみるうちにアインスの目に涙が溢れ零れていった。


「フェン、何故だ?! なじられる覚悟はしていた。いくら殴られても甘んじてうけるつもりだった。だけど……だけど、あたしはお前を失う覚悟はしていない。

 憎まれるならともかく、何故そこまでする?!!」


 呆れたような口調でフェンが言った。


「憎むってなんだよ。オレはお前達を憎む理由なんてどこにもないぜ」

「理由がない? 縁の魔法は――」

「考えすぎなんだよ、ツヴァイ。いや、お前等全員が考えすぎなんだよ」


 フェンは呆然とするツヴァイをそのままに、顔を伏せたまま上げないフィーアの前に立つ。


「旅はつまらなかったか?」

「……え?」

「旅はつまらなかったか? そう聞いているんだよ」


 フィーアは顔を伏せたまま、首を横に振った。

 フェンはフィーア達が座るソファー前のテーブルを足でずらすと、フィーアの前でそのテーブルに腰掛ける。


「世界を滅びから救うんじゃなかったのか? その為にオレを雇ったんじゃなかったのか? それともあれはスケールがバカでかい嘘だったのか?」


 フィーアは再び首を横に振る。


「オレが縁の魔法使いの子孫だって、いつかは言うつもりだったんだろ? 元々そういう約束だったんだから」

「だっで」


 声は濁っていた。


「いづまでも秘密だっでいっだら、フェンは承知じなかったでしょう?」

「……だろうな」

「会いたがったの。ヤットじゃないど分かっでいても。一緒に居だかったの……。使命も大事だったげど、それ以上に――」


 フェンはフィーアのおとがいに指をかけて顔を上げさせる。目を真っ赤に腫らし、無残なほど涙でぐしゃぐしゃの顔が目の前にあった。


「それ以上に一緒に居たがった」

「もういい」


 フェンはフィーアを引き寄せ抱きしめた。


「一緒に居たかった? おいおい、過去形かよ。まだ旅は終わってないんだろ?

 使命とやらの最終目的地はアビスだよな? オレが必要なんだろ? オレの持っている縁の魔法とやらが必要なんだろ? だったら利用しろよ。その為に雇ったんだろうが。こんな中途半端に終わらせられるのはこっちがゴメンだ!!」


 フェンはフィーアを抱きしめたままツヴァイを見た。


「どうするよ、ツヴァイ。お前は降りるのか? この旅から」


 アインスを見る。


「どうする、アインス。もういいのか? この旅は」


 アインスがフェンの背に横からしがみ付いた。


「行きたい! 続けたい!」

「ツヴァイ?」

「あたしはみすみすお前を危険な目には!」

「一緒に黒の盗賊団。黒の魔法使いを倒すんじゃなかったのか? あれは危険じゃないってのか?」

「それは!」

「御託はいい! お前の気持ちを聞いている。ここで終わらすのか。それともこの旅を続けるのか!!」


 ツヴァイがフェンとフィーア、そしてアインスの全員を囲うように抱きついてきた。


「続けたい。決まっているだろう!」

「だったら、何を迷う。前に進むだけだろうお前等! そして、今目の前に立ちふさがっているのが、ドライ。ただ、それだけの話だ」


 フェンは三人の魔女の体温を感じ取って、満足そうに笑みを浮べた。



*---*



「時空が最強?」

「ああ、そう言っていたが。違うのか?」


 フェン達は竜車に戻っていた。フィーア達は涙で服を汚していたし、話し合うにはここが一番落ち着く場所だった。

 魔女達が着替える事もあって、フェンは御者台にいた。


「そうね。ある意味では間違っていないかも」


 フィーアの声はまだか細かったが、それでもその中に芯が戻っていた。


「設計、力、物質。単体でもそれぞれ魔法を行使できるけど、稀代の魔女としての本来の力は、私達が協力し合わないと発揮出来ないの。逆に言うならば、私達一人々々はウィザードとして半人前なの。でも、ドライは時空の魔法の全てを使いこなせる。ある意味、時空の魔法に特化したウィザードと言える存在なの」

「そして、ある意味では間違いだ」


 ツヴァイが引き継いだ。


「確かに物質破壊という点に関しては私達、いや稀代の魔女を除いた全ウィザード中最強と言ってもいい。そして、破壊力。すなわち攻撃力が戦闘において、大きなウェイトを占めるのも確かだ。

 だが、最高の攻撃力と最強はイコールではない。……もっとも、現実は攻撃力が決め手になる事が多い事も確かだがな」

「ねー、決闘ってどんなルールでやるの?」


 アインスの言葉に、フェンは答えに詰まった。


「……そう言われてみれば、お互いが勝った時の条件だけでルールは何一つ決めてなかったな」

「まだ決めてないのね?」


 フィーアが念を押す。その声には力がこもっていた。


「ああ。あっちはルール無用と解釈したかも知れないが。少なくともその点に関してはお互いに触れてない。勝ち負けの判断すら決めてなかったな」

「少なくともルール無用と口にしていないのならば、拡大解釈したのが悪いと押し切れるわ。まず、ルールを呑ませないと」

「でもー。ライは簡単にそんなの呑まないと思う」

「確かに簡単ではないかも知れない。だが、絶対にルールで封じ込めないといけないものがある」

「空間断層のズレ、空間位相のズレ、ね」

「ああ、それを使われたらいくらフェンでも、どうしようもない。武器術やエゴクラフトがどうのって以前の問題だ」


 フィーアとツヴァイの言い様に、フェンは眉を潜める。


「どんな魔法なんだ、それは」

「フェンお兄ちゃん、空間断層のズレはすでに見ているよー」

「え?」

「フェン、会ったばかりのドライにそれで殺されかけただろ? あれだよ」


 フェンの脳裏に原型をとどめない書架の残骸が蘇った。


「あれか!」


 そして、その時の感覚を思い出す。

 圏を感じとっていたのに、身体が動かなかった。ツヴァイとの特訓で、思考よりも早く身体が反応するようになっていたにも関わらずだ。


「そもそも、あれはなんなんだ? ただ見えない特大の剣を振り回したって訳じゃないんだろう?」


 フィーアが格子窓に顔を出し、両の掌を合わせる。


「通常の空間の状態が私の両手だと考えて」


 フェンが注目すると、合わせた両手が少しずれる。


「あのコがしたのは、こんな風に空間に歪を作り断層を作ったの。空間断層のズレと呼んでいるけど、実際は空間がズレた結果、断層が発生するの。ただし、ズレ自体はほんの少しで、しかも一瞬で元に戻るわ」

「元に戻る? しかし、実際に書架や本が切れたぞ」

「そう。どれだけ小さなズレとはいえ、空間断層のズレに巻き込まれた物質は、その連続性を断たれる。つまり、切断されるという事。空間断層のズレが元に戻ったところで、一度切断されたという事実はそのまま残るわ。液体、気体にこそ意味がないけど、固体に対しては強度、特性を無視できる最強の刃よ」


 フェンはおとがいに指をあてて、イメージする。


「正直、いまいちピンとこないが。見えない刃を放っている訳じゃなくて、その場に見えない刃を発生させているって考えでいいのか?」

「ああ、そう理解していい。それが同時に複数、さらには多少の距離があっても作れる。限界はあるにしても、広域多数に仕掛けられれば、かわせるレベルじゃない」


 フェンは圏を感じ取っても動けなかった理由を理解した。フェンの取れる全ての行動が、空間断層のズレに無力だったのだ。


「オーケー。もう一つの方はどんなのだ?」

「そうね。空間断層のズレの応用と考えてくれればいいわ。ただし、空間断層のズレは面での攻撃に対して、空間位相のズレは立体。より広範囲の上、気体、液体、固体、あらゆるものを分解する。こっちは空間断層のズレと違って同時使用や遠距離での発生は無理だけど、攻撃範囲内の存在を確実に即消滅させる。ツヴァイが物質破壊において最強と言ったけど、これがその根拠よ。壊すという事にこれ以上の魔法は存在しないわ」

「……確かにおっかねぇな。ルール無用なんて言わなくてよかったぜ」


 フェンの背中に冷たい汗が流れる。まだ、フィーア達に言葉を伝える前で冷静さを欠いていたとはいえ、自分の無謀さに恐れ入っていた。

 ちなみに、フィーア達には負けたらドライの言いなりになる事は伝えてあったが、ドライが言った手足を切断云々までは言ってない。言ったら絶対に止められるだろう。

 アインスが低いうなり声を上げている。

 フェンは気になって声をかける。


「どうした?」

「やっぱり難しいよ、フェンお兄ちゃん。ライがそのルールを呑むとは思えないよ」

「なぜだ? 正直、出鱈目な魔法だし、向こうはオレをいたぶりたいだろうから、あっさり呑むかも知れないだろ?」

「だって、その二つを封じちゃったら、ライは攻撃手段無くなっちゃうよー」

「は?」


 思わず格子窓を覗き込む。着替えはとっくに終わっているはずなので問題はないはずだった。

 フィーアとツヴァイを見ると、二人とも頷く。


「時空の魔法は別に戦闘用の魔法って訳じゃないのよ」

「正確にはまったくなくなる訳じゃない。例えば、重量のあるものを頭上に転移させたり、フェン自身を高所に転移させて落下させるという手もなくはないが……。

 前者は今のフェンに通用するような攻撃じゃないし、後者に至っては転移されるものの同意なしの転移はかなり厳しい。ましてや、フェンはエゴクラフト使い。意思力が高い。いくらドライでもまず無理だろうな」

「つまり、まとめるとこうか? 闘うには、まずドライに勝負が成立しないような攻撃をさせないよう、ルールで封じる必要があるが、そうするとドライの方が攻撃手段を失ってしまう」


 格子窓から見える三人の魔女が同時に頷く。


 なるほど、なるほど、つまりは――。


 フェンは前を向いて腕を組んだ。


「いかにそのルールを呑ませるか。それが肝か。だったら、そこまで難しくないかも知れないぞ。一方的に向こうだけをルールで縛ろうとするからダメなんだ。こっちもルールで縛りをかければいいんだ」


 フェンはこれまで上がった条件を頭の中で組み合わせ、いかにドライに話を持ちかけるか検討し始めた。護送屋たる者、交渉術も必要なスキルだ。



*---*



「地下といっても他とかわらないな」

「場所が違うだけで、同じ目的で作られたものだもの。むしろ、わざわざ地下に作る意味が分からないわ」

「秘密基地は男の浪漫じゃないのか? フェン」

「えー、そうなのー?」

「どこでそんな知識を仕入れたんだ、ツヴァイ……。そんなに外れてないけどよ。さぁ、いくぞ」


 フェンは鍵を片手で弄びながら、ポータルの外に足を踏み出した。

 その後から魔女達が続き、そしてポータルのシールドが自動で閉じる。

 四度目の広い通路。フェンが決闘の場所として指定したのがここだった。

 一行は奥に向かって歩き続け、先にマナ光と共に部屋があるのが確認出来る位置で足を止めた。

 決闘の相手が目前に現れたからだ。

 その表情はうんざりしているように見えるが、それは気のせいではないだろう。


「そっちから決闘を申し込んでおいて、後付けで条件? 良い面の皮しているわね」


 腰に手をあて、攻撃的な口調のドライ。

 フェンの後ろのフィーア達は、いつドライが空間断層のズレ、空間位相のズレを使っても対応出来るよう、待機している。


「悪いな。護送屋なんてやっていると自然と面の皮は厚くなるんだ。ただ、条件そのものは妥当じゃないか? お前の空間断層やら位相のズレってのは強力すぎる。オレを殺したら、そもそもお前が勝った時の条件を果たせないだろ」

「……まぁ、それはそうだけど」


 どうやら、深く考えてなかったのはお互い様だったようだ。ドライは戸惑いながら返答する。


「だからと言って、それを封じられたら私にどうやって戦えって言うのよ。どうせそいつ等から聞いているでしょ? 私の攻撃手段がその二つだけなのは」

「ああ、分かっている。で、だ。こっちも条件付きというのはどうだ?」


 フェンは右のリングブレイドをホルダーから引き抜いて、ドライのほうへと地面を滑らせる。

 怪訝そうにドライはそれを拾い上げる。


「エゴタイト製の武器ね。それが?」

「フィーアに確認したんだが、お前でもそのリングブレイドがどんな状態か分かるんだろ?」

「そりゃ、ここまで徹底したプロテクトをかけてたら、私じゃなくても分かるわよ。これじゃ、所有者まで機能に触れる事は出来ない。つまりはこれが条件?」


 興味を失ったのか、ドライはフェンに向けてリングブレイドを放った。フェンはハンドル部分を見極めて、うまくキャッチする。


「まぁ、そうだ。ホルダーの方もエゴクラフトなんだが、戦闘に関わる機能は封じてある。さすがにホルダーの全機能を封じると抜く事すら出来なくなるからそれは認めてもらうぜ。

 で、オレの方の条件はそれだけ、お前は先に伝えた二つ以外だったら、魔法を使ってくれてかまわない。それと、もう一つ。ツヴァイ」


 名を呼ばれてツヴァイは頷いて、ドライへと掌を向ける。一瞬だけドライの周囲に無数の小さな魔法陣が生まれて弾けた。そして、次の瞬間、様々な武器が床に突き刺さる。

 長剣、手斧、槍、ハルバード、ダガー、サーベル。リングブレイドもあれば、突く事に特化した武器である刃なき剣エストック、幅広の刃に対して握りが九十度なっているカタール等。ちょっとした武器の見本市だ。


「さすがにそっちも素手じゃやり辛いだろ。どれでも使いやすいのを選べよ」

「まぁ、ありがたい心遣いね。感動するわ」


 皮肉な口調で、ドライは周囲に並ぶ武器から、一番小さいダガーを引き抜く。


「……武器を選んだという事は、条件を呑んだ。そうとらえていいんだな?」

「そうね……。勝敗の決め方は?」

「どちらかの戦意喪失。あるいは意識喪失。そんなところでどうだ?」

「後ろのあいつ等が手を出してきた場合は?」

「無条件でオレの負けで良い」


 ドライは目を細め、口角を吊り上げた。


「いいでしょう。悪くないわ。で、いつ始めるの?」


 フェンは左側のリングブレイドも引き抜いた。


「今から。たった今からだ」



 第七章 完


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