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ゴーストの娘  2

 敵の竜騎兵ならともかく、クジラから反撃を受けるなど、ゴーストにとっても初めての経験だった。

「なんだ、あのマッコウクジラは? あれは、あの竜騎兵の指示ではあるまい? あのタイミングでその暇はなかった。ではやはり、あのマッコウクジラが自分で判断し、私を攻撃してきたのか? もしや…」

 それだけの知能があるマッコウクジラに、ゴーストは心当たりがなかったわけではない。

「…まさか、あれはピーターなのではあるまいな。今は暗闇でよく見えなかったが…。もしも、もしもあれが本当にピーターなのなら、ぜひともハマダラカへ連れ戻りたいものだ。ああ、そのためにはどうすればいいだろう? どんな作戦が可能だろう…」

 その答えは決まっていた。

「そうだ、あのヒトリ竜騎兵…、いや、名はスミスといったな。あのスミスを絶対に逃がしてはならないということだ」



「あのザトウクジラめ、まだ私たちをつけてくる」

 とジャネットはつぶやいたが、本当にそのとおりだったのだ。

 ランスとラムを打ち合わせたあと、今もゴーストは闇に潜んで2度目の攻撃チャンスをうかがっているが、そんなことにはお構いなく、ザトウクジラの声は背後から聞こえ続けるのだ。

「これはもう絶対におかしい。なぜ野生のクジラが、マッコウクジラのあとをつける必要がある?」

 ごくわずかずつ目立たないようにだが、チビ介が進路を変えていることにジャネットは気がついた。

「そうか、いいアイディアだね、チビ介。湾内へ戻ると見せかけて、実はノーマン島わきの海峡をかすめ、外海へ抜け出ようというのか。外海は深く、シャチをまくにはよい方法だわ」

 泳ぎの邪魔になるラムはすでに片付けてあり、ジャネットはランスの用意に取り掛かった。

 盾も広げ、一応の準備が整ったところで、ほっと息をつくことができた。

 いま自分が置かれている状況を、冷静に見つめる余裕が生まれたのだ。

「鳴き声はまだ聞こえるから、私の後ろには例のザトウクジラがいる。その後ろからゴーストが追ってきているのも間違いない。だけどザトウクジラとゴーストとは、どういう関係なのだろう。いくらゴーストでも、ザトウクジラを飼いならすことができるとは、とても思えないが…」



 ミミダマシの発する音を頼りにジャネットを追跡しながら、ゴーストは眉を上げた。

 そして念のため、海図を調べたのだ。

「なるほど。何かおかしいとは思っていたが、スミスはいつの間にか進路を変えたのだな。私に気づかれぬよう、時間をかけてわずかずつ舵を切ったか。なかなかうまい作戦だが、私をあざむくことはできなかったわけだ…。狭い湾内から外海へ出るつもりか。外海なら深海へ逃げ込むことができるからな」

 唇をゆがめ、ゴーストはかすかに笑った。

「しかしスミス、その作戦には大きな欠点があるぞ」

 腕時計をのぞき込んで時間を確かめ、ゴーストは確信した。

 一ヶ月に2度、満月と新月の夜にノーマン海峡が激しく渦を巻くことをゴーストは知っていたのだ。

「スミスめ、あの若さでは無理もないが、渦潮のことが頭からすっかり抜け落ちている。時間もころあいか。おまえがノーマン島の海峡に差し掛かるころ、ちょうど引き潮がピークを迎えるのだ。しかも今日は、よりによって流れが最も激しい大潮ではないか。海峡は普段よりも激しく渦を巻き、大嵐のようになるに違いないぞ」



 チビ介に導かれるまま、ジャネットは海峡への接近を続けたが、やがて異変に気がついたのだ。

「どうしたのだろう? 今日は海水が普段よりもずっと速く流れている」

 海峡では海はぐっと幅が狭まり、まるで廊下のようになる。

 そうやって岬とノーマン島の間を抜けてゆくのだが、ひれを動かしてもいないのに、押し寄せるように流れる水が、今ではチビ介の体を背後から強く押しているのだ。

「なんだ? どういうことだ?」

 その水流がついには渦潮へと変化したことにジャネットが気づいたときには、すべてが手遅れだった。

 渦の中ではすべてが回転し、チビ介すら木の葉のように振り回されるのだ。

 マッコウクジラの巨大なヒレも、この渦の中では何の意味も持たなかった。

「しまった。今夜は満月だということをすっかり忘れていた。満月が海水をひきつけて速い流れを起こし、その流れが狭い海峡で渦を生むのだ」

 ジャネットが後悔したときには、すでに手の施しようがなかった。

 チビ介の体は風車のようにクルクル舞っている。

 潜水服の内部でジャネットは一方に押し付けられ、息まで詰まりそうだ。

 だがそのうち、ジャネットはふとあることを思い出したのだ。

 どこかで耳にした古い記憶だ。

 先輩の古参竜騎兵の口から漏れた言葉だったような気がする。

『水面では激しく流れていても、海底近くの流れはそれほどではないものだ』

 あの古参竜騎兵も渦の中に落ちたことがあるのだろうか、とジャネットは思ったが、とにかく今は信用するしかない。

 強い水流の中で苦労して、ジャネットはチビ介に指示を出した。

「深度を取れ。緊急潜水せよ」

 ジャネットの指示に、チビ介はすぐに反応した。

 すべてのひれと筋肉を動員して水を蹴り、下を向こうとしたのだ。

 だが簡単なことではなかった。

「くそっ、大きな体は渦の力をよけいに受けやすく、体を安定させることさえ難しい。チビ介などさしずめ、嵐の空を飛ぼうとする無謀な飛行船のようなものだ」

 だがそれがかえって、ジャネットにはヒントになったのだ。

「飛行船だって? 飛行船なら、取っておきの急降下法があるではないか」 

 とっさにチビ介を眺め、ジャネットは大きな目玉と見つめ合った。

 その表情に何かを感じ、チビ介は心配そうな顔をした。

 しかしジャネットは決心を固めていたのだ。

「うまくいくかいかないか、一か八か、この方法でやるしかない」

 まず口を開け、ヘルメットの中でジャネットは精一杯に息を吸い込んだ。

 肺の中を空気で満たしたのだ。

 そうしておいて、ジャネットは潜水服のK弁に手を伸ばした。

「よし、一気に開くぞ」

 K弁を開くと、潜水服内の空気は一瞬で抜け、すべて泡となって外部へ排出されてしまう。

 空気のなくなった後には、もちろんすぐに水がやってくる。

 あっという間に潜水服の中を満たし、水はジャネットの体を完全に包んでしまった。

 もはや小さな泡一つ残ってはいない。

 海水で満たされた潜水服は、石のように重くなった。

 その重量が、海底へ向けてチビ介の体をぐいと引いた。

 それを利用して、チビ介は深度を稼ぐことに成功したのだ。

 あっという間に海底が近づいたが、うまくブレーキをかけ、岩だらけの場所にチビ介は腹ばいになることができた。

 もちろんすぐにチビ介は潜水服の中へ空気を吹き込み、海水をすべて押し出してくれた。

 肺いっぱいに空気を吸い、ジャネットはほっと息をつくことができたのだ。

「あの古参竜騎兵の言っていたことは本当なのだ」

 海底は上部よりもはるかに静かで、水流はチビ介の胸びれをなびかせるほどでしかなかった。



 大きく迂回し、ゴーストは海峡の出口で待ち構えていた。

 海峡の渦といっても、せいぜい一時間ほどしか続くものではない。

 そのさなかへスミスが自ら飛び込んでくれるなど、なんという幸運だろう。

「ふん、幸運か。あの渦の中でスミスは相当ひどい目にあっているに違いない。元気がいいのも結構だが、『若さ』とは『無知』という意味でもあるのだな」

 海峡の渦はすっかり治まり、今ではなんでもないただの海流でしかない。

 ゴーストは2匹のシャチを眺めた。

「では諸君、そろそろ出かけようか。なんとしてもスミスを発見するのだ…。アルファ、私とおまえは海峡の中央部をゆっくりと前進する。デルタは右側につけ。よく耳を使え。どんな気配も逃すな。行くぞ」

 どこに隠れているかわからない敵を捜索しつつ前進するのは、ゴーストでなくても神経を使う仕事だった。

 聴覚を極限までとぎすませ、何者も聞き逃さないよう注意するしかないが、ゴーストは楽観していた。

「スミス一人ならともかく、ピーターの体はそうそう隠れることはできないということさ。あれだけの体を隠せる岩陰など多くはない」

 そう考えてゴーストはじりじりと前進を始めたが、海峡のちょうど中心あたりに差し掛かったときに、奇妙なものが突然目に飛び込んできたのだ。

「あれは何だ? あそこで何が光っているのだろう? 電灯のように見えるが…、ふふふスミスのやつめ、とうとうやけくそになったか」

 ゴーストの目に入ったのは、潜水服のヘッドライトだったのだ。チビ介を海底に腹ばいにさせ、ジャネットはその隣に身を潜めているが、なぜかヘッドライトのスイッチが入ったままなのだ。

 オレンジ色の光は水中を切り裂き、何十メートル先からでも見ることができた。

「ヘッドライトが点灯していることにスミスは気づいていないのか? それとも渦の中で、とうとう気を失ったか」

 ランスを手に、ゴーストはじりじりと接近を続けた。

 ヘッドライトは相変わらず灯ったまま、チビ介にも何の動きもない。

 海底に腹をつけたまま、石のように動かないのだ。

 手に力を加え、ゴーストは狙いを定めた。

『突撃せよ』の合図を、アルファは今か今かと待っている。

 いくら頑丈なヒトリの潜水服でも、ランスを突き刺すと、ヘルメットのガラスは粉々になった。

 ランスが突き通り、ヘルメットを串刺しにしたのだ。

「なんだ…?」

 しかしゴーストは勝利を得たのではなかった。

 どうも何かがおかしい。

 スミスが一瞬で絶命しても不思議はないが、ピーターが何も反応しないのは奇妙ではないか。

「ピーターどうした? 私がわかるか?」

 だがやがて、ゴーストは静かに笑い始めたのだ。

「してやられた…。いっぱい食わされたぞ」

 中身のないヘルメットからランスを引き抜き、腹立ちまぎれに、ゴーストはかたわらの大岩をガンとたたいた。

 でこぼこして細長く、似た形をしているから、マッコウクジラが伏せている姿だと今の今まで思っていたのだ。

 だが本当にただの岩でしかなかった。

「スミスめ、潜水服を捨てて、生身で逃げ出したか…」

 ゴーストはシャチたちを振り返った。

 4つの目玉が指示を待っている。

「スミスはもうすでに遠くへ去っているだろう。今から後を追っても無駄か。いや待てよ…、やつの行き先は見当がつくではないか」

 指示を受けた一瞬後には、シャチたちは全力で水を蹴っていた。進路は真西を向いている。

「潜水服なしで、スミスも遠くへは行けまい。指揮所へ戻ったと考えるべきだ」

 ゴーストは、シャチたちに新たな指示を与えた。

「よしおまえたち、ちょいとネジを巻くぞ。最高速度を出せ。なんとかスミスに先回りをしたいものだ…」



 水面に背中を出し、チビ介はスピードを出すことができなかった。

 大きな波がぶつかると、潜水服を着ていないジャネットを振り落とす心配があったのだ。

「ねえチビ介、このあたりに船のエンジン音は聞こえない?」

 呼吸口からボッと息を吐き出して、チビ介は返事をした。

「なんですってチビ介? 船が近くにいるの?」

 ボッともう一度同じ返事があり、ジャネットを喜ばせた。

「いいわチビ介、その船へ向かって進みなさい。でもまさか、ハマダラカの巡洋艦だったりしないわよね…」

 もちろんジャネットの心配はピント外れだった。

 やがて見えてきたのは、指揮所の沖合いにイカリを降ろして待機する高速艇だったのだ。

「なあんだ、味方の船なんだわ。指揮所の桟橋が混んでいるから、ここに待機しているのか…。待てよ、この船にはまだグリーンブックの手も及んでいないかもしれない」

 ジャネットは、チビ介を高速艇へと接近させた。

 真下まで行き、いかりと船体をつなぐ鎖を見上げたのだ。

「あっ、タバコの匂いがする」

 人気のない甲板に用心深く降り立つと、ジャネットは鼻にしわを寄せた。

「誰かが吸っているんだわ。どこだろう?」

 まるで敵船に忍び込んだかのように、ジャネットは足音を消して歩いた。

「あっあそこだ」

 ある角を曲がると、前方に小さな光が見えてきた。

 船べりに寄りかかり、男が一服しているのだ。

 身長はそこそこあるが、どことなく太っていて、まるでタヌキのような印象を与える男だ。

 髪は薄く、頭蓋骨の丸い形がよく目立つ。

「艇長…」

 忍び寄ってささやくと一瞬はびくりとしたが、艇長は振り返ってジャネットの顔に気づいた。

「なんだスミスか。こんなところで何をしている? おまえを乗船させた覚えはないぞ」

「アップル大尉から事情を聞いていませんか?」

「聞いてるよ。ゴーストの娘のことだろう? そうか、おまえがアポロンを連れ出す役だったのか」

「でもそれが、なんだかおかしなことになってしまって…」

 ジャネットの口から説明を聞き終えると、艇長はとたんに渋い顔になった。

「やれやれ、そんな面倒に巻き込まれているのかい」

「無線機を貸してもらえませんか?」

「かまわないが、どこへ連絡するんだ? 変なことをしゃべって、グリーンブックの耳に入っても知らないぞ。こんな大騒ぎのさなかなんだ。司令部あての通信はすべて傍受されているに違いないぜ」

「そこはうまくやります。人目に付かないよう、私を無線室まで連れて行ってください」



「大奥様、お電話でございます」

 ベッドのそばへ行き、声をかけてもマーサはなかなか目を開かなかったが、家政婦のロマンス夫人は辛抱強く待ち続けた。

「アリス、なんですって?」

 と、少ししてやっと目の代わりにマーサの口が動いたが、その声はいかにも眠そうで、まだ半分以上夢の世界にいるのだろう。

 だがとうとうマーサは両目を開き、ロマンス夫人を見つめた。

「どうしたの、アリス?」

「大奥様、お電話でございます」

「こんな時間に? いま何時?」

「午前2時を回ったところです」

「なんて時間。私に電話ですって? こんな時間に電話をかけてくるなんて、どこの非常識者かしら」

「お孫様でございます」

「ジャネットなの?」

「はい、大奥様」

 ベッドを抜け出し、マーサは電話室へと急いだ。

 2世紀前から存在している古い大きな屋敷で、スミス提督が生きていたころは人の出入りも多く、真夜中の緊急電話など珍しいことではなかった。

「でもあのころは、秘書や下士官が24時間待機していたものだわ」

 そのスミス提督が死んで、もう何年にもなる。

「月日がたつのは本当に早いものね。でも祖父のあとを継いで、ジャネットまでが海軍に入らなくてもよさそうなものを」

 ここでマーサは、自分の夫が作成した奇妙な遺言のことを思い出した。

「そういえば、あの遺言がすべての発端なのだわ。『ジャネットが海軍に入らないと、自分の遺産は誰にも相続させない』、というあの遺言は、かなりの物議をかもした。それを解決するために、ジャネットはみずから犠牲になったようなものね」

 ロマンス夫人の手で、電話室はすでに明るく照明され、フックから外された受話器が立てかけて置かれている。

「もしもし…」

 おずおずとした声に答えたのは、若い元気の良い声だった。

「おばあさん、私、ジャネットよ。こんな時間に起こしてごめんね。緊急事態なの」

 孫娘の活発な表情が、老婦人の頭にはすぐに思い浮かんだ。

 海軍軍人としての生活が、ジャネットには苦痛そうに見えない。

 祖父譲りなのか、おそらく水が合っているのだろう。

 そのことにマーサはほっとした。

「どうしたのジャネット? 何か困ったことでも起きたの?」

「ううん、そうじゃないのよ。ただおばあさんの力を借りたいの」

「緊急事態と言ったね?」

「まあそうね。ねえおばあさん、よく聞いて。竜騎兵指揮所にはアポロンというマッコウクジラがいるのだけど、このアポロンには何か他のクジラと違う特徴はないかしら」

「マッコウクジラのことなんて、私は何も知りませんよ」

「おばあさんの古い友人なら、アポロンのことを知っている人がいるんじゃないかしら。こんな時間で申し訳ないけれど、今すぐに調べてほしいの」

「どうしたのジャネット? いったい何が起こっているの? ちゃんとわけを説明しなさい」

「それがね、おばあさん。そうもいかない事情があるのよ。指揮所に電話できない理由があるの。そこのところをわかってよ」

「まあいいわ、ジャネット。あなたは何かのトラブルの中にいるのね。私にできるだけのことはしましょう。何かわかったら、どこへ電話すればいいの? 指揮所へ電話してはだめなのね」

「指揮所なんかに電話したら、グリーンブックが待ち構えているわ」

「グリーンブック? あの連中とトラブルになっているの? それは深刻な事態ね」

「だからおばあさん、何かわかったら船舶電話を経由して、竜騎兵部隊の高速艇003号に電話してほしいの。お願いできる?」

「わかったわ。高速艇003ね。マッコウクジラの名はアポロンだったわね」

「うん、おばあさんありがと」

 これだけ言って、ジャネットは電話を切ってしまった。

 ロマンス夫人を振り返り、マーサはため息をついた。

「自由奔放なのはいいけれど、若い娘が元気すぎるのも考え物だわ…」

「はい、大奥様」

「アリス、すまないけれど、部屋へ行って運転手のジョンを起こしてきてくれるかい? 年はとっているけれど元は竜騎兵だから、例のマッコウクジラ、なんといったかしら…、アポロンのことを何か知っているかもしれないからね」



 電話局を経由して陸上と話す通話を隣でじっと聞いていたが、ジャネットがマイクロフォンを置くと、艇長はあきれた声を出した。

「へえスミス、おまえがスミス提督の孫だというのは本当だったんだな」

「あら艇長、信じていなかったんですか?」

「ただの噂か、与太話だと思っていた。それで、ビッグ・マーサはいつ返事をよこすんだ?」

「見当もつきませんが、それまで待つしかないですね。私のクジラはどこです?」

「チビ介は水槽に収容した。いま餌をやっているところだ。点検させたが、チビ介にケガはない。それにしても、ゴーストからよく逃げてこれたな」

「ただ運がよかったからですよ。だけど音だけで姿の見えないザトウクジラのことといい、わけがわかりません。指揮所の沖にこの船がいてくれて、助かりました。指揮所はグリーンブックに押さえられているし…。そうだ、アップル大尉はどうなりました?」

「ふふふ、おまえは自分の話ばかりして、上官の安否は後回しかい? まあいいや、噂だがアップル大尉は逮捕されたらしい。身柄はグリーンブックが押さえているとさ」

「何の容疑でですか?」

「それがよくわからん。グリーンブックの連中はエリート気取りで、カキよりも口が固い。少し探りを入れてみたが、『一切話せない』とにべもなかった」

「そうなんですか」

「さてスミス、おまえは少し休息したらどうだ? アポロンは行方不明、外ではゴーストも待ち構えているというのでは、ビッグ・マーサからの連絡を待つ以外、することがあるまい? アップル大尉の部下だということで、おまえもグリーンブックからマークされているから、騒ぎがすむまで、この船の中に隠れている他なかろう」

「この船はいつ出港するんですか? 私はシルビアのことが気になります」

「この船は、燃料補給のために指揮所へ戻ってきたんだ。補給はもうとっくにすんだが、なぜか司令部から『出港を待て』と命令がきた。緊急に乗船させたい人物がいるそうだ。今はそいつの到着を待っているんだよ」

「それは誰なんですか?」

「驚くなかれ、パンプキン大尉だときた。この高速艇は、これからグリーンブックの指揮下に入る。だからスミス、おまえは船倉にしっかり隠れているんだぞ…」


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