7th listening
撫子
「何かしらね……この作者、もしかして面倒事が起きるとそれをさらにこじれさせる性質でもあるのかしら……」
東真
「何だササキ、また突然に」
撫子
「突然ついでに話すけど……あ、ちなみにこれもベタだけど、良い話と悪い話のふたつがあるんだけど、どっちから聞く?」
東真
「良い話から聞こう」
撫子
「あら、即答ね」
東真
「悪い話を聞いてから良い話を聞くというのは、つまり自分の心に予防線を張る行為だ。そんなもの、悪い話が想像を超えて悪ければどうにもならん。問題はどれだけ覚悟を決められるかによる。実際のところ、それさえできていれば順番などどうでもいいことだ」
撫子
「まあ何とも、あんたらしい答えだわ……じゃ、良い話からするわよ」
東真
「聞こう」
撫子
「この作者、ついに長かった不調を脱して、ようやく筆が乗り始めたらしいわ」
東真
「ほう、それはなるほど、紛う事無く良い話だな」
撫子
「だわね。これまでさんざ時間を浪費してきた分、本人もこの復調はかなりうれしいみたい」
東真
「当然だろうな。私の身に例えれば、剣を長らく振るえなかったものが、ようやくに振るえるようになったのも同じだろう。喜びもひとしおのはずだ」
撫子
「うーん……確かにそこは悪い話さえ無ければ、素直にそう言えるわね……」
東真
「ん、何だ? その悪い話というのは作者とやらの復調と直接の関係でもある話なのか?」
撫子
「直接どころか、直結だわね。ふたつでひとつってくらいに」
東真
「むう……どうも分からんな。いいからさっさと悪いほうの話もしろ」
撫子
「分かってるわよ。そうねえ……まあ一言で言うと、『過ぎたるはなお及ばざるが如し』的な感じかな?」
東真
「……は?」
撫子
「不調は脱した。筆は乗ってる。これに不足なんてあるわけないでしょ? とすれば、問題なのは不足じゃなくて過足なのよ」
東真
「……というと……?」
撫子
「この作者、今までまったく湧いてこなかったアイディアが頭の中に浮かびすぎて、書くペースが全然おっつかないらしいの」
東真
「それは……またひどく受け止め方が難しい話だな……」
撫子
「ある意味の反動でしょうね。これまで詰まって水がまったく出てこなかったホースが急に通ったら、水圧がものすごいことになってたっていうのかしら。もう蛇口を全開にしたみたいな勢いってやつ?」
東真
「だがそれ自体も決して悪いことではないだろう。アイディアが複数出てきたことはむしろ喜ばしいことのはずだ。とりあえず浮かんだものを一作一作、落ち着いて仕上げていけば、しばらくの間は不調に陥る心配をする必要は無くなるだろうし、悪い部分があるような話とは思えないが……?」
撫子
「それがそうできるなら、この作者はメンドクサくなんかないのよ」
東真
「ん……?」
撫子
「あのね、この作者、はっきり言って絶望的に不器用だから、ひとつひとつ順番にとかなんて利口なことが出来ないのよ。頭に浮かんだアイディアは即座に書かないと気が済まない。道理や理屈はそっちのけ。完全に理性より本能で生きてるタイプね」
東真
「う……む……そこまで感覚や欲求の類に弱いのか、その作者とやらは……」
撫子
「理性は仕事で使い切っちゃうから、趣味に割ける理性は無いみたいよ?」
東真
「……そんなデジタルな理性なんてあるのか……?」
撫子
「ものの例えよ。仕事や対人関係で理性を使いまくってるのに、趣味でまで理性を使いたくないって、そういうこと。気持ちは分からないでもないわ。何事も緊張と弛緩のバランスは大切だからね」
東真
「ふうむ……」
撫子
「で、今のところこの作者、三本同時執筆してるみたい」
東真
「……っ!」
撫子
「ちょっと……絶句しないでよ。言わなくてもあんたの考えは分かるけどさ。そう、一本に限定してすらコンスタントに書き続けることが難しいやつが、何をとち狂って三本同時執筆なんてイカレたことやってんのかって、あたしも思ってるわ」
東真
「分かってるならなんでそんな馬鹿げたことをしてるんだその作者はっ!」
撫子
「だーから、それがこの作者のメンドクサいとこだって言ったでしょ? 分かってても自分の行動が管理できないの。下手な子供よりタチ悪いのよ」
東真
「ひどい話だな……それで、そんな無茶をしてどうにかなりそうなのか?」
撫子
「『どうにかなるか』じゃなくて、『どうにかする』しかないのよ。早くも年末進行で実生活も多忙を極めてるって現実はあっても、やるべきことはやってもらわないとね」
東真
「ほお、珍しいこともあるものだ。お前と意見が完全に一致するとは」
撫子
「人間、どういった行為にも責任は伴うものよ。この作者にもその辺りは自覚してもらわないとね。『趣味だから』っていう言い訳は一番卑怯だと思うからさ」
東真
「一言半句の異論もなく同意だ。お前からそこまでまっとうな意見を聞けると、何とはなしにうれしくなるな」
撫子
「なによう、褒めるんだったらもっと素直な褒め方しなさいよ」
東真
「ふふっ……」
撫子
「ったく……なんかあんたも場慣れしてきちゃった感じだわね……」
東真
「これだけ長くやらされていれば、おのずと慣れるさ」
撫子
「ま、悪いこっちゃないからいいけどさ♪ では皆様、また次回ー♪」