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5th listening

撫子

「えー……番組(という体の文章)開始前に前回、不適切な発言が多々ありましたことを、ここにお詫びいたします。大変、申し訳ありませんでした……」

東真

「……まあ、お前にしては殊勝だな。やったことに対して考えれば当然のことだが……」

撫子

「深く反省しております……」

東真

「私にまで頭を下げんでもいい。とにかく今後は落ち着いて進行さえしてくれればな」

撫子

「はい……」

東真

「で、今回はどんな質問だ。相談コーナーとやらはまだ続いてるんだろう?」

撫子

「うん、一通目については作者も冗談半分だったみたい。何せ元々の趣旨が『軽いノリの私的執筆考』だからね。堅い質問で場を堅苦しくしちゃいけないって、気を遣ったみたいだけど、あたしの機嫌が悪すぎてどうも空回りさせちゃった……」

東真

「自覚があって反省もし、謝罪もしたのだからもういいさ。あまり責任を感じ過ぎると、それこそこの場が堅苦しくなるぞ」

撫子

「そうよね……何とか切り替えてやってみるわ」

東真

「頼む」

撫子

「はーい、じゃあ二通目のご相談♪ ふむふむ……『最近、見たい時代劇を借りようと近所のTSUTAYAに行ったのですが、切なくなるほど置いていなくて悲しくなりました。そこで思ったのですが、最近の方々はあまり時代劇を見ないのでしょうか。黒澤明監督の作品はどこでも置いていますが、そんなものはいつでも見れます。そうでない、もっと別の娯楽色が強い時代劇の需要というものはもう無くなってしまったのでしょうか?』……と、えらく前回とは毛色の変わった質問してきたわね……」

東真

「お前の言った通り、前回の相談が単なる茶濁しだとすれば、今回のそれが作者とやらの本音なんだろう。内容が地味なのも本音ゆえだろうな」

撫子

「ふーむ、時代劇ねえ……確かにこの作者、それが高じて『剣客少女』書いたくらいだから、あたしらにも直結した悩みだわね」

東真

「そうなのか?」

撫子

「池波正太郎さんって有名な作家さんは知ってるでしょ?」

東真

「少しくらいなら知っている。確か『鬼平犯科帳』の作者だな」

撫子

「ある意味、一番の有名どころはそれよね。けど、他にも数え出せばきりが無いほどこの作家さんは時代劇を書きまくってるのよ。例えば『必殺仕事人』ってあるじゃない?」

東真

「ああ、随分と長くシリーズ化されてる時代劇だな」

撫子

「正確にはこれ、最初のシリーズである『仕掛人・藤枝梅安』が池波先生の原作なの。そしてそれの受けが良かったんで、池波先生は原案という形で続編が次々と作られたってわけ」

東真

「ほお」

撫子

「他にもよく知られてる作品は多いわ。『雲霧仁左衛門』でしょ? 『真田太平記』でしょ? それから絶対にはずせないのが、もちろん『剣客商売』よ♪」

東真

「なるほど……どれも内容までは知らんが、名前は聞いたことのあるものばかりだな。雲霧に真田に剣客……ん? 剣客……商……売?」

撫子

「何か気付いた?」

東真

「……あれ……もしかしてこの、剣客……って?」

撫子

「はい、ご名答ー♪」

東真

「あ、いや……私はまだ答えまでは何も言っていな……」

撫子

「やっぱり分かるわよねー♪ そう、これの作者は池波正太郎さんへのリスペクトが強すぎるあまり、あたしらの『剣客少女』を書いたのよ♪ 内容こそ全然違うけど、もじったタイトルをつけたのも、そういう理由からなの♪」

東真

「はあ……」

撫子

「思えば『剣客商売』も何度かドラマ化されてるわよねー♪ でも……藤田まこと版のやつはナシよ。あたしは断然、加藤剛さんと山形勲さんが秋山親子を演じてた1973年版が最高だと思ってるわ♪ 知ってる? 若い頃の加藤剛さんって、ほんとカッコイイんだから♪」

東真

「……おーい、ササキ。楽しそうなのはけっこうだが、どうも論旨がズレ始めてるぞ……」

撫子

「え? あ、ゴメンゴメン♪ あたしも時代劇好きなもんだから、つい勝手に盛り上がっちゃってさー♪」

東真

「……お前が時代劇好きなんて設定、どこかにあったか?」

撫子

「うーん、そこをつついちゃうと長くなるわよー♪ 一作目の中であたし『春雨じゃ。濡れて参ろう』ってセリフ言ったの覚えてる?」

東真

「……は?」

撫子

「このセリフ言ってる時点で気付かないかなー♪ こんなの、よっぽど時代劇が好きでないと言わないセリフよ?」

東真

「そ、そう……なのか……?」

撫子

「皆様ご存じ、『月形半平太』の有名なセリフじゃない♪ まあこれはさすがに古すぎて知ってる人は少ないとは思うけどさ♪」

東真

「……」

撫子

「私的には『月形半平太』とくれば、セットで思い出すのが『旗本退屈男』だわねー♪ 市川右太衛門さんがさー、こう見得を切るわけよー♪ 天下御免の向う傷ーって♪」

東真

「ササキ……もうそろそろ落ち着け……お前、前回とはまた違う意味で周りが見えなくなってきてるぞ……」

撫子

「右太右衛門さんっていうと、次男はあの北大路欣也さんよー♪ 正直、北大路さんが主演で面白かった時代劇ってほとんど無いけど、『動天』は文句無く面白かったなー♪ 多分さー、あたしが思うに北大路さんって時代劇は時代劇でもチャンバラと相性が悪いんだろうねー♪」

東真

「……」

撫子

「あ、チャンバラといえば高橋英樹さんね。若い頃の英樹さんは、そりゃあもう殺陣が綺麗でさー♪ ああいうタイプってなかなかいないのよー♪ 乱暴っていうか、リアルっていうか、そういう殺陣が上手い人なら何人もいるけど、踊ってるみたいに綺麗な殺陣の出来る人って、あたしの知る限りだと高橋英樹さんくらいしか知らないわー♪」

東真

「……駄目だもう、こいつ……」


このあと結局、撫子さんの時代劇に関する独演会は二時間近くに及びましたが、最終的に忍耐力の限界へ達した東真さんの大喝で、撫子さんのおしゃべりは強制終了となりました。


皆さんもいくら好きな分野の話題でも、聞く側の人間のことも考え、相応の節度をもってお話をなさいますよう、お気を付け下さい。


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