二人三脚
つき子さんは私の足首と自分の足首をしっかりと結び、こちらを見据えた。
「いい?練習はしていないから、うまくいかなくて当然よ。でも、諦めないで、一緒にゴールしましょう。」
不安で揺れていた私の心を、つき子さんはそっと鎮めてくれた。
鎮まったと同時に、つき子さんと一緒に走る——ひとつになるということに、胸が高鳴った。
「……清水さん、ごめんなさい。ありがとう。」
つき子さんは200m走とリレーのアンカーがあって、忙しいのに。私を手伝っている場合じゃないのに。
私が俯いて言うと、つき子さんはふっと微笑んだ。
「気にしないで。私がやりたいのだから、いいのよ。」
つき子さんの言葉に涙が出そうになった。
ありがとう、つき子さん……。
スタートラインに着くと、不思議と気持ちが落ち着いてきた。
隣に居るのがつき子さんで、普段ならどきどきして堪らないはずなのに、心は静かに凪いでいた。
「位置について、よーい……。」
生徒会の人がピストルを構える。
つき子さんと私はあらかじめ決めていた足をそれぞれ出す。
そして、どちらともなく顔を見合わせ、頷き合った。
パン!
ピストルが鳴り響くと同時に、私たちは走り出した——。
「2着。まあまあね。」
「2」と書かれた旗の前に立って、つき子さんは束ねた長い髪を揺らしながら微笑んだ。
私は必死で息を整えながら、こくこく頷いた。
つき子さんと一緒に、ひとつになって走った。
足並みは自然と揃って、二人で風になった気分だった。
「あなた、凄いわ。私に合わせて走れるなんて。」
私は首を振った。違う、合わせてくれたのは、つき子さんだよ。
「「ありがとう。」」
同時に自然に言葉が零れて、私たちは笑い合った。
そんな二人を五月の爽やかに澄み渡る空が見守っていた。
その後、つき子さんは見事200m走とリレーを一着で終え、クラスを優勝に導いた。
みんながつき子さんを囲んだ。
おめでとう、と私が言うとつき子さんはにっこりと微笑んだ。
がやがやと騒がしい周囲に言葉はかき消されてしまったけれど、つき子さんの桜唇は、確かに『よく頑張ったわね。』と動いていた。
私は、つき子さんと一緒に走れた高揚感と、つき子さんを本当に好きだと言う気持ちにに身を任すように浸った。