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5757  作者: 華月 ゆき
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初夏

「櫻宮さん。こちらは終わったわ。」

 つき子さんはしゃがんでいた状態から立ち上がり、軍手を外した。膝で折られていたスカートのプリーツがはらりと広がる。そして軍手に付着した土を払う。

 「あ、うん!私も、もう少しで終わると思う。」

 私はスコップを持ったまま、つき子さんを振り仰いだ。

 きらきらした木漏れ日が梢の隙間からこぼれおち、つき子さんを彩っている。つき子さんの艶やかな髪が木漏れ日で輝き、その健やかな美しさに私は目を細める。

 つき子さんは逆光の中で微笑んだ、気がした。

 「そう。では、私は記録を書いてくるわね。」

 つき子さんは踵を返すと、軍手とスコップを持って校舎の中に入って行った。

 つき子さんは成績優秀の上に、手際もいい。

 平凡な私ではなかなか追いつけないけれど……頑張らなくちゃ。

 滲んできた額の汗を拭って、私は花壇の手入れを再開した。


 初夏。

 つき子さんと出逢って——高校に入学して一月が経った。

 少しは、学校に慣れてきたけれど、まだまだ知らないことばかりで緊張する毎日だ。

 勉強に付いて行くのも大変だけれど、授業中につき子さんの端整な横顔を覗き見ては、元気をもらっていた。

 好きな人の姿って、すごい。

 けれどつき子さんとの距離は「同じ委員会の人」から縮まることもなく、ゆるりと過ぎて行った。

 私は時折つき子さんのそばに居られるだけで幸せだった。

 時折向けてくれる微笑みも、かけてくれる言葉も、どんなにささやかなことも私にはすべてが宝物だった。

 だから、あの時手を挙げた私を少し誇らしく思っていた。


 「清水さんて、相変わらずの人気だねぇ。」

 昼休み、机を三つ合わせた一辺の上でお弁当を突つきながら、のんちゃんがのんびりと言う。

 「うんうん。でも清水さんなら無理ないよ~。」

 はなちゃんは取り巻き——そう評しては失礼かもしれないけれど、他に言葉が浮かばない——に囲まれているつき子さんを見て、ほぅと溜め息をついた。

 つき子さんの机を囲むように、大勢のクラスメイトがお弁当を持って集っている。

 「そうだね……。」

 私は卵焼きを持ったまま俯いた。

 私はあの中には入って行けない。つき子さんのことは好きだけれど、他の人は……。

 「あ~。香蓮ちゃん溜め息。どうしたの?」

 「もう、はなってば鈍いなぁ。香蓮ちゃんは清水さんが好きなんだよぅ。」

 俯いた私を心配そうに覗き込んだはなちゃんに、のんちゃんはのんびりと突っ込みを入れる。

 そう、好きなの。でも、これ以上は望めない……………え?

 「ええっ!?な、な、な、なんでっ。」

 なんで、私がつき子さんを好きだって、知っているの!?

 声にならない叫びを上げ、私は激しく動揺して卵焼きを転がしてしまった。

 「あ、セーフ。ランチョンマットの上だったねっ。」 

 「もう、希美がびっくりさせるからだよ。」

 のんちゃんの視点は少しずれている。はなちゃんはだめだよ~、とのんちゃん(本名は希美ちゃん)を嗜めた。

 「なっ、なっ、なっ。」

 私はまだ動揺が収まらない。だって、だって、密かに想って、誰にも気付かれていないと思っていたのに。

 「見ていれば分かるよ。」

 のんちゃんはおっとりした表情、けれどまなざしは深く、私を見た。

 「うん。私たち、香蓮ちゃんのこと、好きだからね。」

 はなちゃんが花のようにふわりと笑う。

 「付き合いはまだ短くても、いつも居る友達のことはわかるよぉ。」

 のんちゃんは私を見つめたまま、優しく微笑んだ。

 私はびっくりしたけれど、それ以上に二人の言葉が嬉しくて、胸が詰まった。

 

 つき子さんが好き。

 それは、どんなに望みが薄くても、夜空に月が毎夜昇って輝くように、私の中で変えられない核となっていった。


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