委員会
高校生活が始まって数日、クラスでは委員会決めが行われた。
クラス委員から始まり、図書委員、美化委員、体育委員など……クラス委員以外はそれぞれ二名ずつ配属される。
積極的ではない私は何の委員会にも属さないだろうな、と頬杖を付いてぼんやり思っていた。
「クラス委員?……わたしが?」
つき子さんは柳眉を顰めた。
なかなか決まらないクラス委員に、つき子さんは先生から指名されたのだ。
先生が真っ先に指名するって言うことは、つき子さんは頭もいいんだろうなあ。
つき子さんがクラス委員になったら、きっとクラスは助かるだろう。
つき子さんのことを知っている訳ではないのに、そう思わせる、期待を思わず抱かせる雰囲気がつき子さんにはあった。
「申し訳ないけれど、ご期待には添えません。」
つき子さんは学校からの帰りが遅くなると困ること、忙しい身辺を説明してきっぱりと言った。
ああ、と私は残念に思う。
先生はふむ、と黒板を見直して、つき子さんに向き直った。
「そう……それじゃあ、美化委員はどう?委員会の集まりも少ないし。」
「それなら、構いませんけれど。」
つき子さんは軽く顎を引いて答えた。
つき子さんが、美化委員。
他に誰か居ない?と先生がクラスを見回す中。
「わ、私っ!」
気付いたら、私は手を挙げていた。
皆の視線が集中する。
私は居たたまれなくなって今すぐ取り消したかったけれど、思い切って最後まで言った。
「私、美化委員、やります……!」
「災難ね、お互い。」
つき子さんは口元を微かに緩めて言った。
向かい合った机の向こうにいるつき子さんが、美しくてまぶしくて、私はどきまぎしている。
本当に、私立候補しちゃったんだ……。
自分にこんなに行動力があったなんて。
「でも、そんなことを言ってはいけないわね。あなたは立候補したのだし。」
つき子さんが居るから立候補しました、なんてとても言えない。
私はその事実を改めて認識してもじもじと俯いた。
つき子さんはそんな私を気にすることもなく、口を開いた。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私は——」
「し、清水さん、でしょう……?」
私が思わず言うと、つき子さんは目を丸くした。
「驚いたわ。あなた、記憶力がいいのね。私、まだクラスの人の名前、覚えられていないもの。」
それは、相手がつき子さんだから。
そうも言えず、私は誤魔化すように笑った。
で?というようにつき子さんは私を視線で促す。
そ、そうだ。私も、自己紹介しなきゃ……。
自分の名前はあまり言いたくなくて、いつも言い淀む。
「わ、私は……櫻宮香蓮……。」
自分でも、名前負けしていると思う。花を想わす響きの名前は私には似合わない。
いつもこの名を口にすると、相手は意外そうな顔をする。
けれどつき子さんは馬鹿にすることもなく、
「そう、櫻宮さん。素敵なお名前ね。よろしく。」
初めて、私に向かって柔らかく微笑んだ。