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5757  作者: 華月 ゆき
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閲覧ありがとうございます。

本作は百合要素を多分に含みますのでご注意ください。

「清水つき子」

その名前は焼印のように私の心に刻まれた。

清らかに流れる水に浮かぶ月。

不純物を受け入れない冷たく清らかな美しい響きは、つき子さんを表している。

そう思った。



入学式を終え、体育館から教室に移動した私たちはまず自己紹介をした。

眼鏡をかけた先生が出席簿を見、顔を上げて言う。

「えー、皆さん、入学おめでとうございます。私が担任の浅井です。これから一年、よろしく。高校生活はあっという間です。悔いのないよう充実した毎日を送ってください。」

高校生活はあっという間って、親も先生も言うけれど、私には実感が湧かない。

のろのろしている私は、ちゃんと充実した生活を送れるだろうかと少し焦ってしまう。

けれど……あの人に逢えたから。

私は斜め前の席をそっと窺った。

艶やかな髪から覗く横顔。

体育館に行く前、言葉を交わした美しいひと。

彼女に逢えたから、きっと、私の毎日は変わると思う。


「清水つき子です。」

自己紹介の時、つき子さんは教室に凛とした声を響かせた。

思わずはっと見てしまう声音と存在感。

つき子さんをぼうっと見ているのは、私だけではなかった。

つき子さんは出身校、趣味などを淡々と告げた。そして一礼すると、静かに着席する。

つき子。

私はその名前を心の中でなぞった。

つき子。

新しい宝物を手にしたように、その名前を心の中に大切に仕舞った。


ちなみに私は、人見知りでおろおろと喋り、話す内容は支離滅裂、最後に勢いよくぺこりとお辞儀をしたらどっと笑いが起きてしまった。

つき子さんとの自分の差を感じて、着席して俯き、耳まで赤くなった。


とにかく、つき子さんと同じクラスになれたのだ。

私は神に感謝した。

友達に、なんて畏れ多くてとても思えないけれど。

後ろから、気付かれないようにいつでも見られる。

俯いた時にできるまつ毛の影も。はらりと落ちた髪を耳にかける仕草も。

その甘さに私はくらっとした。

薔薇についた夜露が、胸の中に滴るように。

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