出逢い
閲覧ありがとうございます。
本作には百合要素が多分に含まれますのでご注意ください。
仄かに夜空に映える月。
満ち欠けをゆるやかに繰り返し、ぼんやりと、またくっきりと光彩を放つ。
深い闇、墨のような空に落とした一点の光。
神秘的でどこか甘さに満ちた官能。
それはまるで、私の中のつき子さんのようだ。
つき子さんは、それは美しいひとだ。
人形のような小さな白雪色の顔に濃い睫毛に縁取られたぱっちりした瞳、仄かに赤く染まる整った唇。
筋の通った高い鼻梁に艶やかな漆黒の髪。
白い繊手に付いた桜貝を想わす爪。
すっと伸びた姿勢で、声音は凛として涼やか。
どこをとっても美しく、神様が愛して作った繊細な芸術品のようだ。
対して私は平々凡々で、平均的な身長体重、黄色人種らしい肌色で短い髪はくせっ毛。
目だって大きいばかりでバランスが悪く、手足も決して長くはない。
つき子さんのような美しいひとに見られると、萎縮して身を隠したくなるような容姿だ。
それでも。
つき子さんを見つめることは止めなかった。
否、止められなかったのだ。
つき子さんを初めて意識したのは入学式の時だ。
新入生が並んで体育館へ入るとき、前を歩いていたつき子さん。
花に留まる蝶々のように、その流れる黒髪に桜の花びらが一枚付いていた。
私は躊躇いながら、その髪に手を伸ばした。
震える指先で花びらを摘むと、真直ぐな髪がはらりと揺れた。
ぱっと振り返ったつき子さんの瞳に、私は否応なしに吸い込まれた。
なんて美しいひとだろう……。
それが、つき子さんに抱いた最初の感情だった。
「なにかしら。」
つき子さんはどこか冷たさを感じさせる澄んだ瞳で私を見据えた。
「あっ!えっと、あの……。」
私はその瞳の温度と気付かれた事に思わずたじろぎ、ばたばたとみっともなく手を振った。
すると私の手から先程とった花びらがはらりと舞い落ちた。
それを見たつき子さんは、ああ、と微かに顎を引いた。
「とってくださったの。ありがとう。」
「い、いえっ……!」
私はというと、初めて見る妖精のような美人に間近で見られ、恥ずかしくてまともに見つめ返せなかった。
しばらくもじもじと足元の土をいじっていると、後ろのひとから「ちょっと。」と軽く肩を叩かれた。
「へっ?」
びっくりして振り返ると、後ろの人は呆れたように前を指差した。
つき子さんはとっくに前に進んでいた。
それから、式が始まってからの校長先生の長い話や偉い人の話なんて全部吹き飛んでしまった。
ああ、私はあの人と同じ高校に通える。
その事実だけが光の槍で貫かれるように頭の中を巡っていた。