生きてるかー?
俺は紅く塗れた剣を一振りし、元通り鞘に収めた。
足元には切り殺された一人の魔術師…精々二流ってトコか? ぶっちゃけると強くなかった。
気を抜いていなければ結界に囚われることもなかっただろう。
「あー、ヴァルトー? 生きてるかー?」
「………………す」
「す?」
「すげぇ! 『光刃』……やっぱり強い! どうやったら魔法なんて真っ二つに切れるんだよ!」
「え……いや、ヴァルト?」
「なんだよお前っ! かっこいいじゃねぇかよチクショウ!」
えーあー…えっと…なんだ。
俺がなんかちょっとシリアスになってたの全部ってことで把握してOKってことか?
「…………怖くねーのかよ?」
「? なにが? 俺だって盗賊団の一員だぞ? 人が殺されるのも何回も見たし同じぐらいやってきたんだぜ? 怖いとかなにそれ、おいしいの?」
「あー…なるほど」
まぁ、確かに…
荒んでる今の世だ。貴族だったり大商人の箱入り令嬢だったりしない限り人の生き死には身近にある。
「にしても俺、魔術師なんて初めて見た!」
「そーか、そりゃ良かったなぁ…じゃあそれを手土産にして森へお帰り?」
「俺は野生動物じゃねー!」
ベーっ、と俺にあっかんべえをしたヴァルトは結界の外に出てからも俺の傍から離れようともしない。
「はぁ…よし、わかった」
「とうとう受けてくれる気になったか!?」
「おー、いいぞ? ただし、俺を捕まえられたら。んで、俺が勝った暁には金輪際近づかないで貰うからな?」
「よっしゃあ! 受けて立ってやるぜ!」
「ん…じゃあ、あそこの樹に目ぇつぶってデコあてて100…10を10回数えたらな? なお、その数をごまかして振り向いたら二度と戦わねぇからな」
「わかった!」
素直に俺が指さした樹に駆け寄ると目をつぶって数を数え始める。
………ふっ、ちょろいな。
「いーち、にーい、さーん、しぃーい…」
「さてっと、急ぐかな…」
ヴァルトが数えている間、俺は道具袋から城からちょろまかしたペンダントになった指輪の形をした魔法道具を一つ取り出す。
移動特殊魔道具、『アンダータ』。使用者の魔力と引き換えに任意の場所へと移動させる今となってはもうそのつくり方どころか構造さえ誰も知らない、希少値Aランクオーバーの…かなり高価なものだ。
「きゅーう、じゅーうっ! 後十が六回!」
「『アンダータ』、行動開始」
俺の掛け声に合わせて指輪が全体的に輝き始め、虚空に、地面に。
幾何学的な魔法陣が浮かびかがる。
「ろーく、なーな、は-ち…」
結ばれ終わった魔方陣がゆっくりと回転を始め、俺の回りにからみ付く。
――――――――――――準備、終了だ。
「『アンダータ』、起動!」
絡み付き回っていただけだった魔法陣が強い光で一瞬瞬き、もうそこには俺の姿はなかった。
「はーち、きゅーう、じゅーう! コレで後は十が三つ! 覚悟しとけよ、『光刃』!」
置いて行かれた事を知らず、ただ秒読みを繰り返す少年だけを残して。