邪魔しないでよ
9/5重複部分があったという感想があったので修正しました。
それだけですので話自体は変わっていません
その建物の門をくぐった一人の少年に建物の中にいた全員の視線が集中する。
世間から爪弾きにされた荒くれ者ばかりが集まるその酒場に、彼のような年若い者が訪れるというのは確かにとても珍しい。
だが、それだけではなかった。むしろ、その最大の理由は他にあった。
「おいおい、お坊ちゃんよぉ…ここはお前みてぇなお上品なヤツが来る様なトコじゃねぇんだよ! 身包みはがされて道にほっぽり出されたくなかったらさっさとお家に帰ってママと一緒に寝てな」
酒場にいた誰かが下品に笑いながら言った言葉をその少年は軽く無視する。
―――――――そう、彼がこの酒場で…否、この界隈で目立ってしまう理由。
それは彼が纏っているこの貧民街では到底手に入れる事ができなさそうな上等の布地でできた――――この場にいる彼らは知らないことだが、この近辺の離宮で近侍を勤めている者の―――――服装と、育ちのよさそうな、猫毛気味な栗色の髪と儚げな風貌。
典型的にこういった薄汚い場所が似合わない。そんな存在だったからだ。
「おい、きいてんのかよ!?」
「―――――――君に用はないよ、邪魔しないで」
さっき声をかけた者だろうか、何の反応も返さない少年に一人の男が食って掛かる。
だが、少年は怯むでもなく…ましてや怯えもせず飄々と答え、男を睨み付けた。
「っの、ふざけやがてぇええっ!」
酒の力も手伝ったのだろう、一瞬にして血が頭に上った男は少年の儚げな風貌にかなりの速度で拳を叩き込もうとする。
――――――殴られた、と、その場にいたたった一人を除いて思った。
「はぁ……邪魔しないでよ」
だが、予想に反して男の手は少年の手で掴まれ、防がれていた。
否……その拳をつかんだ手に力が加わるごとに男の顔が痛みで歪む。そして、男の拳を掴んでいるのと逆の手は男の首元に伸びていた。
全くの空手で、しかも寸止めされているわけだが…もし、彼の手に短剣かナイフの類のものが握られていたら?
もし、寸止めなどされずに首元に…喉元に手が絡み付き、締め付けていたとしたら?
―――――――片手を封じられ、体系が崩れた所を抑えられて身動きが取れない男には、どれだって致命傷になりうる。
「あんまり、抵抗はしないでよ? 邪魔だからって殺すわけにもいかないし」
そういうと少年は男の手を勢いよく振り払った。
それをカダウンターの向こうで静観しているマスターの所までただ歩く。
「―――――――注文は?」
「……『冬の狼が吐き出した神酒』」
「……………わかった」
少年が言ったその言葉を受けてマスターはカウンターの奥にある扉に少年を招きいれる。
「……客か」
その個室の中にいたのはそう目立った風貌ではない…というより、わざと特徴を消しているのではないかと思うほど特徴がない男が酒を飲んでいた。
「……人探しを頼みたいんだ」
「へぇ、誰だ?」
「『光刃』レクス・レイリー。彼の今向かっている所を。
金はいくらでもいい…その代わりできるだけ速く」
「わかった。
…客、お前の名は?」
男…情報屋の問いかけに少年は振り向き沿い静かに笑った。
「僕はリオネル・シルヴァーズ。
覚えなくてもいいよ…僕は単なる、從僕だから」